36 球技大会③
最近お年玉もらっても貯金しかしてない
試合は終盤に差し迫っていた。カケルが率いるチームは後半、3点も入れて大逆転をしていた。
「カケル!」
「うん、任せて!」
試合の流れをつかんだカケルのチームはそのまま一斉に攻め込んでいく。
「させるか!」
しかし相手も負ける気は毛頭もなく鋭いブロックでボールを奪う。
「こっちだ。」
そう言ってパスを求めるのはカケルに宣戦布告をし、先ほどカケルのいるチームから1点をもぎ取った相手チームのエースだった。
「しまった!」
気づいた時には既に遅く、パスが相手チームのエースに渡ろうとした時だった、突然誰かがそのボールを蹴ってコート外まで飛ばした。
「な?!」
「リュウトナイス!」
「よくブロックできたな?!」
ボールを蹴り飛ばしたのは冬先であった。
「・・・・・。」
皆にボールをカットしたことを賞賛されるも冬先は顔を下に向けていた。
その後も試合は続くが、お互い一進一退で試合はなかなか進まなかった。
「・・・・・おい、お前いつまでついてくんだよ!!!」
そんな中、コート内で一人イラつきをぶつける者がいた。そいつは相手チームのエース的存在の男子だった。そいつは蓄積されたイラつきを目に覇気がなく、今にも倒れそうなほどフラフラしている選手に苛立ちをぶつける。
「・・・・・・。」
だがその選手は一切の返事をしない。
「・・・くそっ。」
相手チームのエースはさらに苛立ちを覚える。だがこの苛立ちにはそれなりの理由がある。事の発端は前半戦が始まって少し時間がたった後だった。
相手チームのエースにその選手はマークしてきたのだった。最初の方は気にしなかったのだが、問題はその選手のいるチームが攻めていようが守っていようが自分ばかりをマークしていた。
そのおかげで自分はパスをもらいづらく攻めることも守ることもできず、苛立ちのみが蓄積されていった。
(るっせえなあ、聞こえてるよ。)
そして満身創痍な相手チームのエースに密着している冬先も苛立ちがあった。
(大体、本場のサッカーがどうか知らねえが、球技大会のチームが連携プレイなんてできるか?答えはNOだ。もしできたならそのチームは全員が運動神経抜群かサッカー部かだ。だけどそんな確率は結構ない。じゃあどうやって勝つか?答えは簡単、チームの中で一番サッカー上手い奴に任せることだ。だったら後は決まってる、俺みたいな雑魚が強い奴をずっと邪魔できるなら仕事としては十分だ。後はうちのエースが点を取ってくれる・・・・・・な~んて言ってやりたがったが、ダメだ、思ったより疲れた。)
冬先は相手チームのエースの行動を妨害するためにずっとマークしていたのだが、だからといって冬先と相手のエースの体力差は一目瞭然であったため、冬先は自分の意識が朦朧とするほどに疲れ果てていた。
だがそんな苦しい時間の終わりを告げるかのように試合終了のホイッスルが鳴った。
「・・・・くそっ。」
「はー、はー・・・・・。」
相手のエースは悔しさがあり、冬先には死ぬほどの疲労があった。客観的にこの2人を見ればこれではどちらの勝利か分からないが、チーム全体で見ればどちらの勝利かが明白であった。
「やったなカケル!」「ううん、皆が頑張ってくれたおかげだよ!」「はははっ!まったくイケメンかよ!」
得点は3-1で冬先のクラスのチームが勝ったのであった。
「「ありがとうございました!!」」
お互いのチームが挨拶を終えると、皆それぞれサッカーコートから出ていく。
(あー、もう動きたくねえ・・・。)
冬先がゆっくりと歩いていると、冬先の横に並んで歩いてくる男がいた。
「よ、リュウト、最後のブロックはすげえナイスだったぜ!」
その男はタツキであった。
「あ、ああ・・・。」
「どうした?もしかしてやばいくらいに疲れているのか?!俺だよ、タツキだよ!」
「あ、ああ、タツキか・・・まあ、少し疲れてるかな。」
「本当か?!保健室に連れていくか?」
「いいよいいよ、別に休憩すればいいから。」
「そうか?無理すんなよ?」
「ああ。」(あぶねええ、名前覚えてなかったから焦っただけだけどタツキが勘違いしてくれて助かったあ。)
実際に冬先は疲れていたのだが、返答に困ったのは冬先がタツキの名前を忘れていたからだったのであった。
「まあ最後のドッジボールは無理すんなよ?」
「・・・・・そうさせてもらうわ。」(そうだ・・・忘れてた・・・。)
冬先は自分がなぜたかだか学校の行事なんかに全力を出したのかと後悔したが、時すでに遅かった。
「わー」「避けろーー!」「きゃあーーー」
(あー、めんどくさ。)
体育館で行われているクラス全体で挑むドッジボール大会。そこで冬先は突っ立っていた。
「いいぞー」「避けろお」
(なんでこういうのって自主参加にされないんだろうなあ。)
「そこだー!」「ナイスキャッチ!!」
(はやく帰りたいなあ。)
「・・・・リュウトくん?」
冬先は棒立ちでもの思いにふけっていると、冬先のすぐ後ろにいる審判係の先生に声をかけられる。
「?、はい。」
