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口裂け女の怪

『おい、にの介! ターゲットがそっちの方に逃げて行ったぞ。回り道して追い込むんだ』

 先輩の指示が飛ぶトランシーバーを片手に、深夜の路地裏を僕は走り回っていた。

 その目的は、夜な夜な現れるとの噂のある人物を捕まえる為だ。

 先輩からの指示を、僕はやる気のない返事で返す。

 一応、従ってはいるのだが……。

『待て待て待てぇぃ、逃がさんぞー』

『いぃぃやぁぁぁ! なんで、なんでどうしてなの!? あの人どうして、逃げても逃げても私のことを追いかけてくるの!?』

『そうやって逃げるからだろう? 例えお前が、何時までも、何処までも、逃げようが、私は地の果てまで追いつめるぞ!』

『ひぃぃぃやぁぁぁーーーー!!』

 トランシーバーの向こうから聞こえてくる執念深さを感じる先輩と泣いて逃げるターゲットのやり取りを聞いていると、どうしても先輩の味方をする気にはなれない。

 相手にもそれなりに、追いかけられる理由はあるのだが、今の先輩はどう聞いても悪役のそれにしか聞こえない。

 息切れとは違う理由で先輩は息を荒立たせ、涎をすする。

『はぁはぁ……じゅるるっ。やっと見つけたんだからなぁ――口裂け女ぁー!』

 僕らが追いかけている人物、それは都市伝説の中でも有名な、あの口裂け女だった。

『ポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードポマードォォォォォォ!!』

『ひぃぃぃ、怖いよぉぉ。殺される』

 ガチャーン、パリーン、とトランシーバーを通じて向こう側からガラス瓶の割れる音が響くのが聞こえる。

 おそらく口裂け女の嫌うと言われるポマードの入った瓶を大量に投げつけているのだろう。

 ただの人間であっても、そんなのぶつけられたら、普通に大怪我しますよね先輩?

 そりゃ、逃げ出しもするよ。


  *  *  *  *  *


 先日に続いて、学生会の追跡を振り切った後のこと。

 僕と先輩は大学の近くにあるファミレスに来ていた。

 非公認の為、大学内に活動場所のない現代耳袋愛好会にとっては、このファミレスが活動拠点になっている。

 僕と先輩は窓側の席に通され、お互いに対角になるように座っていた。

「まさか、折角のメンバーの勧誘がここで躓くとは……。この私とにの介との二人だけでは、高校時代までとなんら変わりないじゃないか!」

 お冷をチビチビと飲みつつ、僕は項垂れる先輩の話を聞いていた。

「いいじゃないですか、メンバーが捕まらなくても。僕達が学生会に捕まらなかっただけでも」

 正直言って、先輩の犠牲者を未然に防げただけでも万々歳だ。ありがとう学生会の人たち、お陰で先輩の犠牲者が僕の他に出なくて助かった。その調子で僕も助け出してくれないかな。

 先輩は顔を上げて立ち直ると、「さてと」と言って、話を仕切り直した。

「新規メンバーの問題は取り敢えず後にするとして、今はサークルとしての活動を行おうと思う」

 会員を獲得できずに落ち込んでいたに思われた先輩は、すぐさま気持ちを切り替える。

 なんやかんやで、ここまでついて来てしまっている僕も、しょうがないかという気持ちで先輩の話を聞く姿勢に戻る。

 ここも高校時代までと何ら変わりないやり取りだ。

「それで、今日はどんな話を聞きつけたんですか?」

 先輩がどこからともなく奇怪な噂話を聞きつけて、それを実際に調べに行くというのが基本の流れだ。

「幸いというかなんと、この近隣で口裂け女が出るらしい。既に何人かの目撃者がいるらしい」

 口裂け女か、なんか久しぶりに名前を聞いた気分だ。学校の怪談と一緒によく語られてたっけな。

 名前の通り、耳元まで裂けた大きな口を持つ女の妖怪で、普段はその口を大きなマスクで覆って隠している。

 夕方や夜の暗い時間になるとコート姿で現れて「私、キレイ?」と訊いてくる。そして答えると回答の如何に関わらず、凄まじいスピードで刃物を振り回しながら追いかけるのだとか。

