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50:譲れない未来への思い

 知子はカプリッオと手を繋いで歩いていた。


 二人が歩いているのはガルネオ自慢の芝生の上。まるで公園にいるようだ。


 カプリッオがマフィアじゃなければただの散歩に見えるだろう。それほど一緒に歩く知子には、カプリッオが普通の人間に見えてならなかった。


「どうしてカプリッオさんは悪い人になったの?」


 カプリッオは足を止めた。


「悪い人!? 冗談じゃねえ。俺は悪い事なんざ、これっぽっちもやっちゃあいねえ。俺はただ、不幸で貧乏な自分の未来を変えているだけだ。トロッキオ爺ちゃんも幸せにしてやりたいしよ」


 知子の手を放して、外国人特有の大袈裟な身振り手振りで話す。


 知子は話を聞いて、カプリッオから普通じゃないズレを感じる。感じるが、トロッキオが智たちに短機関銃を向けているので、カプリッオに「あんたの頭、とっても悪いと思う」と挑発的な事は言えない。


「でも、未来の警察に捕まる予定なんでしょ?」


「捕まらねえよ。バカじゃないのか? 何考えてんだ? お前と話していると調子が狂って仕方がねえ」


 カプリッオに頭ごなしに言われ、知子の頭にカプリッオの息がかかる。その勢いで知子の前髪が左右に分かれた。


 知子は口を(とが)らせる。


「そんな事を言われたって分かんないよ」


 そして、知子の頭にコツンと硬いものが当たった。知子が見ようとして首を動かすと、硬いものは頭の地肌を滑って額の真ん中に当たる。そうなると硬いものが目の前にきてともてよく見える。硬くて冷たい金色のレーザー銃が。


「もうバリアもない。お前を守る奴もいねえ。俺とお前の二人きりだ」


 カプリッオの握るレーザー銃の銃口は知子の眉間を押さえていた。太陽の光りが当たり、金色の銃は一段と輝いている。


 知子は目を細めて眩しそうにレーザー銃を見てからカプリッオの顔を見た。背筋に寒気が走るが涙は出てこない。


 カプリッオの琥珀色(こはくいろ)の瞳孔が開いていく。


「なんだ、怖がらないのか?」


「怖いけど、私、大人になったらタイムマシンを作る事になってるから、それまで死なないの」


 カプリッオの瞳孔は大きく開き、真ん中の闇にまた知子の顔を映しこむ。その瞳は完全に知子を捕らえていて(のが)す様子がない。


「そんな未来、俺が変えてやる。お前を殺して、俺たちを不幸にしたタイムマシンをこの世から消す。それで俺と爺ちゃんは幸せになれるんだ」


 知子から見て、未来で生まれ育ったカプリッオには、幼い頃から(いだ)いてきた譲れない未来への思いがある。


 しかし、カプリッオから見て、過去で生まれ育った知子にも、譲れない未来への思いがある。


 知子は額に銃口が当たっているにも関わらず叫ぶ。全身全霊を込めて、譲れない思いをカプリッオにぶつけた。


「イヤ! タイムマシンは絶対に作る! だって私、智さんのお嫁さんになりたいんだもん!!」


 形勢はどう見ても、額に銃を当てられている知子が不利なのだが、知子はそれなりに頑張って仁王立ちになっている。


 ちょうど知子とカプリッオが言い合いをしている頃、智たちはトロッキオの誘導でタイムマシンから一人一人順番に降りていた。


 最初に父が降り、次に母が降り、圭介が降りる。そして、智が降りた時、あの知子の大声が智たちの耳に飛び込んできた。


「タイムマシンは絶対に作る! だって私、智さんのお嫁さんになりたいんだもん!!」


 父と母、圭介が同時に智を見る。


「智。やっぱり、朝のあの時、何かあったんじゃないのか?」


 圭介は、偶然とはいえ智が着替え中の知子の部屋のドアを開けてしまった事実が知りたくて聞く。


 智は懸命に弁解する。


「何もないよ」


「これから何かあるの?」


 何も分かっていない母は、何がなんなのか知りたくて智の言葉端を拾って聞く。


「いえ。何もありませんって」


「じゃあ、もう済んだ事なのか?」


 何も分かっていない上に、天然の父のツッコミは(するど)く、智はかなり動揺する。


「済んでいません。始まっていないんだから、済む訳がないでしょ」 


 両親は、智の意味深発言を興味津々に聞いている。


 日本語が分からないトロッキオも、短機関銃を構えるのを忘れて智の顔を見ている。


 今短機関銃は誰も狙っていない。なのに、タイムマシンを降りたばかりの智は、周りからの視線を痛いほど身に受けて、矢面に立たされた心境になっていた。


 知子は、自分の未来のためにカプリッオと戦っていた。


「私が智さんと同じ大人になったら、タイムマシンに乗って、智さんのお嫁さんになって、ハネムーンは世界一周旅行をするの」


 唖然としているカプリッオに、知子は目くじらを立てて言い続ける。


「いい? ちゃんと聞いて。まだほかにもあるの。私にノーベル物理学賞をくれるノーベルに、こんにちはの挨拶もしないといけないの。大人になった私は、タイムマシンに乗って、いっぱい、いっぱい、やる事があるんだから!!」


 これは10歳の知子が真剣に考えている未来の構図。


 だが、カプリッオには子供の戯れ事(じゃれごと)にしか聞こえない。


「うるせえ、(くそ)ガキ! 何がハネムーンだ。何がノーベル物理学賞だ。お前は今から死ぬんだ。そんな未来はねえんだよ」


 カプリッオは、知子が逃げないように襟首を鷲掴(えりくびをわしづか)みにして銃口を知子の眉間に押し付ける。


 知子はカプリッオのレーザー銃を両手で掴んだ。自分の額から銃口を外し、カプリッオの手に噛み付いた。

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