48:テレビのリモコン
知子たちは走り、リビングへ駆け込む。
ガルネオが朝食をとっていたリビング。大きなガラス窓からは青く広がる芝生が見える。そのガラス窓の傍にガルネオが倒れていた。床にはおびただしい量の血が広がり、召使いが淡々とした表情で床に広がった血を拭き取りながら掃除をしている。
母は悲鳴をあげて父にしがみついた。父は母の背中を撫ぜながら呟くように言う。
「一体ここで何があったんだ」
知子も何があったのか見ようとするが、圭介が知子の額を自分の肩に押し当てた。
「知子さんは、見ないほうがいい」
「なんで?」
知子は頭を動かしてみるが、圭介の大きな手は知子の頭を掴んでいるため動かせない。
「人が死んでいるからです」
「知ちゃん、絶対に見たらダメよ」
母も悲鳴混じりに言う。
知子が、誰がどうして死んでいるのか、どんな状態で死んでいるのか、考えているうちに、またもや扉や壁から貫通したレーザー光線が飛び出して知子たちを襲う。
無差別に発射されているレーザー光線は、リビング内を飛び交い召使いに命中し、召使いはバタバタと倒れていく。
知子の耳に、撃たれて苦しむ召使いの声が入ってくる。知子は怖くなって圭介にしがみついている手に力を入れた。
とりあえず知子たちは、圭介と智のバリアで守られているから大丈夫だが、追いついたカプリッオたちに捕まってしまったら元も子もない。
圭介は逃げ道を探して辺りを見回し、芝生の上にある大きな箱に気づく。
「あれは!」
庭にカプリッオが乗って来たタイムマシンがある。
智も気づき、知子たちを庭へ誘導する。
「外に出て」
庭に出た圭介は知子を芝生に下ろした。
「知子さん、自分で走れるね?」
「うん」
圭介は知子にレーザー光線が当たらないように後ろを警戒しながらタイムマシンに向う。
智も両親を先にタイムマシンへ走らせて後ろを警戒しながらタイムマシンへ向った。
圭介が走り寄ってタイムマシンの外壁に触れて、窓ガラスから中を覗く。
「ガルネオの屋敷内にあったものと同機種だが、これにはエンジンがある」
圭介はドアを開ける。
「みんな、これに乗るんだ」
知子たちはタイムマシンに乗り込んだ。
圭介は操縦席に座り、パネルのスイッチをオンにしていく。
最後に智がタイムマシンに乗り込みドアを閉めた。
圭介は操縦桿を握る。
「未来へ。私たちの時間へ移動します。未来へ行けば時間警察が私たちを保護してくれるはずです」
父と母は喜びの声をあげる。
「やった、これで助かる」
「私たち、助かるのね」
知子も父と母と手を取り合って喜ぶ。そして、死なずにすんだ智とも手を取り合った。
「よかった、智さんが死ななくて」
「うん。これもみんなのお陰だよ」
知子たちは手を取り合って喜び合った。
タイムマシンの周りに青く光る竜巻が起こる。タイムマシンは竜巻のエネルギーを受けて浮上する。
カプリッオたちはリビングに駆けつけた。
リビングには召使いの死体があるだけで、知子たちがいない。
トロッキオは庭の竜巻を見て驚く。
『なんて事だ!』
タイムマシンは浮上し、その中に知子たちが乗っている。
カプリッオからは笑顔が零れている。
『爺ちゃん、大丈夫。これがあるから』
カプリッオは懐から機械を出した。金属に包まれたボディにはボタンがいくつもついている。それはテレビのリモコンに似ていた。
『これを、こうして、こうすると』
カプリッオはボタンを押していく。
焦るトロッキオ。
『方法があるなら早くしろ。タイムマシンが消えてしまうぞ』
カプリッオがボタンを押している最中に、タイムマシンはマフィアたちの目の前から消え去った。
トロッキオは悲しみの声を上げる。
『消えてしまった。俺たちの希望のタイムマシンが……』
トロッキオは吹き残りの小さな青い竜巻が消えていく様をずっと見続けた。
知子たちは、タイムマシンの中で喜び合っていた。
「未来に行けるとは思わなかった。未来の私に会えるかな」
知子はとても喜んでいる。
智も死ななかった自分自身に胸を撫で下ろしている。
「きっと、未来の知子さんは、未来のケーキを出してみんなを歓迎すると思うよ」
母も嬉しさ一入で言う。
「まあ、未来のケーキですって。もうパパ、どうしましょう」
「どうしようって、お前、食べるしかないだろう。ぬはははは」
父の笑いは止まらない。
圭介はみんなの笑い声を聞きながら操縦桿を握っていた。モニターの表示はタイムマシンが順調に1年ずつ未来へ進んでいる事を示している。そのモニターに緊急メッセージが表示される。
controlling automatically (自動制御中)
モニターに表示されている年数が過去に戻りだす。
圭介はパネルのボタンを押すが、自動制御が解除できない。
「大変だ。自動操縦に切り替わった。2008年に戻ってる」
「えぇぇ!!!」
圭介以外の全員が同時に驚いて声をあげる。