 確か嫌いなポマードで追い払えるらしいけど、言葉だけでも有効なんだったっけ。でもそれやると、逆ギレして襲ってくるパターンもあるらしいけど。

 ひと昔前には全国的に有名になってしまい、信じこんだ一部の人の不安から社会問題にまで発展したことまである。

 先輩に付き合わされているせいで、その手の事に、ある程度の知識が身についてしまった。

「いつも思うんですけど、先輩のその情報は何処からやってきているんですか?」

 変人の先輩には友人はいない、そして会員が僕の他には居ないのに、その手の話を聞き出せる相手は何処にいるのか。

「ふっ、そんなの知れたこと」

 先輩はニヒルに笑うと、懐から小さな機械を取り出した。

「そんなですかそれ?」

 その機械が何なのか分からず、僕は先輩に尋ねてみた。

 これに先輩は、短く一言でこう伝えた。

「盗聴機だ」

「犯罪行為です、直ちに使用を止めてください」

 有無を言わさず僕は先輩から機械を取り上げて、飲んでいたお冷の中に盗聴器を浸ける。

「ちょっとした冗談用で用意したダミーとはいえ、そこそこ高かったというのに」

 言葉と裏腹に、先輩は特に気落ちした様子はなかった。すぐにまた話の本題に戻る。

「まあいい。話を戻すが、噂の口裂け女とやらに是非とも会いたい。とても、できれば今すぐにでも。それが今回の活動目的だ。しかし、用意もあることだから開始は明日の夕方、待ち合わせは駅前だ」


 次の日の夕方。

 先輩の指示通りに駅前で待ち合わせをしていると、遠くから冬用の黒いコートの不審者が見えた。彼女の纏うコートの下では、カチャカチャと何やらガラスのぶつかる音がしている。まだ冬の寒さが残る肌寒い季節とはいえ、そんな格好では暑いだろうに。

