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水守町怪奇事件簿  作者: 猫柳
Case.2 記憶の中の亡霊
14/28

014

町外れ、住宅街の一角に、古ぼけたアパートがぽつんと立っている。

3階建てで、部屋は一層に4つずつ。薄墨色の屋根に、くすんだクリーム色の壁。「大森ハイツ」と塗料の禿げた薄緑の文字。その脇の錆びた階段を上がって、201号室の扉の前で、俺はポケットを探る。ようやく俺の生活に馴染み始めた、新居の玄関だ。

「ただいまー……っと」

扉を開けると、ワンルーム用の狭い玄関には既に靴が二つ並んでいた。この玄関は俺か来客しか使わないので、二人客がいることがわかる。脱ぎ捨てるつもりだったスニーカーを丁寧に脱いで、そろりと部屋に上がりこむ。すると、奥からエプロンが実に似合わない体格の良い男が顔を出す。

「おう、帰ったか」

「赤瀬さん」

燃えるような赤髪に、厳ついシルバーピアス。太い首、分厚い胸板、丸太のように太い腕の持ち主のため、掴んでいる調理器具がまるでミニチュアのようだ。彼はすぐに台所に視線を戻しながら、ざっと指示を出す。

「見ての通り来客中だ、靴は端に寄せとけ」

「了解。随分人が多いけど、なんかあったのか?」

「大森のジジィが帰ってきてんだよ。ついさっき来てな、客人と打ち合わせだとさ」

靴を揃えて、台所を覗く。この香ばしい香りは魚の煮付けといったところか。既に赤瀬さんの意識は料理に向いているようで、巨体を器用に動かし、手際良く他の副菜を準備していく。

「初耳。大森さん、しばらくこっちにいるのか?」

「んじゃねぇの?知らんけど。そろそろ飯が出来るから、荷物置いてジジィ呼んでこい」

了解、と応えながら、俺は部屋の奥にある廊下へと向かった。



外見の限りだと4階建、各フロアにワンルームアパートが6部屋ほどあるように見えるこの大森ハイツは、実は各フロアが内部で繋がった一つの住居の形をしている。

元々はアパートであったものを、無理やり改装したのだろう。フロア毎に玄関は2つずつ残されていて、皆形式上は違う部屋の住人、という程で生活している。

一階は風呂や倉庫、二階にキッチンやリビング。3階に各個室があって、最上階である4階に大森さんの部屋や会議室が設けられている。

この大きな建物の中で、少ない時は4人ほど、多い時は10人以上の仲間がここで寝泊まりする。どこか秘密基地じみたこの家は、全国各地を転々としている大森さんの拠点の一つだった。

 俺がここに世話になり始めてから約二カ月。その中で、俺の養い親である大森信一がこのアパートに滞在していた期間は実に10日ほどにしか満たない。彼は俺が予想していたよりもはるかに忙しい人だった。今日を逃せば、またしばらく話す機会を失うかもしれなかった。

 4階にある6畳の私室に荷物を投げ込んで、すぐさま階段を駆け下りる。3階に差し掛かったところで、ちょうど下へ降りようとしていた来客が、こちらを振り返った。

「やぁ少年、元気じゃん。赤点は無事回避できたって?」

「どーも、畔柳さん……と東さんも」

「ん」

俺が小さく会釈をすると、畔柳さんはへラリと笑って、東さんは軽く片手を挙げる。律華のバイト先である東探偵事務所を経営する双璧だ。

「東さん、もう肩の傷は治ったんです?」

「あぁ。お前も、律華の学校に無事編入できたらしいな」

「畦柳さんには世話になりました。おかげでなんとか」

そりゃあ良かった、と東さんはその強面を少しだけ崩す。それから、ひょい、と顔を後ろの畔柳さんに向けた。

「てか遼、おまえ本当に人にもの教えるとかできたんだな」

「俺をなんだと思ってるんです?大学時代は腕の良い塾講師として結構バイト先の評判良かったんですよ。まぁ三股したら人間関係拗れたから辞めたんですけど」

「うわぁ……」

全く悪びれる気のない畔柳さんに、思わず肩をすくめる。

畔柳さんは頭の回転は早いし、要領も良く教えるのも上手い。が、人間として割とクズの部類に入る、自由奔放な性格と女癖の悪さが玉に瑕。髪染めをしていない真っ黒な髪はワックスで毛先を遊ばせていて、両耳には一際目を惹く銀十字のピアス。華やかなようで、品を損ねない適度な硬さも残した、つかみどころのない人だ。

