8:金色の銃
中には幅が2センチくらいの金色の棒が並んで入っている。表面は凸凹していて真ん中に繋ぎ目がある。数は全部で10個。その上にA4サイズの封筒があった。
ガルネオは封筒を手に取り、中身を出した。A4の用紙の上を滑って一枚の写真がガルネオの手に載る。写真には一人の少女が写っている。
「なんだこれは?」
ガルネオは写真をトロッキオに手渡す。
「ただの写真画像です。太陽に透かして見ても、なんの仕掛けもありません」
ガルネオはA4の用紙を見る。
「俺が知ってる文字じゃねえ」
それもトロッキオに渡す。
「これは英語ですが、俺も読めません」
ガルネオはほかのA4用紙を掻き分けて見ていく。
「これも読めん。これも、これも、これもだ。なんだってんだ、畜生!」
ガルネオは手を振り上げて空に向って叫ぶ。
トロッキオは、ガルネオが見ていたA4用紙を一枚一枚手に取って見た。
「日本語。中国語。フランス語。イタリア語。お! これなら読める」
トロッキオは、芝生に唾を吐いて苛立っているガルネオを呼んだ。
「ガルネオ様、読めるのがありましたぜ」
ガルネオは振り向いてそのA4用紙を手に取った。子分が駆け寄りガルネオに老眼鏡を渡す。
ガルネオが読んでいるA4の用紙には、プリントアウトされたイタリア語でこう書かれていた。
このアタッシュケースがファミリーが住むガルネオ島に届く事を祈る。
ガルネオ島で暮らすドン・ガルネオに未来からの贈り物を渡そうと思う。
ケースに入っているのは全てレーザー銃。
10丁ある。
製造価格は10億アメリカドル。
1丁の価格だ。
弾丸の補充も充電もしなくていい。
半永久的に使える。
そのレーザー銃である人物を殺して欲しい。
名前は加藤知子。日本人。
写真のとおり今は10歳の子供だが見縊るな。
その娘は将来、大人になった時に、ガルネオ島に研究施設を建設する。
当然、島の所有者であるドン・ガルネオは刑務所行き。
ファミリーも全員刑務所暮らし。
ドン・ガルネオは、未来の記録では獄死となっている。
気づいたかもしれないが、これは未来からの手紙である。
そしてレーザー銃も未来で製造されたもの。
信じる信じないは、銃を手に取って判断して欲しい。
用紙の裏には少女の居所と思われる住所が明記されている。
ガルネオは顔を上げた。黙って手紙をトロッキオに渡す。
アタッシュケースに手を突っ込んだガルネオの横で、手紙を読み終えたトロッキオは声を上げる。
当然、生粋のイタリア語で。
「マジかよ。未来からだなんて信じられん」
トロッキオは、身震いをして天に向って祈りだす。
ガルネオは金の棒を1つ摘まんで持ち上げた。太陽の光りを反射して輝く金の棒は、ガルネオの手で煌いている指輪といい勝負だ。
しかし、引っ張り上げられ全身を現した金色に輝くものは、S&WM39にそっくりの物騒な銃だった。表面が全て金色のため、見た目はおもちゃ屋で売っているプラスチックの銃と変わらない。持った時の重量も軽過ぎる。
「これは本当にレーザー銃なのか?」
ガルネオは銃口をプールの女神像に向けて、照準を合わせた。引き金を引く。
レーザー銃はチューンという音のあと、銃口から赤い光線が飛び出す。
赤い光線は女神像に当たり、女神像の水瓶に直径10ミリの穴が開く。穴からは勢いのない水がこぼれ壷の表面を伝って雫となって下に落ちていく。
撃ったあとの反動は全くない。撃った時の衝撃で手が痺れたりもしない。
姿形はS&WM39。銃口から飛び出るのはレーザー光線という不釣合いなものだが、正真正銘のレーザー銃なのだ。
トロッキオは祈るのをやめて、撃たれた水瓶を見ている。
ガルネオは小走りで女神像の所へ行き、水瓶に開いた穴を見た。
穴の入り口は焦げており、反対側にまで貫通している。反対側の穴も、もちろん焦げている。
ガルネオは両手で金色の銃を持つ。太陽光を浴びて神々しく輝く金色のレーザー銃。
「これが未来の銃。なぜだか分からんが、未来の奴が俺を助けるために届けてくれた、金のレーザー銃」
ガルネオは未来人に選ばれたのだ。少なくともガルネオは、自分自身を島の救世主だと思っている。事の次第を他界した母親に伝えるために、力と恐怖の象徴である金色のレーザー銃を空に掲げる。そして大声で叫んだ。
「マンマ・ミーア!!!」
と。