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7:ガルネオ島

 広がる珊瑚礁。揺れるサファイア色の海。


 ここはイタリア共和国、シチリア自治州にある、孤島。


 孤島の名前は、ガルネオ島。


 世界五大魔王の1人と(うた)われるマフィアのドン、ガルネオが所有する島である。


 島にある全ての砂浜は、ガルネオのプライベートビーチ。


 島に生えている椰子の実も全てガルネオのもの。ガルネオの許しなく椰子の実をとって食べてはいけない。


 平地には一階建てだが広大な土地を利用して作られた白い別荘があり、別荘内は召使いと思われる男女が行き来している。


 広い庭には手入れされた芝生が一面を覆い、丸いプールもあり、プール際の女神像が持つ壷からは水が流れ落ち、常にプールにはきれいで清潔な水が満ちている。


 そんなガルネオ島は今日も晴れていた。


 ドン・ガルネオの一日は、庭が見渡せる部屋での朝食から始まる。


 ガルネオの室内にいる時の服装はなんでもありで、ガルネオは周りの視線など全く気にしない。頭の天然パーマも鼻の下のヒゲも手入れ前の状態で、ガルネオ本人は恥じる様子もなく、太った体を揺らしてのんびりと優雅に歩いている。


 今日もガルネオはパジャマ姿で朝食を食べにリビングに参上した。


 召使いから渡された朝刊を、指輪が沢山ついた手で受け取る。


 どの指輪にも、ガルネオの親指の爪より大きな宝石がついている。


 赤はルビー、青はサファイア、緑はエメラルド、そしてダイヤモンド。白は真珠とオパールといったところだろうか。


 極彩色な手は新聞を広げてガルネオの顔を隠す。


 ガルネオが朝刊を読んでいると、召使いが朝食を持ってくる。


 朝食はいつも決まった内容。


 ヴェネチアングラスに入った冷えた牛乳。もちろんガルネオ島で飼育されている牛から(しぼ)ったものだ。


 銀の卵置きに載っている温かいゆで卵。これもガルネオ島で飼育されている鶏が産んだ卵である。


 緑黄色野菜がいっぱいのサラダ。やはりガルネオ島の畑で栽培されたものだ。


 最後に丸い器に入れられたコーンフレーク。これだけはイタリアの首都ローマで購入している。


 なぜコーンフレークだけが、ガルネオ島産でないのか? 


 それは○△□印のコーンフレークが一番健康によいとガルネオの母親が生前に言い残したからだ。


 マフィアのドンといえど、ガルネオは60を過ぎた今でも母親の言いつけを守っているのである。


 最初、ガルネオは朝刊を読みながら片手でコーンフレークに牛乳をかける。それをろくに混ぜもせずスプーンですくい口に入れて噛み砕く。


 次にゆで卵の上半分をスプーンですくうようにして二つに分け、スプーンに載った殻つきの白身は捨ててしまい、顔を出した半熟の黄身だけを食べる。


 事件はその時に起こった。 


 突然、庭に光る竜巻が発生したのである。


 青く光る竜巻は移動せずに体をくねらせて腰だけを振っている。


 この異様な光景を、ガルネオは新聞から顔を出して黄身が載ったスプーンを持ったまま見守る。


 竜巻が発生する時に必ず現れる黒い雲は空にはない。雲一つない青空が広がっているのである。


 そもそも、イタリアの気候で竜巻が発生するのは珍しく、ガルネオ島という孤島で青く光る竜巻が発生する事はありえない。


 この光る竜巻事件はガルネオ島の歴史始まって以来の怪事件だった。


 光る竜巻は成長してどんどん太くなり、ガルネオ自慢の白い別荘が飲み込まれると、ガルネオが覚悟を決めた瞬間に突如として消え去った。


 ガルネオは立ち上がる。両手にあった朝刊とスプーンは床に落ちる。スプーンに載っていた半熟の黄身は床の上で平ぺったくなっている。


 青く光る竜巻が発生した庭が気になって、ガルネオは両手に何があったのか忘れているのだ。


「あれはなんだ?」


 ガルネオの口から出る言葉は生粋(きっすい)のイタリア語。


 庭を目指して歩くガルネオは、自分がしゃべったのにも気づいていない。


 大きなガラス窓の向こうには、見たこともない金属の塊がある。


 ガルネオはパジャマ姿でガラス窓を開けて、素足で庭に下りた。


 手入れされた芝生に、ガルネオの足の裏を傷つけるものは何も無い。


 金属の塊に触ろうとするガルネオを、ガルネオの片腕であるトロッキオが止める。


「ガルネオ様、お待ち下さい。先に危険がないか確認をしますので」


 トロッキオの年は30後半。細身ですらりと伸びた身長は180センチ以上あり、体の太いガルネオとは対照的だ。


「これは神の仕業(しわざ)だ。でなければ、天国にいるママからの贈り物かもしれん。それをほかの者に任したとあっては、このガルネオの沽券(こけん)に関わる」


 ガルネオはゆっくりとトロッキオの手を遠ざけるが、トロッキオはガルネオから離れようとしない。


 走り出した子分がガルネオより先に金属の塊に触れて、何も無いですと首を横に振ってトロッキオに知らせる。


 ガルネオは、トロッキオが子分を見た瞬間にトロッキオを押し退けて歩き金属の塊に手の平をつけた。金属は(ほの)かに温かい。手の平を滑らせて金属の表面に沿って歩き、半周もしないうちにドアに行き着いた。


 ガルネオはドアにあるガラス窓を覗く。中にはアタッシュケースがある。アタッシュケースが気になって、ドアを開けようとするが、それもやはりトロッキオが止める。


「もしもの事があるといけませんので」


「大丈夫だ。どけ、トロッキオ!」


 今度のトロッキオは、ガルネオに怒鳴られてもどかなかった。ガルネオの両肩を掴んで行く手を(はば)んでいる。


 そうこうしているうちに子分がドアのハンドルを回して開けて中に入り、アタッシュケースを取り出した。


 ガルネオはトロッキオの体の横から顔を出してアタッシュケースを見る。


 トロッキオは、ガルネオと一緒に動いてガルネオの顔の前に自分の顔を移動させる。


「ガルネオ様、もし爆弾でも入っていたら」


 ガルネオの銀色の瞳は、トロッキオの琥珀色(こはくいろ)の瞳を睨む。


「くどいぞ、トロッキオ。これは神の仕業だと言っただろ」


 ガルネオはバスケットの選手のように体を左右に揺らしてフェイントをかけてトロッキオの陰から飛び出した。太った体からは想像がつかない早業で子分が持つアタッシュケースに手を掛けて、ロックを外し、なんの警戒心もなくアタッシュケースを開けた。

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