そんな男が相棒をしている相手といえば、ややくすんだ赤髪に眼光鋭い金の瞳、くたびれたトレンチコートを羽織った、どこか近寄りがたい雰囲気の男。特に目を惹くのが整った顔立ちの左半面を覆う醜い火傷痕で、元々の強面をより一層強化している。

身なりこそ適当なことが多いが、他人を適当に扱うことに関しては特に許しがたいというお人好しのこの元刑事は、何を思ってTHE適当の遼さんを相棒として活動しているのだろうか。全く良く分からないコンビだ。

「そういや、律華がまた蚊帳の外だってむくれてましたよ」

ふと、思い出したことを口に出せば、東さんは鼻で笑う。

「知ってる。最近故意の忘れ物が増えたしな」

「あれ結構厄介なんすよねー……地味に盲点狙って仕込んでくるからイチイチ探すのも面倒だし、事務所で下手な話できなくて」

盗聴やめるんじゃなかったのか。思わず吹き出せば、「お前からも注意しておいてくれ」と東さんはうんざりした顔。

「というわけで、報告がてらここの応接室を借りてた訳だ。邪魔して悪ぃな、大森さん」

東さんが視線を落としたのに釣られて、俺も階段の下へと視線を向ける。するといつの間に来ていたのか、階段の踊り場でこちらの会話を聞いていたらしい大森さんは、お気にせず、と柔らかく笑った。

「こちらこそ、呼びつけておいて大したお構いもできずすみませんね。よろしければ、夕食の方を用意していますので、食べて行ってください。うちの赤瀬は凝り性でしてね、彼が作る料理は美味しいんですよ」

「え、あのヤンキーみたいな兄さん料理とかするんだ。ぶつ切りステーキとか齧ってそうなのに意外〜」

「聞こえてんぞナンパ野郎!」

階下から聞こえてきた怒声に畔柳さんは大げさなまでに眉を動かし、「あぁやだやだ、地獄耳」とぼやく。

「世話になれるならありがてぇが、いいのか?」

「ええ。無茶を押し付けてしまっていますから、せめてそれぐらいは」

「助かる。なら、手早く話し合うとするか」

そう言って、東さん達は踵を返し、4階に上がり始める。三人分の夕食を置いておいてもらえるよう、赤瀬さんに伝えにいく必要があるだろう。背中を見送って下に降りようとしたところで、大森さんが振り返る。

「キリ君、君も参加しますか?」

「……え」

自分を指差して、もう一度呟く。え。俺?

「興味がないようでしたら無理にとは言いませんが」

「え、いや、ぜひ、ぜひ参加させてほしいんですけど、いいんですか!?」

「畔柳さんから聞きましたよ。ここ二ヶ月、必死に勉学に励んでいたと。君がこちらの提示した条件に対して真摯に取り組んでいた以上、私だって君に誠意を見せるべきでしょう?」

