35 球技大会
お待たせしました。youtuberになるの無理そうなので帰ってきました。
雲1つない爽やかな空。その空の元では中学生が情熱の球蹴りをして戦っていた。
「よっしゃあーーーー!!!」
そんな中で雄叫びを上げる人がいた。それは冬先がいるチーム・・・・ではなく、相手のチームであった。しかもその人物は以前にカケルに対して宣戦布告をしたサッカー部の部員であった。
「ドンマイドンマイ、切り替えていこう!」
冬先のいるチームのうちの1人が気持ちを切り替えようと皆に声をかけるも皆疲れている様子で、あまりいい雰囲気とは言えなかった。
現在の点数は0-1、まだ1点差ではあるものの、この1点差は冬先のいるチームにとっては痛手であった。なぜならばお互いの力は五分であったからだ。故に試合が始まってからは互いに激しい攻防を繰り返していたために、この1点の差は非常に大きかった。
「ハァ、ハァ・・・よし、頑張ろうぜ!」
だがそれでも冬先のいるチームは諦める気などなかった。
各々がゴールに向かって全員が一致団結していた。
だが勢いがあるのは誰であろう、相手のチームなのは言うまでもなかった。点をとった相手チームは勢いに任せ、怒涛の攻めをしてくる。
「攻めろ攻めろ!」
相手チームにボールが渡ると素早いドリブルで攻めてくる。
「とめろとめろ!」
カケルのいるチームは負けじと3人がかりで一斉にボールを奪いにくる。
「おいおい、ディフェンスにそこまでの余裕があるのかよ?」
しかし相手は焦るどころか、むしろこちらを挑発してくるほどの余裕っぷりを見せる。
「なんだと?!」
「ふっ、・・・・・・ちっ、ほらよ!」
ドリブルで攻めてきた男子は一瞬右を向くと顔をしかめると、左方向に向かってパスを出す。
「ああっ?!しまった!!!」
そう、たった一人を止めるためにディフェンスが全員集中しているため、サイドの守りが手薄になっていたのだ。
そしてそのままボールはカケルのいるチームのゴールまで一気に近づき、ゴール付近を守っている者はゴールキーパーだけであった。
「いっけー!」
そして相手チームはゴールにシュートする。
「させるかあああ!」
だがボールがゴールに入ろうとするのをゴールキーパーがボールに向かって飛び込んでキャッチした。
そしてゴールキーパーがボールをキャッチしたと同時に前半終了の合図であるホイッスルの音がグラウンドに響きわたった。
「ふ~、まだ1点だ!後半で取り返していこうぜ!」
カケルが率いるチームは満身創痍になりながらもまだ試合を諦めている者はいなかった。
ただ1人だけ浮かない顔をしているものがいたのだが、誰も気づかなかった。
そして前半と後半の間にある休憩時間、どちらのチームも疲労が顔にでているほど実力は互角だった。
「はぁ~、しんど。」
皆が休憩している中、冬先もまた1人でぼやいていた。
「よ、生きてっか?」
そんな冬先に声をかける少年がいた。その少年は球技大会の種目決めの時に気さくに冬先に話しかけていたタツキだった。
「え?・・・お、おう。」(やべえ、顔は知ってんだけど名前なんだっけ?)
