46: 自分の上位互換を見ると、人生どうでもよくなる
おひさ
その少女を一言で表すなら「美」であった。
青色を主体とした服を着ており、手には氷で作られた綺麗な刀は彼女の美しさを際立たせていた。
「美しい・・・・・ハッ!ボクは何を?!・・・有り得ない、このボクが人間ごときを認めるだと?!」
ナイトメアはスマイルブルーを見て無意識に「美しい」とつぶやいた。だがその言葉はナイトメア自身のプライドにとっては決して許されざる事実だった。
ただ、一見ナイトメアは動揺しているようにも見えるが、それはナイトメアのプライドに関することなので戦闘には何の関係性もない。むしろスマイルブルーと対峙しているこの状況で、ナイトメアは戦闘以外のことを考えられる余裕がある。
「ハァッ!!」
「!、速い?!」
だがそんな余裕は一瞬で砕け散った。
ナイトメアがまばたきをした瞬間、数メートルくらいの距離間があったナイトメアとブルーの間合いが一気に数センチになった。
つまりブルーは一瞬でナイトメアに近づいたことになる。
「フッ!!」
「バカな!速すぎる!!」
ブルーが氷の刀を振るうと、ナイトメアはブルーの斬撃の速度に驚いた。なぜならブルーの攻撃は他のスマイルハピネスの攻撃の速度を圧倒的に上回っていたからだ。
ナイトメアは他のスマイルハピネスを攻撃を何も本気で避けていたわけではなかった。むしろその逆、余裕で避けていた。
他のスマイルハピネスの攻撃は常人には速く見えるがナイトメアにとっては遅く見えており、そのためスマイルハピネスの攻撃が「いつ」、「どのタイミング」でくるかが瞬時に予測できていたため余裕をもって最小限の動きでゆっくりと避けられた。
だがブルーは違った。攻撃のスピードが他のスマイルハピネスよりも速くナイトメアは反射で攻撃を防がれざるをえなかった。
ゆえにブルーの刀による攻撃をナイトメアは避けることができず、レイピアで防御した。
「くっ!ニンゲン風情が、なめるなよ!・・・・ハァっ!!」
ナイトメアは防御した斬撃を力任せにはじき返すと、全力のスピードでレイピアの先端をブルーに向けて突き刺そうとする。
「・・・無駄です。」
「な?!」
だがナイトメアの攻撃がブルーに届く直前、ブルーの姿が消え、ナイトメアは動揺した。
「ここです!」
「!!!」
すると後ろから声が聞こえ、冷や汗をかいたナイトメアは考えるよりも先に反射的に後ろを振り向くと、先ほどまで目の前にいたブルーが背後にいた。
「ハァっ!」
「グっ・・・・!」
ブルーの斬撃をまたも防ぐことに成功したナイトメアだったが、偶然防御できたに過ぎず、ナイトメアはブルーに追い詰められている状況だった。
「すごい・・・私たちじゃ手も足も出なかったのに、青瀬さん1人だけでナイトメアを追い詰めている・・・!」
スマイルハピネス3人で勝てなかったナイトメアをブルーが1人で圧倒していることに、ピンクは啞然とした様子だ。
「仕方ない!いったん距離をとって・・・。」
ナイトメアはブルーとの近距離戦は分が悪いと判断し距離をとろうと退がった。
「させません!」
だがナイトメアは、その手段は悪手だと悟った。・・・いや、悪手だと思う瞬間すら与えられなかった。
「ハピネス、スラッシュ・・・。」
気づいた時には既にナイトメアは斬られていた。
「バ、バカ・・・な・・・。」
他のスマイルハピネスも呆気に取られていた。
ブルーとナイトメアの戦いを客観的に見てはいたものの、最後の場面、ブルーがナイトメアを倒した場面、ナイトメアがブルーから離れた瞬間、ブルーは腰を落として居合切りの構えを見せたと思ったら、その1秒後にはブルーの姿はなく既にナイトメアが斬られていた。
「がアッ!!・・・このボクが!・・・・く、覚えていろ、その速すぎる居合切り、次は必ずカンペキに破ってみせるぞ!」
ナイトメアはブルーを睨めつけながら苦々しい態度で、背後に突然現れた黒いモヤのようなものに吸い込まれていった。
「・・・・・ふぅ~~~~~・・。」
ナイトメアがいなくなったのを確認するとブルーは大きく息を吐いて、その場にペタン、と座り込んだ。
そしてブルーの変身が解除される。青瀬ルナは自分でもよく分からない力で困惑し、さらにはそれで激しい戦闘をしたものだから、どっと疲れがでたのだ。
「すごいすごい!!青瀬さんもスマイルハピネスだったの?!」
「え?!な、なんのこと?」
そんな青瀬に夢見きららが目を輝かせながら近寄ってきた。
「サチもビックリだよ!こ~ズバッ!てなって、ズバババン!!って感じで!」
「あ、ありがとう・・・。」
日向サチは興奮ぎみにブルーの活躍を話す。
「落ち着きなって2人とも。でも、確かにすごかったよな!特に最後のハピネススラッシュだっけ?アレ全然みえなかったよ!」
「あの、わたくしには今の状況がサッパリ分からないんですけど・・・。」
赤羽リンカは青瀬を褒め称えるも、当の本人は状況がつかめず混乱していたが、みんなが嬉しそうにしてる光景を見て自分も嬉しく感じていた。
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青瀬ルナがナイトメアとの勝負に勝利してから少し時間が経った頃、夕暮れの通り道をウルフェンと冬先が力のない足取りで歩いていた。
「まさか、本当に次のスマハピが現れるとは・・・・・。」
ウルフェンの心は沈んでいた。
ただでさえ1度も勝ててないスマイルハピネスに、スマイルブルーという新たなスマイルハピネスが誕生したことで、向こうの戦力が、またもや強化されてしまったからであった。
「リュウト・・・お前、よく青髪の女がスマイルハピネスだって分か・・・・!!!」
ウルフェンは冬先が青瀬がスマイルハピネスになることを予期していた事を聞こうとしたが、ウルフェンは冬先の顔を見て言葉を詰まらせた。
冬先が泣いていたからだ。
(な、なんで泣いてやがるんだ?!・・・・・・・ま、まさか!マイナスランドの戦力が苦しくなったことに心を痛めてるのか?!)
ウルフェンは新たなスマイルハピネスの誕生によって、マイナスランドとの戦力差が開いてしまったことに心を痛めて泣いているのでは?と思った。
(い、いや、ありえねえ?!あのリュウトが?!アイツなら絶対にマイナスランドのことに興味はねえはずだ!・・・・・だが、コイツの涙、もしかしてリュウトの野郎!マイナスランドのことを真剣に考えてやがるのか?!)
ウルフェンは冬先がマイナスランドのことを真剣に考えているのだと考察した。
(そうか・・・・・そいつは何つうか、嬉しいぜ。)
1度は落ち込んだウルフェンだったが、冬先の涙を見て彼は明日も頑張ろうという気持ちになった。
(チクショーー--!なんだよ、あのスマハピ!完全に俺の上位互換じゃねえか!!!)
だが、冬先はウルフェンの思いとは、まったく別の理由で泣いていた。
(こちとら切れないゴミ同然の刀だってのに、アッチは斬れる刀て!まあ、俺みたいなゴミ人間は異世界転生しても、この程度ですよ・・・。)
冬先は自分の卑屈によって泣いていたのであった。
ほんっとすいません! ちゃんと完結させるよう頑張ります!