 その人物は僕に気づくと、集まる視線を物ともせずにこちらへ真っ直ぐ向かってきた。正直言って、こちらはスルーしたかった。しかし、あの人が相手ではそうも行かない。

 諦めて僕は声をかけた。

「見紛う事なき不審者ルックです先輩」

「にの介、先に来ていたのか」

 まさかの格好についての感想をスルーだった。

「その恰好、どうしたんですか」

「さーて、最初の目撃があった場所は、ここから少し行ったところにある六番町の路地裏だ。さっそく向かうぞ」

 再度試みたがやはりスルーだった。

 お願い、少しは人の話を聞こうとしようよ。相変わらずマイペースだよこの人は。

 先輩の格好に奇異の目線が集まる中、口裂け女の目撃情報があった場所をまわり始めたのだった。


「うーん、なかなか手がかりが見つからないな」

 すっかり夜になり、人気がすっかり無くなった公園で、僕と先輩は休憩を入れていた。、

 あれから先輩は僕を連れて、口裂け女の目撃情報があったという場所を、計十か所も巡ったのだが特に何もなかった。

 しかし、噂話なんて所詮はそんなものだ。もとより、当たる方が珍しい。

 今までも、先輩に付き合わされて怪しい噂の検証や調査なんかも行ったけど、結局は事の真相が作り話によるだと判明することが殆どだった。

 今回も、あちこち探し回っているが、おおかた徒労に終わるだろうと予想していた。

「すみません。ちょっと、トイレに行ってきます」

「分かったぞ、ここで待っているな」

 先輩と一緒にいるのに疲れて、その時の僕は少しの間独りになりたかった。

 公衆便所に向かい、とりあえず洗面所で意味もなく時間を潰し、手を洗ってから外に出た。

 その直後だった。 


「わたし、綺麗?」


 不意に女の人の声がして驚きながらも声のあった方向を向くと外灯の下で、赤いコートを着こみ大きめのマスクとサングラスで顔を覆った不審者がいた。

 顔の露出が少ない分、先輩よりも不審度が更に上だった。どちらも五十歩百歩の違いだけれど。

 この如何にもな風貌、この人物がおそらく噂の口裂け女に違いない。「わたし、綺麗?」なんてお約束の言葉を使っているし。

 それにしても、そんな顔を隠しておいて、綺麗かどうかもないだろう。

 一応、自分に訊いたのかと自分を指さして尋ねると、相手はそうだと頷いた

「綺麗かどうかと聞かれても、そこまで顔を隠されちゃよく分からないし」

 僕は素直な感想を告げる。

 すると口裂け女は、マスクとサングラスに手を掛けて、あの決まり文句を言った。

「そう、じゃあこれ――」


「みぃー、つぅーけ、たぁ……」


「ひっ!」

 口裂け女の決まり文句はキャンセルされた。

 彼女の背後で音もなく現れた先輩の、耳元で囁くおどろおどろしい不気味な声音によって。

 先輩がコートの中を弄ると、そこから瓶が出て来てくる。

「ポマードォォオ!」

 瓶を手に持って構えた先輩が叫ぶと『――ッボ!』と爆発したかのような音と共に、先輩の手元から瓶が消える。

 その直後、何かが真横を凄まじい速さで通り過ぎて、後ろを振り向いた。

 すると……。


 メキ、メキメキメキ――ズダーン!

 

 それは、背後にあった木の幹が抉れて倒れる音。おそらく先輩の高速で投げた瓶が当たったのだろう。そうとしか考えられない。

「おっと、興奮してつい力を入れ過ぎたようだな。大丈夫、おとなしくしておけば次こそ当ててやるから」

 大して驚いた振りもなく、サムズアップを見せる先輩がニヤリと不気味に笑う。

「…………」

「ナニアレメチャクチャコワインデスケド」

 僕はただ無言で、そして口裂け女はカタコトになって震えていた。

 今の僕にはお化けよりも、先輩の方が何よりも恐い。隣で口裂け女だってビビっている。

「やっぱり私といる時よりも、にの介が独りでいる時の方が出やすいな。こっそりマークしていて正解だったな」

 先輩が僕を連れ回す理由。それは、僕が心霊現象に遭いやすいという理由からだった。

 口裂け女の外しかけていたマスクはプランと垂れて、そこには想像通りの耳元まで裂けた口を晒していた。

「やはり口裂け女は実在していたんだ。やったな大勝利! それにこの反応、ポマードを嫌うという話は本当だったようだな。おっと、イカン。このことを忘れない内に記録を付けないと」

 ノートとペンを取り出して、なにやら凄まじい勢いで書き込み始める先輩。見る見るうちに写真のような口裂け女のスケッチが出来上がってそれを僕に「どーだ」と言って見せつける。

「先輩、興奮しているところ悪いですが、逃げましたよ? 口裂け女」

 本当に怖いのは生きた人間だと相手も悟ってくれたようでなにより。僕だって今のは逃げ出したい。

「本当だ!? 居ない!! だが、こんなこともあろうかと、あの口裂け女には発信機を取り付けておいた置いたのさ」

 先輩が発信機のレーダーを取り出すと、画面に口裂け女のいる場所が出ていた。

「おや、もうこんなにも距離を離されているのか。算出すると時速はおよそで……メモメモっと、なかなか早いな。だが私が追いつけないこともない。待って――いや、データ収集のためにも走っていろ。今行くからな」