しかし冬先はタツキの名前を覚えていなかった。
「お、今日は気さくに話してくれるな。最初のころは「です。」「ます。」とかの敬語だったのにさ。」
冬先がタツキの名前を覚えてないことなど知るはずもなくタツキは冬先に気さくに話しかける。
「え?あ、ああ、馴れ馴れしく話してすいません。」
「?、別に構わないだろ。同じクラスなんだし。」
しかし冬先はタツキに対して普通に話しかけたことについて謝罪してきたのでタツキは不思議に思った。
「わ、分かった。・・・・はあ、疲れたよなあ。」
「・・・ぷっ、アハハ!」
タツキの言葉に冬先は冬先が思う普通に話しかける感じで話しかけると、突然タツキは笑い始めた。
「な、なんだよ・・・。」
「だってさ、いきなり話し方が変わるから、アハハ、リュウトって面白いな。」
急に笑い始めたタツキに今度は冬先が困惑した。
「そ、そんなもんか。・・・・正直俺には笑うほどの元気もないほど疲れたよ。」
「そうだな。相手も口だけじゃないってことだな。」
「ま、つっても俺なんか戦力不足もいいところだから、なんも活躍してねえけどな。」
「そうなのか?」
冬先は自虐的なことをタツキに話す。
「全然ボール触ってないからな。それに比べて他の皆は積極的にボールを取りに行くから凄いもんだよ。」
「ああ・・・言われてみればこの試合中リュウトを全然見かけてないな。」
タツキは前半戦のことを思い出すと、自分の回想に冬先がまったくと言っていいほど見かけなかったことを思い出した。
「ま、俺なんてその程度の存在だよ。」
「そうか?リュウトだって頑張ってんじゃん。」
「?」
だが自分を卑下する冬先をタツキは否定した。
「だって今リュウトすげー汗かいてんじゃん。」
そう、タツキの目の前には体中に汗を流して疲労が顔に出ている冬先の姿が写っている。
「ま、まあ・・・。」
「だったらいいじゃんか、頑張ってない奴が汗なんか流すかよ。」
タツキは冬先が一生懸命に頑張ったからこそ出せる汗を見て冬先を肯定した。
「・・・・まあ、ついていくので精一杯だからな。」
「おう?」
少しの沈黙の後、冬先は意味深なことを呟いたためタツキは不思議に思ったが特に深い意味はないのだろうと思い、それ以上追求することはなかった。
「そういや、カケルはどっか別の場所で休憩してんのか?」
突然冬先が周囲にカケルの姿が見えないことに気がつきタツキに問いかけた。
「ああ、カケルならトイレに行くって言って行っちまったぜ。なんか用でもあったのか?」
「いや、なんとなく気になっただけ。」
冬先は単なる疑問で聞いただけだったのでタツキからの返答に納得すると、それ以上追求することはなかった。
一方、校舎の隅っこの誰にも見つからなさそうな場所で1人落ち込んでいる生徒がいた。
「・・・・・。」
「カ、カケル君?」
そんな落ち込んでいる生徒なカケルに声をかける女子がいた。
「きららちゃん?!どうしてここに?」
声をかけたのは夢見だった。
「え、えっと、カケル君が1人でそっちに行くのを見たから。」
夢見は緊張して目線を下に向けながらオドオドと話す。
「そ、そっか、いやあ、きららちゃんには情けないところを見られちゃったね。」
「ええ?!そ、そんなことないよ。カケル君あんなに頑張ってたじゃん。」
夢見はいつも明るいイメージを持っているカケルがネガティブな様子に驚いていた。
「ありがとう、だけど僕が点を取らないとここまで練習に付き合ってくれた皆に申し訳ないよ。」
カケルはエースである自分が点を取れていないことに不甲斐なさを感じていた。
「・・・・・カケル君ってなんか1人で頑張ってない?」
「え・・・・・。」
だが夢見の言葉にカケルの表情が固まる。
「私はバスケだったけど最初はへたっぴで皆の役に立ってなかったんだ。だけど、必死に練習したら、試合でも上手な人が私を頼ったりしてくれて嬉しかったんだ。」
「きららちゃん・・・。」
「えーとね?なんていうのかな、さっきの試合、見ててカケル君1人で突っ走ってるっていうのかな、もっと「パス?」とかしてみて他の人を頼ってみてもいいんじゃないかな?皆すごく頑張ってるんだし!」
「・・・・・。」
夢見の言葉にカケルは言葉を失う。
「・・・・・あ?!ご、ごめんなさい!!私なんかが偉そうに何言ってんの?って話だよね!」
夢見は自分がカケルの気持ちも考えずに自分の意見を言ってしまったと思い、自分の発言を後悔した。
「ううん。そんなことないよ!!」
「え?」
しかし夢見の思いとは裏腹にカケルの顔は明るくなっており、夢見は狐につまれた顔になった。
「僕は自分1人が頑張らなきゃってずっと思ってて皆のことを信じてなかったんだ、皆だってあんなに練習してたのにね。だけどきららちゃんの言葉でそのことに気づけたんだ。ありがとう!!」
「ど、どういたしまして・・・。」
「あ、そろそろ後半戦が始まるから行くね。」
「うん、頑張って・・・。」
カケルはグラウンドに向かって走っていった。後に残された夢見はその場で立ち尽くしていた。
「・・・・・・は?!ど、どうしよう?!あんなこと言っちゃったけど大丈夫だったかな?!ていうか私カケル君の前で顔真っ赤っかだったけど見られてないかな?!う~~~~~。」
少しの沈黙の後、夢見は恥ずかしさのあまりうなだれた。そして、後半戦のホイッスルが鳴った。
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