赤瀬達は先に食べているよう伝えたら、私の部屋に来てください。そう言う大森さんの後ろで、探偵二人がニヤリと笑って親指を立てる。


いやほんと、頑張ってよかった。




◇◆◇◆◇






大森ハイツの4階は、概ね倉庫等の利用頻度の低い部屋が並んでいる。その奥にある大森さんの私室を訪れるのは、これが初めてだった。

廊下の突き当たり、古そうな木の引き戸を、軽く手の甲で叩く。

戸越しに聞こえていた話し声が途切れ、はい、と大森さんが応える。

「えと、霧夜です」

緊張に言葉を詰まらせていると、引き戸が開き、大森さんが中へ入るよう促した。

「どうぞ。あまり広い部屋ではありませんが」

「お、お邪魔します……」

ふわり、と、乾いた草の匂いが鼻をくすぐる。

恐る恐る踏み込んだその部屋は、`10畳ほどの和室だった。部屋の中央に茶色の円卓(テレビで見たことがある、ちゃぶ台という奴だ)が置いてあり、それを囲むように座布団が4つ。うち二つには既に探偵二人が陣取っていて、湯呑みに入った茶をすすっている。

部屋の中央に吊るされた電球は和紙の覆いで光を和らげており、全体的にやや薄暗い。部屋の奥には押入れと、灰色がかった木材の箪笥。洋風で小綺麗な印象のアパートの中で、ここだけが随分と時代がかった調度品であふれていた。

「現代っ子は和室には慣れてないかな?」

「そういうわけじゃ……遼さん達だって、めちゃくちゃ歳離れてるわけじゃないだろ」

親子ほど年の離れた相手ならともかく、電子機器をバリバリ使いこなす同じ若者に現代っ子などと言われても反応に困る。ジトリと呆れた視線を向ければ、相変わらず掴み所のない笑顔で受け流される。

「まーねー。それにしても良い和室ですね。奥の桐箪笥も使い込まれたものみたいですし、畳も香りが良い。昭和の祖父の家とか、こういう感じなんですかね。俺行ったことないけど」

「一言多い」

「サーセン」

「すみませんね、古臭い部屋で。懐かしい気持ちになれるので、つい集めてしまって」

そう言って大森さんは軽く笑う。赤瀬さんは大森さんを「大森のジジィ」と呼ぶのは、老成した雰囲気だけでなくこういった嗜好も関係しているのかもしれない。

そういえば、大森さんの年齢を聞いたことがないな、などと考えつつ、俺は空いた席に座る。年季の入った電気ポットで俺の分のお茶を用意してくれた大森さんは、湯呑みを置くと「さて」と口火を切った。

「まずは中間試験、お疲れ様でした。心配していましたが、よく短期間で学習が追いつきましたね」

「ありがとうございます。……と言っても付け焼き刃なんで、今後も気は抜けないんですが」

柔らかく頷いた大森さんの視線が、隣――遼さんに逸れる。それを受け止めた彼は、俺の言葉を継いで口を開いた。まるで三者面談のようで、緊張に口の中が乾く。

「そうだね。頭の回転が早い分、理数系はそう困らないだろうと思います。問題は文系、特に英語や古文等の語学は、結局詰め込み云々というより慣れですから、こちらは気長に様子見てもらう感じになりますかね」

「そうですか。畔柳さん、この度はありがとうございました」

「いえいえ。久しぶりに人様にもの教えるなんてことができて、楽しかったですよ。ご入用になりましたらまたいつでもどーぞ」

はは、とつい乾いた笑いが漏れる。いやほんと、二度と世話にならないように頑張ろうと思う。スパルタなんだよな、この人。

ある程度話が切れるのを待っていたように、それまでちびちびと茶を啜っていた東さんが湯呑みを置き、向き直る。

「それで、今回ここにキリも呼んだってことは、今後こいつも調査に加えるつもりか?」

「いずれはそうなるかもしれませんので、一度現状だけは伝えておこうかと思いまして。やはり、なんの情報もないと安心できないでしょう?

