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プロローグ

 僕という人間は、昔からよく変なものに好かれやすい体質だった。

 その変なものがどんなものかと問われれば、ちょくちょくかかる原因不明の病気だとか、夜中に動めく何かの物音だとか、写真を撮ると背後によく映っている影だとか、そういうやつだ。

 そんなものだから、いつも周囲からは気味悪がられていて、イジメこそなかったものの随分と寂しい思いをしてきた。

 僕に転機が訪れたのは、当時小学五年生の時、一人寂しい時間を人気のない公園で過ごしていた時の事だった。


「おー、いたいた。面白そうなやつがここによく来ると聞いてな。お前がそうなのだろう?

 えーと確か、名前がそのー、字では知っているが……にの……にのー……ええい、難しくて読めない。いいや、にの介だ。そうっ、たった今から私がそう決めた。だからお前の名前は、にの介でいいな?」


 当時、隣の校区で違う小学校に通っていた「先輩」が、僕の前に現れたのは。


  *  *  *  *  *


 僕には、もうわりと長い付き合いになる、一個年上の先輩がいる。

 その先輩の名前は邪道院ゲギ子。

 この随分とアレな名前を、当の本人は自信満々に「カッコイイだろう?」と声を大にして言って憚らない。

 本名の破壊力がなんもう色々とアレなので、僕はこの人の事を先輩とだけ呼んでいる。

 オカルトマニアで、心霊スポット巡りと深夜徘徊が趣味のなんとも危ない人だ。

 先輩のしでかした行動の例を挙げれば、音楽室を占拠して黒魔術の儀式を行おうとしたり、海中に引きずり込む幽霊の噂を聞いて大時化の海で寒中水泳を決行したり、呪術に使う道具を作るのに神社の木を切り倒したり。その他にも色々。

 補導された回数も書かされた反省文の枚数も数知れず。中学高校時代には先輩とは進路が被って、僕も随分と先輩の起こすトラブルの巻き添えになっていた。

 そんな先輩も去年、一足先に大学生となって県外へと去り、比較的平穏な一年を過ごした後に、僕も県外へと旅立っていくことになった。

 そして四月。

 大学ではサークル勧誘が解禁され、新規メンバー獲得に向けて多くのサークルが勧誘活動を開始していた。

 今年この大学へ入学した僕も、大学デビューを狙い、まだ見ぬ同行の士を求めてサークルに憧れていた。

 ――はずなんだけどなあー。

「『現代耳袋探求会』に入りませんかー」

 手書きのビラを片手に、僕は目の前を通り過ぎる人達に声をかけていく。

「おいおい、にの介。段々声が小さくなっているぞ! そんなのでは、新入部員が来ないじゃないか」

「いや、だって……」

 やる気のない声で勧誘を行っていると、隣で『先輩』にドヤされた。

 まさか第一志望校で入った大学が、先輩のいる所だったとは……。

 入学初日にあっけなく先輩に捕まった僕は、この先輩の立ち上げたサークル『現代新耳袋探求会』とやらに、いつのまにやら入会していることにされていた。

 活動内容は世にあふれるオカルトな噂を調査すること。

 そんな怪しいサークルに自分が入ったつもりは、髪の毛一本たりともないのだけれど、先輩の脳内では僕はとっくに一員となっている……らしい。

「いい加減……、ここら辺で止めませんか?」

「ん? どうしてだ」

 勧誘に乗り気でない僕を、先輩は不思議そうな目で見てくる。

 それもそのはず、何故ならこの『現代耳袋探究会』は――。

「そもそも、このサークルって、構内で勧誘なんてして大丈夫なんですか?」

 そう言って僕は、事前に学生会から貰っていたサークルに入る際の注意喚起のビラを、先輩に見せて読ませた。

 書かれている内容は次のようなものだ。


  /  /  /  /  /


 大学に活動を認められていない非公認のサークルの勧誘が増えています。

 非公認サークルは、宗教団体や、犯罪組織の窓口として、危険に事に巻き込まれるケースが少なくありません。

 もし、覚えのないサークルや、大学非公認のサークルを見かけましたら、学生会までご連絡ください、

(以下、学生会の連絡番号に続く)


  /  /  /  /  /


「ふむふむ、なるほどなるほど。そうきたか」

「どうして、そこで落ち着き払ってるんですか先輩。だって、このサークルがそうなんですよ」

 何を隠そう、この先輩の作った現代耳袋探求会こそが、大学の許可を得ていないその非公認サークルなのだから。

 配っていたビラをしまって逃げ出す用意をしていると、遠くから学生会の腕章をつけた数人がこちらに向かっているのが見えた。

「いたぞ! あそこだ!」

「またあいつか、邪道院んんっ!」

 背中に僕らを追いかける人たちの声を受けながら、走る、逃げる。

「にの介、二手に分かれて逃げるぞ。後で例のファミレスで落ち合おう」

 そう言って先輩は身長を超えるジャンプ力を見せつけると、一番近くの低い屋根に飛び乗って、凄まじい速さで駆けだして消え去っていった。忍者か。

昔っから色んな意味でメチャクチャだよあの人は。

「あいつもビラを持っているぞ、邪道院の仲間か!?」

「しまった、僕も逃げなきゃ」

 かつてひとりぼっちだった僕が、この先輩と出会ってしまったのは果たして幸か不幸か。

 この人との付き合いが始まって結構経つというのに、結論は未だに出ていない。

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