10 何の為に人は居残るのか
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結局あの後、スマイルハピネスとかいうのから俺達は逃げ切った。
どうやって逃げたかなんて覚えちゃいない。気が付けば変身も解けているし、ウルも犬になっている。
ただ、1つだけ分かることは、・・・・・・疲れた。
冬先琉斗とウルフェンは、くたくたになりながらも琉斗の自宅に着いた。
家では琉斗の母親が料理を作ってる最中だった。
「あ!琉斗!!散歩に行くと言っといて、どんだけ時間かかってんの?!もうすぐご飯できるわよ。あと・・・・。」
「おいリュウト、母さんとやらが何か言ってんぞ。」
ウルフェンは琉斗に教えるも、肝心の琉斗はまったく聞こえてない感じだ。
「ん?・・・・・分かったよ母さん。」
琉斗は一瞬ウルフェンに反応した後、最後の力を振り絞るかのように精一杯の声で母親に返事をした。
「ご飯は?」
「いらない。」
母親からの夕飯の誘いを断り、琉斗とウルフェンは階段を重い足取りで登り、琉斗の自室に入った途端に1人と1匹は気絶するように眠ったが、1人眠る前にあることに気が付く。
あーもう無理、動けん・・・・あれ?何か大事な事を忘れてるような・・・・・・。まあ、忘れるってことは、その程度・・・の・・・こ・・・と・・・。
そう思いながらも、冬先琉斗は深い眠りにつく。そしてそのまま朝が来た。
その1週間後、「光中学校」と校門に描かれた学校の「2-3」というクラスで、ある事が行われようとしていた。
「は~~~~っ・・・・まさか、うちのクラスから3人も補習を受けることになるとは思わなかったわ。」
溜息をつきながら、呆れた様子で、机に座っている3人に喋る大人の女性がいる。彼女は「2-3」の担任の先生である。
「きららさん。転校した後に直ぐテストやることになって、調子が悪かったかもしれないけど、それでも前もってテストを受けることは伝えてありましたので、補習、受けてもらいますよ?」
「ア、アハハ・・・。」
きららは笑ってはいるが、周りからすれば、とてもそうには見えなかった。
「だ、大丈夫だよ、きららちゃん。ちゃんと頑張れば3週間で終わるよ?」
黄色い髪の女の子が、きららを励ます。
「日向 幸さん。補習は普通3日くらいで終わります。あなたがいつも補習で3週間もかかるのは、毎回のテストで5つも赤点をとるからです!」
「うぅ・・・・。」
日向 幸と呼ばれる黄色い髪の少女は何も言い返せなかった。
「だ、大丈夫だよ、さっちー!私も3つ赤点があるから一緒に頑張ろう!!」
「う、うん!そうだね、きららちゃん!!」
2人はお互いを励ましあった。
「いや、きららさんも赤点が3つあるのはどうかと思うんですけど。」
そう言って先生は、また溜息をつく。
「だからと言って、「赤点が1つだけだから大丈夫」、なんてことにはなりませんから。分かってますね?冬先琉斗さん。」
「・・・・・はい。」
そう、この男、冬先琉斗も赤点をもらっていた。
彼がスマイルハピネスとの死闘、もとい逃走した次の日、光中学校ではテストが行われた。
琉斗はテスト前日に勉強してないのはもちろんのことなのだが、前日以外の日も全く勉強しておらず、気づいた時にはすでに遅く、2日~5日目のテストはその日の夜に勉強できており、ギリギリ赤点を回避するも、初日のテストは勉強できなかったので、赤点になったのである。
「じゃあ先ずは3人が共通で取った英語から始めます。」
ああ、マジかよ。異世界転生(?)してからの人生で初の赤点だよ。
いや、いつもはギリギリで回避してんだよ?初日のテストが国語だったら俺の得意科目だから勉強しなくても赤点はなかったよ。
だけど英語ってなにさ。日本人が英語できるわけねーだろ。何で他の言語学ばねーといけないんだよ。何で外人は日本語学ばなくていいんだよ、不公平じゃん!だったら日本人も英語なんて学ばなくていいだろ?!
余りにも偏屈な考えをしている琉斗だが、普通に考えてテスト前日まで一切勉強をしていない、この男が悪い。
しかし、慣れちまってたから気づくのが遅くなったけど、俺の隣の2人はスマイルハピネスだよな。
見分け方は簡単だった、スマイルハピネスの変身前の姿には決まった共通点、すなわち派手な髪の色をしてることだ。
そうなると見つけるのは簡単だった、偶然にも俺がいるクラスに4人もいたからだ。
だけど俺が前に戦ったスマイルハピネスは1人だけ。おそらく今はアニメ的にまだ1~2話くらいのとこかもしれない。
こういうアニメを見たのは前世では随分昔の話だからあんま覚えてないけど近いうちに派手な髪の色の少女達がすまいるスマイルハピネスになるんだろう。
・・・・まあ、俺は絶対に関わりたくはないけどね。死にたくないし、てか俺の隣の夢見きららって絶対この前の奴だよな。
転校してきた時、心の底からトラウマが蘇って心臓が跳ね上がるかと思った、俺の正体は、ばれてないず・・・・・あんなお面みたいなマスクでごまかせたか?