さて霧夜君。君は、二ヶ月前の事件のことをどの程度記憶していますか?」

「俺たちは、ハイビレッジ社に誘拐され、人狼の実験、および売買に巻き込まれた。そして、ニケの店に売り飛ばされる寸前に、なんとか逃げ出した」


そう。そしてあの薄暗い路地裏で、俺は律華と出会った。


右も左も分からない、冷たい雨に打たれ、濡れそぼりながら街を彷徨い歩いたあの日。硬いアスファルトを掻く爪は割れ、足裏の皮は剥がれ、気力も体力も限界を迎え。

ずっと狼の姿だったが、最後ぐらいは人の姿で死にたくて、あわよくば死体だけでも誰かに発見されて、事件のことが公になればいい、そう思って、路地裏で崩れ落ちた。

全て諦めていた。そんな俺に手を差し伸べてくれた、希望をくれたのは、彼女だったのだ。

伏せていた視線を上げ、お茶で軽く唇を湿らせる。俺の手の中で、湯飲みの水面が細かく震えていた。

「それで、律華と会った俺は、本当はすぐ出て行くつもりだった。でも、うっかり正体がバレて……そして律華と協力をすることになった。それで、律華の上司である東さんの足取りを追いかける形で調査を始めた。それで、東さんが怪我をしたって話を律華が盗聴した。撃たれた、んですよね?」

「あぁ。もともと行方不明の子供達を探していた俺は、調査中、ハイビレッジ社の社員に襲われた。撃たれたっつっても、まぁ掠めた程度だ。そんな時助けに入ってくれたのが、人工的に人狼を作るなんていう頭のおかしい行為を到底許せず調査を行なっていた大森さん達だった」

銃に詳しくない俺にはよく分からないが、大森さんと遼さんが同時に半顔になったので、多分怪我については強がりだ。

そういえば。丁度良いので、忙しくて今まで聞けていなかった質問をひとつ、投げかける。

「そういえば、そもそも俺は大森さん達の組織?集団?が皆人狼ってことしか知らないんですが、この団体はなんなんです?」

「え、聞いてなかったの?」

遼さんそんな呆れた視線を向けないでほしい。忙しかったんだよ、マジで。

大森さんも苦笑して、今更の話にはなりますが、と前置きをして話し始める。

「一応私達は自身を『カランポーの末裔』と呼んでいます。理念として人狼と人間の共存を掲げ、人狼のマイナスイメージを払拭し、人狼が関わる事件を解決し、被害者を減らす努力をしています。あとはまぁ、人狼についての研究等も行なっていますよ。私は実地調査が主ですので、あまり詳しくはないのですが」

「人狼の研究って、何してるんです?」

内心、少し腰を引きつつ問いかける。俺の顔色が変わったのを察したのか、「非人道的な行為は行ってはいませんよ。皆、私達の大切な仲間なんですから」とフォローを入れる。

「大まかにいえばそも、人狼とは何か、という研究です。それは遺伝子レベルで別の生物なのか?はたまた、なんらかの疾患なのか?そもそも、科学的に説明できる現象なのか?

人狼に噛まれると相手も人狼になる、満月の夜に変身する、その他様々な伝承と人狼達の能力を検証し、理解することで安全性の高い対策を取れるようにする、というのが私達の目的です」

大森さんの説明は、非常にざっくり。手広くやっているが、その分説明が難しい、というのが彼の主張だ。

「へー。それで、どの程度研究は進んでるんですか?」

姿勢を崩し、後ろに両手をつき始めた遼さんの質問に、大森さんは苦笑。「実は、ほとんど進んでいないんです」と言う。

「これは人狼に限らず、空想上のものとされる生物の研究全般に言えることですが、彼らの生態はその時代の人間の認識に大きく左右されるのです。かつては恐怖の対象とされた人狼、吸血鬼、妖精や妖怪といった類も、現代では人間と親しいイメージを持たれるようになりました。これに従い、理性的で温厚な個体が増えているのです」

「温厚な個体が増えたからイメージが変わった、とかではなく?」

そんな話、俺は聞いたことがない。普通、生物は自然の環境などに合わせて変化して行くものなんじゃないのか?