 意気揚々とコートの下に大量に忍ばせていたポマードを両手に持つと、先輩は夜の闇に走り出して消えていった。

 僕も後を追いかけるように先輩の消えた方向へと、事前に先輩から持たされていたトランシーバーを片手に走りだす。

 それから僕らは、口裂け女に追いついて、冒頭へと至る訳だ。


  *  *  *  *  *


『よーしっ、上手く相手を追い込めているぞ。にの介はそのままで待機してくれ』

 先輩の指示で先回りをすると、そこは口裂け女と出会った元の公園だった。

 暫く待っていると、二つの声が近づいて来るのが分かった。

「むぁぁぁてぇぇぇぇ」

 一つは先輩の追いかける声。

「ひぃ、はぁ。ひぃ、はぁ」

 もう一つは。息も絶え絶えの、口裂け女の悲鳴だ。

 影として見えていた両者と僕との距離は次第に縮まり、公園の外灯に照らされて姿を現したのは口裂け女だった。まだ、僕の存在には気づかれていない。

 口裂け女が公園に辿り着くと同時に、先輩の声が止む。

 口裂け女は先輩が追いかけるのを止めたと思ったのか、後ろを振り向く。だめだ、振り向いたらいけない。

「――っほ」

 後ろに誰も居ないことが分かり、彼女はようやく息を吐いた。

「さあ、追いつめたぞ。おとなしく観念しろ」

 彼女の正面で、先輩が邪悪な笑みを浮かべていた。傍目で見ていた僕も瞬きの一瞬で先輩が現れたので、先輩がどこからやって来たのか分からなかった。 

 あの歩法は、スプラッタ映画の殺人鬼たちが、主人公たちの見えないところで瞬間移動したかのように先回りしてくる所から着想を得た先輩が独自に編みだしたものだ。

 本人は、オカルト趣味が高じての事らしいが、常人にはまず真似できない。

 言っちゃなんだけど、先輩は目の前の口裂け女よりも、ずっと化物じみていると思う。

「ひぃぃぃ、ひぃぃぃ、ひぃぃぃぃぃ!」

 先輩への恐怖で腰を抜がしていた口裂け女は、それでも尚逃げようと、すくんで立てなくなった足の代わりに腕でだけでも這いずり先輩から少しでも距離を取ろうとする。

 いったい、どこまで追い込こめは、人は、いや、怪異はああなるのだろうか。先輩、自分いま先輩に軽く引いています。

 口裂け女は僕の姿を見つけると、必死の剣幕で追い縋ってきた。

「た、たすっ、たたた助けてく、ださいっ」

 彼女は恐怖で歯の根が合わなくなってしまい上手く声が出せない中で、必死に声を絞り出して僕の足に強い力でしがみつく。重たいし動けないしであれだけど、これはきっと死んでも離しそうになさそうだ。

