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49:過去

 智がモニターを確認する。


 モニターの真ん中に「controlling automatically」の文字が表示されている。


 圭介は操縦席から降りて(かが)んで床に手をつく。


「智、操縦を代わってくれ。なんでもいい、自動制御解除のパスワードを叩き込んでくれ。私は今から自動制御システムを壊す」


 智は操縦席に座る。モニターを見ながらボタンを押す。智もタイムマシンの操縦ができるようだ。


「えっと……。世界征服。金儲け。女遊び。イタリア語がダメなら日本語か。それとも英語……」


 智は思いつく言葉を入力するが、どのパスワードもエラーになる。


「マフィアが考えそうな言葉ってなんだ? 分からないよ」


 知子の父が後ろから言う。


「ケジメ。任侠(にんきょう)。義理と人情は?」


「パパ、ダメよ。日本のヤクザじゃないんだから」


 母はこんな時も父にツッコミを入れている。


 圭介はモニター下のパネルを開けて、いろんな色の回線を引っ張り出している。


「これは時空座標計算システム。これは時空間推進システム。なんだ!? この無駄な配線は? ええい、自動制御システムはどこにあるんだ」


 圭介は自動制御システムを探し出せないようだ。


 そしてついに、タイムマシンのモニターは2008年を表示した。


 マフィアたちの目の前に、また青く光る竜巻が起こりタイムマシンが現れる。


 タイムマシンは静かに芝生の上に着陸すると光る竜巻は消え去った。


 トロッキオはタイムマシンへ行く。中を覗くと、知子たちが騒ぎながらモニターを見ている。


 圭介は四つん這(よつんば)いになって、四角くく開いている壁の穴からコードや機械の一部を引っ張り出している。


 トロッキオは思いっきりドアを開けた。


 知子たちは一斉にトロッキオに注目する。


 カプリッオがトロッキオの隣に立つ。顔や体型が似ているトロッキオとカプリッオ。血が繋がっているのは一目瞭然。トロッキオはレーザー銃を知子たちに向けた。


 カプリッオは知子だけを見据え、その瞳孔は開いて中央の闇に知子の姿を映しこんでいる。


「知子。こんにちは」


 外国語訛りの日本語が、粘り気(ねばりけ)のある発音となって知子の耳に届き、その気持ち悪さに知子の背筋に寒気が走る。


 しかし、どんなにイヤな相手でもしなければならない時がある。


「こん……にち……は」


 知子は母にしがみつきながら挨拶をした。生きるために。


 カプリッオは満足な表情をする。


「いい子だ、知子。こっちにおいで」


「行くな! お前に知子さんは渡さない」


『動くな!』


 レーザー銃を出したトロッキオに智は飛びついた。


 トロッキオはレーザー銃を撃つが、智のバリアが働いてレーザーの威力は無力化する。


 その智にカプリッオは短機関銃を突きつけた。


『バリアで身を守っているとはな。道理で部下全員でレーザー銃を撃っても死なない訳だ』


 動きを止めた智を見て、カプリッオはトロッキオに短機関銃を渡した。


『爺ちゃん。バリアにレーザーのようなエネルギー攻撃は効かねえ。こういう時は弾丸のような物理攻撃じゃないとな』


 トロッキオはレーザー銃から短機関銃に持ち替える。


『そうなのか』


『うん。これ、未来の常識』


 カプリッオは智を愛おしそうに見つめながら言う。


「智、俺はお前が欲しい。だが今はあとだ」


 カプリッオは知子に手を出した。


「知子。おいで」


 知子は母にしがみついて動かない。


「知子、来ないのか? 俺の言う事を聞かないと山田里美と安田佳枝を殺すぞ? 二人は知子の大切な友達なんだろ?」


 カプリッオは知子の友人をも把握している。里美と佳枝のところにマフィアの子分が潜伏しているのか。 


「さあ、お姫様。こっちにおいで」


 カプリッオはチロチロと赤い舌を見せて知子に話しかけながら捕らえる機会を狙っている。不気味に光る琥珀色(こはくいろ)の瞳。


 知子はカプリッオの顔がトカゲの顔に見えてきて、カプリッオの手に触るのもイヤなほどに気持ち悪さを感じてしまう。


 しかし、このままでは智は奪われ、里美と佳枝もいいようにされてしまう。


 トカゲのカプリッオに人の道理は通じない。こうなったらもう戦うしかない。知子は母から離れた。


「知ちゃん!」


 母は知子の手を握る。


『動くなと言っただろ。そんなに死にたいのか?』


 トロッキオが母に短機関銃を向ける。


 イタリア語は分からないが、何が言いたいのかは察しがつく。


 知子はトロッキオを見た。


「ママを撃たないで。私、行くから」


 知子はカプリッオの手の握る。気持ち悪いと思っていたカプリッオの手は人の温かさがある。カプリッオにも自分と同じ血が流れているのだ。


 知子はこんな時にも考える。カプリッオはどうしてマフィアになったのか。カプリッオの過去に何があったのか。


 知子は足を踏み出してタイムマシンから降りる。タイムマシンから降りただけなのに、知子は自分がカプリッオと同じ世界に踏み込んだような気がしてならなかった。

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