「少なくとも私達は、イメージの変化が先だと考えています。空想上のものたちは、その土地の人々が抱く思想に引きずられるのです。例えば古来、日本には基本的に人狼はいませんでした。人に化けるのは狐や狸、化けイタチなどが主であり、人を化かすことはあれど、積極的に襲う話も少ない。むしろ異類婚姻譚のように、人と寄り添うもの数多くあります」

「確かに、和風の人狼って言っても、結局は西洋のイメージを無理やり和風にして書いてる話が多いですもんね」

「そうです。無論、全く存在しないわけでもありません。実際この水守地域にも、かつては人狼に類する存在がいました。けれど彼らは基本人を襲うことはなく、人々にとって恐怖の対象ではなかった。むしろ山を守る者、山神としての側面が強かったんです」

「奈良の大口真神なんかもその部類だな。神格化されたニホンオオカミが信仰対象となったやつだ。日本は八百万だから、そういう例も少なくはないだろう。そうなると、西洋のものとは随分違うな」

なるほど、と相槌を打つ。見かけの割に、東さんも宗教とかの話するのか。俺はちょっと理解が追いついてない。

「西洋の人狼のイメージは、狂犬病患者の奇行から来ているという説もあります。故に気性が荒く、理性がなく、感染するものも多い。しかし、それ以外にも古来のシャーマンが獣に扮する儀礼から来ている呪術師に近い存在もいる。存在する伝承の数だけ人狼の種類もいるのです。人狼本人でさえ、自分がどのような能力を持っているのかを把握していない者も多い。非常に難しい研究です」

わかりましたか?と言う視線を向けられ、俺はなんとか理解できた部分だけかいつまんで質問を返す。

「ええと、じゃあ、ここにいるメンバーは神格?された狼に関連した人狼が多いってことですか?」

「いいえ、残念ながらそういうわけではありません。グローバル化が進む中で、西洋の文化や人狼感染者が多く日本に渡ってきました。赤瀬や真北は、西洋の人狼の系譜に連なる者達です。彼らの多くは理性を保てるようになりましたが、万一噛み付かれた場合は直ちに専門機関に送る必要があるでしょう。ここは人狼の感染を拡大する者が現れぬよう、互いに監視し合う空間でもあるのです」

この話で、改めて、人狼というイメージを思い出さされた。

月夜の晩に変身して、人を襲う怪物。昔読んだ漫画では、人狼は確かにそういう『危険な存在』だった。もし自分もそうなってしまったらーー考えるだけで、鳥肌が立つ。

「俺も、気をつけたほうがいいんですか?」

「今回の被害者であった子供達は、皆感染の危険性はないというのが本部の見解です。が、気をつけるに越したことはないでしょう。

少し話が逸れましたね。そこから先、君はどの程度把握していますか?」

「ええと、俺と律華で調査を始めたものの、遼さんに見つかって。それから逃げ出して、その途中で遼さんが撃たれるのを見て、俺も撃たれた」

あの時の衝撃は、今もまだ鮮明に思い出せる。ハンマーで殴られたような衝撃と、燃えるような熱と痛み。自分が人狼でなければーーあそこで撃たれたのが俺でなく律華であったら、きっと今ここで呑気に話していることはできなかった。

人狼の再生能力は非常に高い。弱点とされる銀製品で攻撃されなければ、即座にとは言わないが数時間で傷口はふさがるそうだ。それでも個体差はあるから、十分注意しなければならないが。

「その時のことは、どの程度覚えていますか?」

「残念ながら、まったく。撃たれて、気がついたら大森ハイツにいました。それから、貨物船で奴らが逃げようとしているって聞いて、それを追いかけて船に行って。けれど爆発したんですよね」

そこでふと、疑問が浮かび上がる。

「あの船、なんで爆発したんです?逃げる為に船に乗り込んだのなら、爆発させるメリットはないですよね。罠だったんですか?」

「おっ、いい質問だ」

俺の質問に畔柳さんは破顔し、東さんも真面目に頷いた。

「あの事件以降、俺たちが追いかけていたのはそこだ。そして、お前達に伝えていなかった内容でもある」

東さんは一度言葉を切り、大森さんの方を向く。耳を傾けていた大森が小さく頷くのを横目に、東さんは再び口を開いた。


「あの日、俺達が操舵室にたどり着いた時、既に首謀者であった高村は殺されていた」


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