51:球体
『いてぇ。いてててて』
余りの痛さにカプリッオはイタリア語で叫んでいる事に気づいていない。
知子はカプリッオに振り回されながら必死に噛み付く。カプリッオの手は不味い。更に皮膚が骨の上で滑るのでとても噛みづらい。
だが銃を持つ手に噛み付いていなければ撃たれてしまう。知子はカプリッオに負けないように顎に力を入れる。
カプリッオは知子を押し返すが、それは知子が噛み付いている部分の肉が伸びて痛みを倍増させてしまう事にもなる。
「やめろ、糞ガキ! いてぇ」
「知子さん!!」
智は、トロッキオを押し退けて走り出した。
『てめえ!』
トロッキオは押されてよろめきながらも走り出した智に短機関銃を向ける。
圭介がトロッキオの腕を掴んで短機関銃を別の方向へ向ける。発射された弾丸は智の足元を通り過ぎて芝生に当たる。
父も手伝ってトロッキオを押さえ込んだ。
子分たちはレーザー銃や短機関銃を構えるが、トロッキオやカプリッオに当たりそうで引き金が引けず、おろおろしている。銃では無理だと気づいた子分が智と圭介たちに向って走り出す。
このままでは智も圭介も大勢のマフィアに取り押さえられてしまう。
圭介は叫ぶ。
「智、爆破させる。知子さんを守るんだ!」
「分かった」
智はカプリッオを殴り飛ばして、知子に覆い被さった。
「知子さん、このままじっとしてて」
知子は智に守られながら、口の中にあるカプリッオの不味い塩気をペッペッと数回吐き出す。
圭介はポケットにある機械の蓋をとって中にあるスイッチを押した。
瞬間、別荘の中で爆発音がして屋根の一部が吹っ飛んだ。
爆発した場所は、ガルネオが保管していたタイムマシンの実験BOXがあった場所。
圭介は使える部品を駆使して遠隔操作の爆弾を作ったのだ。当然その爆発も青い光りになる。
ただし智が投げていたソラマメの手榴弾と比べると、破壊力はあまりにも違っていた。
屋根に開いた穴から現れたのは青く光る竜巻。
竜巻はあっという間に広がり別荘を飲み込んだ。竜巻の青い光りは更に広がって庭にいる子分を巻き込んでいく。
青い光りを浴びた子分たちの体は、光りを帯びて崩れるようにして金色の粒子に変わり煙となって散っていく。
リビングの床に倒れているガルネオの死体も、召使いの死体も金色の粒子に変わり散っていく。
青い光りは智や圭介も襲うが、二人の体はバリアが守っているため、青い光を浴びても金色の粒子になる事はない。
そしてバリアは、青い光りを受けて球体の姿を現す。その球体の中にいる知子も両親も青い光りの影響を受けないため無事でいる。
知子は、智の腕の中で幻想的に光る青い渦を見ていた。
青い光りは渦を巻いて勢いよく流れているが、風圧は全く感じない。
智が通路で投げた小さな手榴弾と同じ青い光り。この青い光りで通路にいた子分たちは全員金色の粒子に変わっていったのだ。
自分の手を見ているトロッキオも金色の粒子に変わっていく。