暗室にて。
こんにちは。今回は少し雰囲気を変えてみました。
読んでやってください。
暗い。
何も見えない。
空気が埃っぽくてカビの匂いがする。
右手を動かしてみるが動かない。
左もまた然りだ。
僕は縛られているようだった。
次第に目が慣れてくるとあることに気がついた。
僕の前に誰かがいるのだ。
僕は夢中で声をかけた。
「おい、そこに誰かいるのか?いるなら助けてくれ!」
・・・。
返事はない。
「いるんだろ?教えてくれ!ここはどこなんだ?」
「グゥ」
うめき声のようなものが聞こえてきた。
それはまるで苦しいだったりとか辛いだったりとか、そういう世の中のマイナス感情を全て集約したかのような、何故だか妙に説得力のあるものだった。
そう思った直後、僕は既視感を覚えた。おかしい、前にも経験したことがある、そう思ったのだ。
「おかしい」
今度は口に出してみる。この一見意味のなさそうに見える行動が、僕の既視感を確実なものにした。
以前も僕はこれと全く同じ経験をしている、と。
蘇った記憶の中ではこの直後に前にいる誰かが言うのだ、
「おい、そこに誰かいるのか?いるなら助けてくれ!」
ほら、思った通りだ。
そして次はこうだ、
「いるんだろ?教えてくれ!ここはどこなんだ?」
ね?
誤解のないように正しておくが、僕は決して冷たい人間ではない。もし僕が今、五体満足であったのであればすぐにでも前で喚いている人を助ける、ということをしただろう。
しかし、残念なことにご覧の有様である。到底他人と関わって話し合いをする余裕など僕の残念な頭には微塵もない。
しかし人間とは不思議なもので、片や切羽詰まった状態でありながらもどこかで頭は冷静なのである。
簡単な話、僕はこの既視感に抵抗しようと試みた。
先ほどから、前にいる彼を無視し続けているのは、つまるところそういうわけなのだ。
そんなことを誰にともなく説明していると、不意に背後に人の気配を感じた。
僕は危険を察知し、慌てて振り向こうとした。刹那、何者かによって後頭部を殴りつけられていた。
もちろん素手ではない。重い金属製の工具、まあ早い話バールのようなものである。
「グゥ」
思わず声が漏れた。最初から遺伝子に組み込まれていたかのように、喉を介さず、ごく自然にまたは不自然に、漏れた。
薄れゆく意識の中で僕が考えていたのは、
「既視感の正体」だったのか、はたまた、
「僕ってこんな声も出せるんだ」
だったのかは分からない。
ましてやこの記憶は今の今まで見ていた夢かもしれなかった。
兎にも角にも、今目が覚めたばかりの僕には状況確認をするという選択肢しかなかったのだ。
よし。とりあえず、まずは部屋の暗さからだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
よくある感じのお話ですが、自分らしさを出せていたら嬉しいです。