けどまあ、今のところなんもないから大丈夫だろ。
琉斗は先生の話を聞かずに物思いにふける。
・・・・はあ~~どうして私、補習なんて受けてるんだろう。
テストを受けることは聞いてたけど、やる気が出なくて時間だけが過ぎて行って、前日に勉強しようとしたらアルちゃんに邪悪なエネルギーが現れたって言われて、「テッカメーン」ていうのをなんとか倒したところまでは良かったんだよね~、まだ時間があったから。
でも、その後にもう1つおかしなエネルギーを感じるっていうから行ってみたら、前に倒したはずの狼と、お面を着けてる人みたいな形をした敵がいたのに直ぐに逃げちゃったから探していたら見失っちゃったし、気が付けば夜になってて勉強してないし、これじゃアンハッピーだよ~・・・。
きららは、そう思いながらも補習を真面目に受ける。
「I can play tennis.」 ってどういう意味?!どうやって読めばいいの?!
日向幸は他の2人より真面目に補習を受けていたが、英語が読めず苦戦していた。
それぞれの思惑がありながら、時間が進んでいく。
「・・・・・・よし、一旦これで今日の補習は終わり。明日もあるけど今日のところはお疲れ様。」
先生が今日の補習の終わりを告げると、3人はとても疲れた様子で直ぐには帰らず、先生が教室を退室しても、座ったままでいた。
「ああーーー・・・・しんど。」
琉斗は1人で、ぼやいていた。
琉斗は最初、先生の話を全く聞かず補習を真剣に取り組まなかったが、途中でそれがばれてしまう。
その後は補習が終わるまで、先生から色んな英語の文章を読まされ、それを翻訳されたりして、ずっと補習に集中していた。
何故だ、俺が一体何をしたっていうんだ。そもそも、あの時スマイルハピネスと出会っていなければテストに向けて勉強できて、今頃は家でだらだらしてたっていうのに。
・・・・・まあ1週間前から勉強してたらいいって話なんだけどな。
琉斗は反省する。
ただ1教科だけで疲れるっていうのに補習を5科目も取った幸さんは大変だよな~。
そう思いながら琉斗は2つ右隣にいる日向 幸に目を向けると、沈んでいる彼女の姿があり、彼女の明るい黄色の髪も沈んでいるようだった。
琉斗は「ご愁傷様」と言いたげな目で、日向 幸を憐れみの目で見る。
「じゃあ、私は帰るね。きららちゃん、バイバイ。」
「うん、私はもうちょっと残っていくよ。じゃあね。」
琉斗の目線には気づかず、幸は疲れた様子で帰っていく。その後の教室には、冬先琉斗と夢見きららの2人のみがいる。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
お互い何も話さず沈黙している。
・・・・・・よし、帰ろう。
そう思い、琉斗は黙って黙々と帰る支度をして帰ろうとしていた、その時だった。
「ねえ。」
きららが喋りかけてきた。
琉斗は焦った。もしかしたら、自分の正体がバレたのでは?と思ったからだ。
さらには、バレたとしたら自分は殺されるのでは?という恐怖と、仮にバレたとして、その場は逃げれたとしても後が無いという絶望が、琉斗の顔を青ざめさせる。
「あなたの名前って何だったけ?、いやあー私、この学校に来たばかりで、まだ同じクラスの人の名前、覚えてないんだよね~~。」
「え?・・・あ、ああ名前ね!えと、冬先琉斗って言います。」
琉斗が懸念していた事とは違う質問だったので、彼は心の中で安心する。
「じゃあ琉斗君か。私は夢見きららって言います。きららって呼んでください。ってアハハ・・・もう、1回やってあるから覚えてるよね。」
「ああ、大丈夫ですよ。俺はテストで忙しくて、名前を覚えるどころじゃなかったんで助かります。」
琉斗は別にきららの名前を忘れてなどはいない。
むしろ、きららが琉斗のいるクラスに転校して来た時に、琉斗からすれば自分を倒そうとしてた者が来たのだから警戒していた。
「ただ・・・「きらら」さんって、結構珍しい名前ですね。」
「え、・・・う~ん、そうなのかな?そうかもしれないね。」
いや絶対に珍しいだろ?!どう考えたってキラキラネームにしか聞こえないんですけど。
まあ、アニメの世界だからきっとそういうことなんだろう。俺の友達も「きらら」って名前には違和感を感じている様子じゃなかったからな。
琉斗は自分に言い聞かせるように納得することにした。
「じゃあ、俺は帰るから。・・・お疲れ様です。」
「うん。また明日も頑張ろうね。」
う~ん、彼女は決して性格は悪くないんだよな。むしろ明るいし、俺なんかに優しく接してくれるから、いい人なんだよな。
ただ俺としては余り関わりたくないから早く帰ろ。
そうして冬先琉斗は退室し、教室には夢見きららだけが残っていた。
「・・・ハ~~~~ッ、疲れた~~。明日も補習があるし、大変だよ~。」
愚痴をこぼしながらも帰ろうとする。
「きらら~~~!!大変だキュ!」
「アルちゃん?!何で学校にいるの?」
突然ハムスターみたいなものが宙に浮かびながらやって来た。
キャラクターの名前考えるの苦労するの自分だけ?