「お願いですなんでもしますからわたしをあの女から守ってください」

 先輩と一緒に居た僕に追い縋るなんて、ここに来るまでによっぽど先輩から恐ろしく迫られたのだろう。可哀想に。

 不憫に思った僕は、口裂け女を庇うようにすると先輩の前に立って言った。

「先輩、まずは落ち着きましょう。相手は逃げませんから」

「えっ!?」

 僕の発言に口裂け女が驚く。

 どうやら頃合いをみて、また逃げ出そうと思っていたようだ。

 しかし、あの先輩から逃げ出すのは、アルカトラズ監獄から脱走するより遥かに難しい。ここは逃げるよりも交渉して、先輩を説得させる方がベストだ。

「だったら、にの介。私にその口裂け女を……」

「はーい先輩、そこから先はストップです。たとえ一歩でも近づいたら駄目ですよ。相手をこれ以上怯えさせないでください。口裂け女を逃がしますよ。」

「そんなぁ……」

 先輩が残念がるが、これ以上相手を刺激する訳にはいかない。

「だったらあなた、今すぐ逃がしてよ」

 僕は、口裂け女にだけ聞こえる小さな声で話た。

「口裂け女さん、僕の今は僕の言う事に従って。絶対、先輩に売り渡すようなことはしないから」

「ありがとう……」

 口裂け女が僕が先輩に味方しない事を分かってくれたようで、僕に対して警戒心を緩めてくれた。

 これで、とりあえずは何とかなったぞ。一先ず、ほっと一安心だ。

「口裂け女さん、でいいかな? その距離からなんでもいいから先輩に自分の事を話してあげて。そうすれば先輩は満足してくれるから」

「分かったわ、それで助かるなら……」

 僕からの言葉を受けて頷いた彼女は、僕の後ろに隠れながら話し始めた。

「まず最初に言っておくと、私の名前は句酒くざけなおん。見てのとおり、口裂け女よ」

 名前のことから話すのか、なんでもいいって言ったのに。なんなら、適当な嘘を吐いたって誰も困りはしなかったのに。

 個人情報なんて、先輩に教えるもんじゃない。でないと、僕みたいに先輩に憑かれてしまうのに。

 そんな僕の心の感想を横に、口裂け女改め、句酒さんの自分語りは進む。

「こんなことをしていた理由。昔ね……いや、今もなんだけど、この裂けた口を隠す為に、大きなマスクで隠していたの。でも、そのせいでよくからかわれちゃって、それで、からかっていた子をマスクを外して怖がらせたらそれがとっても快感で。それ以来。人を脅かすのが癖になって仕方なくなったの」

「先輩、これで気が済んだんじゃないですか。そろそろ許してあげましょうよ」

「そうだな。私も本人に出会えただけで満足だ」

 会えただけで満足なら、何故あそこまで執拗に追いかけ回したし。

 僕がそのことを先輩に聞くと。

「だって逃げるんだもん」

 これに対して、句酒さんはというと。

「だって追いかけてくるんだもん」

「二人とも、犬の追いかけっこじゃないんだから}

 でもまあ、こんな思いをすれば句酒さんも人を驚かすようなことは控えるだろう。

 僕等、正義の味方でも、ましてや、夜な夜な妖怪を退治をしてまわる退治屋でもないけども。

「それじゃあ、さよなら」

「最後に! 最後に一つだけ」

「ひっ!?」

 去ろうとする句酒さんを、先輩は聞きたいことがあったのか呼び止める。呼び止められた本人は、先輩に何かされるのではないかと小さな悲鳴を上げた。

「噂通り、べっこう飴が好物なのか?」

「ううん。私が好きなのはドクぺ」

 そう言い残して、句酒さんは今度こそと、そそくさ去って行った。

 彼女、なかなか特殊な味覚をお持ちのようで。

 もう、次こそ先輩に見つかるんじゃないぞ。去り行く彼女の背中を眺めつつ、切にそう祈った。

 その後、口裂け女の代わりにポマードを投げつけるポマード女の噂が流行った。

 当然、先輩は捜索を開始するのだが、本人には見つけることが出来なかったのは言うまでもない。


  *  *  *  *  *


 実は、彼女にまつわる話はまだ続きが残っていた。

「実はな、昨日の口裂け女を追いかけている途中に、彼女がこんなものを落としたんだ」

 それは僕ら学生にとってよく見覚えのあるカード。ICチップが内蔵されているタイプのもので、僕の財布の中にもそれと同じものが入っている。

「それって、うちの大学の学生証じゃないですか。それに学科が違うけど僕と同じ学年。そうか、彼女って僕等と同じ大学に通っていたんだ」

 大学に入ってから日が浅いのもあるけれど、今の今まで気付かなかった。まさか大学に通っているとは。

 先輩が見せた学生証には、彼女の口だけ隠した顔写真と、大学名学年学部学科氏名年齢それから住所が書かれてある。

 ああ、大事な個人情報が駄々漏れ……。

 僕は目の前の扉を見る。僕は現在、先輩に連れられて、とあるマンションの一室を前にしていた。

「それで、ここですか」

「ああ、そうだ。学生証の情報通りなら、彼女の住んでいる場所はここになる」

 先輩がその部屋の扉を指さして、そのすぐ横にある呼び鈴を押す。

「はいはい、どなたで……ひっ」

 見覚えのある大きなマスクと、こちらを覗く依然と全く同じ瞳。

 彼女がこちらを認識した際マスクが邪魔で、彼女からあまり多くを読み取れなかったけど、どんな表情をしているのか想像するのは難しくなかった。

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