「・・・始まってからずっとそこに立ってるけどいいの?」
「?、ええまあ。あ、でもあまり話しかけられるとバレそうなのでお願いいたします。」
「ま、まあ、君がそれでいいなら。」
そう、冬先は試合が始まってからずっとコート内の後ろ側・・・・ではなく、真ん中の線の端っこでずっと棒立ちだったのである。
普通に考えてコートのセンターラインにいる状態で狙われたらひとたまりもないのだが、灯台下暗しと言うべきなのか、今のところ誰にも見つかっていないのであった。
(ボールを投げるときは決まって真ん中の線から投げる。すると俺がいる端っこは視界から外れて以外バレないんだよな。まあ、俺1人だけがやってるから見つかっていないだけだけどな。)
冬先にとって、見つからないというのは一番ベストだったのだ。なぜなら何もしないので非常に楽だからだ。
(しかし、ドッジボールって一方的だよなあ。1回ボールを持ったら強い人が投げる。)
「うお?!」「きゃあーーー」
(皆避けたとしても相手の外野がこちらに投げてくる。)
「うお?!」「きゃあーーー」
(また避けても結局内野の相手にボールが渡るだけ。)
「おおおお!」
(時間だけが消費される。・・・・そろそろか。)
相手の内野からボールが投げられた。それを皆は避けていき、ボールは相手の外野に・・・・・・渡るかと思いきやなんと冬先がボールに手を伸ばした。
「!!!」
相手の外野は少し驚いた。そして冬先はボールをキャッチ・・・・・したわけではなく、手にボールを当ててそのまま自分のチームの内野にボールを落とした。
ピーッツ!!
するとヒット判定の笛が鳴った。
「あ、ボール拾え拾え!」「よーしこっからだ!」「いっけえカケル!!!」
ボールを手に入れた冬先がいるクラスは反撃に出る。そして冬先は無言で自分のチームの外野にしれっと入った。
(よし、後は立ってるだけでいいや。)
「リュウトも外野にきちまったな。」
「うわ!た、タツキか・・・。」
冬先は外野でもの思いにふけようとしていたところに、同じく外野にいるタツキに声をかけられた。
「なあリュウト、もしかしてアレ、わざと当たった?」
アレ、というのは先ほど冬先が内野でボールに当たった時のことである。
「・・・・おう、そうだよ。」
「なんでなんだ?」
「・・・まあ、めんどくさかったから外野でおとなしくしてたっかたんだよ。」
「・・・ほんとにか?」
「いや今のどこに疑う要素あった?!」
冬先の返答にタツキは納得がいかない様子だった。
「だってよ、ずっと見てたけどリュウト最初は真ん中らへんでずっと動かなかったじゃん。めんどくさいならわざわざボールに当たりにいくか?」
タツキは試合が始まってから冬先が端っこの方でずっと棒立ちでいるのを見ていたのだ。ゆえにわざわざ安全地帯から離れてボールに当たりにいくのがタツキには不思議だった。
「・・・・・ドッジボールってのは基本的に投げる、キャッチ、避けるしかしないだろ?」
少しの沈黙の後、冬先が突然語りだした。
「ん、そうだな。」
「こういう遊びでのドッジボールなんて基本的には運動神経のいいやつが投げたりキャッチしたりするもんだ。」
「ああ・・・ボールを投げるのって力がいるもんな。」
「だけど俺みたいに運動神経がない奴は避けることしかできねえ。」
「まあ、キャッチしようとして失敗してチームに迷惑はかけたくないよな。」
「いやそれは違う。」
「え?違うのか?」
「ドッジボールで重要なのはいかに自分たちがボールを長く持っていられるかだ。今の外野には結構運動神経いい人がいるじゃん。」
「そうだな、ケンちゃんなんかも外野にいるな。」
「だったら俺みたいに避けるしかできない人間は、わざと当たってボールをこちら側に持っていった方がいいだろ。」
「おお、すげえな、リュウトって。」
冬先の言葉にタツキは感動する。
「いやすごくないよ?」
しかし冬先は否定する。
「え?なんで?だって俺なんかそんなにドッジボールで真剣に考えたことねえぞ?」
「それは俺みたいな雑魚がどうやって足を引っ張らないか考えただけであって、そもそも普通にボールをキャッチしたりできればいい話だからな?」
「あ、確かに。アハハ!だけどすげえよ!」
(え~~・・・なんで笑ってんの?)
こうして学校の球技大会は終わり、下校時刻となった。
(よし、帰るか。)
冬先は家へ帰ろうとした。
(そういや、ウルは球技大会を見てたんだよな。・・・もう流石に帰ってるか。)
そう思った矢先だった。すさまじいマイナスエネルギーを冬先は感じた。
(?!、・・・ああ、いや、そうか、スマハピとマイナスモンスターがまた戦ってんのか・・・・・いやいや、ウルは帰ったはずだよな?・・・・・まあ様子見るくらいだけだから、大丈夫ならほんと帰るからな?!)
こうして冬先はマイナスエネルギーが発生した体育館に早歩きで向かった。速く確認して早く帰るために。
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