5:仲良く三人同時押し
ベンは数字が表示されているパネルに手をつく。
「で、誰が発射のボタンを押すんだ?」
「そりゃあ、決まってるだろ」
ロイは、パネルの上にあったベンの手をボタンの上に載せる。
ベンは意外だと喜ぶ。
「俺? いいのか俺が押しても?」
「何を勘違いしている」
ロイはベンの手に自分の手を重ねる。重ねてから首を動かして、黙って突っ立っているアルに手を重ねろと合図を送った。
アルは自分に指をさして言う。
「兄貴、俺もいいんですか?」
ロイとベンは同時にハモッて言う。
「当たり前だろ。お前もメンバーなんだから」
「あにきぃ〜」
アルは突っ立ったまま鼻をすすって鳴らす。
「泣いてんじゃねぇよ、バカ」
「早く手を置けって、ボケ」
アルは嬉しそうに二人の手の上に自分の手を置いた。
「俺、兄貴たちに一生ついていくっす」
「気持ち悪い事言ってんじゃねぇよ」
「この前、そう言ってトイレにまでついて来ただろ。お前は」
なんだかんだと言いながらも二人の兄貴はアルが大事なようだ。
アルも二人の兄貴との腐れ縁を今さらながらに感じて嬉しそうだ。
「えへへっ」
「泣きながら笑うな。バカ」
「この変態野郎」
そして、ボタンは押された。
ロイは、くわえているタバコを小刻みに揺らして言う。
「今、ボタンを押したのは誰だ?」
ベンは首を横に振る。
「俺は押してねえ。お前か?」
「兄貴、俺も押してないですって。三人の手の重みでボタンを押してしまったんじゃないですかね?」
ロイとベンは顎を落とした。
「なにぃ! 俺の……、ハードボイルド人生に傷が……」
「仲良く三人同時押しのセオリーが、ここぞという時に崩壊するとは……」
嘆いている二人の兄貴+きょとんとしているアルの周りで、室内にある全ての機械は動き出し個々に青い光を帯びる。
光は外側から中へと円を描いてコードに沿って移動していき、渦巻きキャンディの渦そっくりの光のデザインが浮かび上がり、螺旋となった光の触手が中心にあるタイムマシンに触れた時、タイムマシンを中心に渦は背を伸ばして高くなり青い光の竜巻となって立ち上がった。
光の渦の中にいた三人の傭兵は、口を開けて身の回りで起こっている不思議な現象に見とれている。
「なんて綺麗なんだ」
「美しい」
「俺、生きていて良かったっす」
風圧はないようで、感嘆している三人の頭髪はなびいたりしていない。ただし、三人の体は、頭から金粉を被ったように煌き、それは金色の煙となって少しずつ竜巻に巻き込まれていく。
「兄貴、これなんすか?」
アルは手を見せて言う。アルの手は既に指の第一関節が消えてしまっている。今もアルの指から金色の煙が立ち昇り竜巻に吸い込まれている。痛みは全く感じないようだ。
「どういう事だ?」
ロイがくわえているタバコも金色の煙になって竜巻に吸い込まれていく。
「俺たちヤバイんじゃねぇのか?」
そう言うベンの頭の上半分は消えて、残っている顔から金色の煙が湯気のように立ち昇り竜巻に吸収されていく。
床にある警備員の死体も金色の煙となって消えていく。
竜巻は光りながら回転運動を続け、三人の男の体が全て金色に光る煙に変わった時、機械の外側から青い光がなくなっていき、光の渦は中心にあるタイムマシン上の竜巻だけとなり、その竜巻もタイムマシンに吸い込まれ、竜巻の背丈は低くなり、青く光る竜巻はタイムマシンと共に消え去った。