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44:生命力

 知子は空になっている自分の食器を指さす。


「私は全部食べた」


(えら)いわね、知ちゃん」


 母は知子の食器を見ずに言う。


 知子は母の体を()する。


「もうママ、しっかりして」


 父の体も揺する。


「パパもしっかりして」


 知子は両親のベッドの間に立った。


「私は大きくなったらタイムマシンの設計をしないといけないんだから」


 父は知子の発言にも頭を抱える。


「何を言ってるんだ。タイムマシンは、ジョゼフさんがガルネオと一緒に作っている最中だろ」


「大人になったら私がもう一台作るの」


 母も言う。


「あとからタイムマシンを作るにしても、ここからじゃあ学校に行けないのよ。どうやって機械の知識を身につけるつもりなの? いつまで生きていられるかも分からないのに」


「未来の私はタイムマシンを発明したんでしょ? だったら私はきっとここから逃げ出したのよ」


「知子、何を言っているんだ。ここは島だぞ。地下室から逃げたとして、どうやって島から出るんだ?」


「そうよ、知ちゃん。それにあの頑丈なドアも壊さないといけないのよ。そんな事をしたら絶対に見つかって殺されてしまうわ」


「でも圭介さんが言ってた。過去と未来は常に影響し合っていて、私はタイムマシンの起源ともいえる存在だって。だったら未来の私も10歳の時にこの地下室にいたのよ。そして、ここから脱出した。じゃないと未来から智さんたちが助けに来た意味がないもの」


 父は横に食器を置いて知子の肩を掴む。


「知子、静かに。希望を持ちたいのは分かる。パパだってそう思いたい。だがな、現実はそう甘くはないんだ」


「そうよ、知ちゃん。この話が外の人に聞こえたら、ママたち本当に殺されてしまうわ。お願いだから二度と脱出の話はしないでちょうだい」


 完全に諦めて生きる気力が感じられない両親の姿。


 10歳の知子の生命力は、まだ生きたいと反発する。


「もう、パパママ。なんで分からないの!!」


 知子は地団駄を踏んで言う。親が言う事を聞いてくれなければ、子供がとる行動は1つしかない。


 (いにしえ)より伝わる子供の必殺技「駄々捏(だだこ)ね」


 辞書には「駄々を捏ねる」で存在し、子供の多くが会得する必殺技として世界的に有名である。


 ただし、必殺技「駄々捏ね」の使用期限は個人差があり、親が持つ必殺技により封印されてしまう事が多い。


 知子は手足をバタつかせ飛んだり跳ねたりして、自分の言い分を父と母に言い続ける。


「私は逃げたいの。タイムマシンを作りたいの。大人になって10歳の私を助けたいの。パパもママも、圭介さんも智さんも、みんな助けたいんだってば」


 父は知子を抱きかかえ(おさ)える。


「知子、いい加減にしなさい。そんなドラえもんのマンガのようにはいかないの」


「イヤだ。パパ、放して」


 母も父を手伝って知子を抑える。これが我が家だったら、駄々を捏ねてもどうにもならない事を教えるために知子を放っておくのだが、殺されるかもしれない今は放っておく訳にはいかない。


「知ちゃん。ちゃんと言う事を聞きなさい」


 静かにしなさいと知子に言う父と母も、声が大きくなってくる。


 そうしているうちに、ついに両親が恐れていた事態になる。


 外で足音がしたのだ。


 父は口を横一文字に結び、知子の口を手で(ふさ)ぐ。母も身構えてドアを見る。急に静かになる三人。だが、それが手遅れだという事を両親は気づいている。


「もしもの時は私が全て責任をとる。だから、お前は知子と共に生きてくれ。もし、知子の言うようにタイムマシンを作る事ができたら、その時は私を助けてくれ」


「あなた……」


 父の腕の中には知子がいる。その腕を伸ばして母の手を握る。


「愛している。お前も知子も」


「あなた、私も……」


 母も父の手を握り返す。


 ドアから鍵を開ける音がする。


 知子たち三人は息を飲む。もう知子も騒がずにじっとしてドアを見ている。


 ドアが開く。外から黒い服を着た男が二人入って来る。


 1番に入って来た男が言う。


「今、愛してるって聞こえたが、お邪魔だったかな?」


 2番目に入って来た男は中の様子を見て言う。


「大丈夫みたいですよ」


 入って来た二人は、圭介と智だった。


 知子は走って智に飛びついく。


「会いたかった。すっごい心配だったんだよ」


 知子は王子智の青い瞳を間近に見て、再会を心の底から喜ぶ。


 智は知子を抱き上げて、知子の顔についている涙跡を見ながら言う。


「沢山泣かせてしまったようだね」


「だって、智さん何も言わずに行っちゃうんだもん」


「こめん。言いたかったけど、マフィアにバレたら、こうして助けに来られなくなると思って」


「いい。圭介さんと智さんが来るの、分かってたから。っていっても、ずっと考えてたから、分かったのはさっきだけど」


 圭介は、智にくっついている知子を見る。


「知子さんは、こんな時分から(かしこ)い人だったんだね」


 圭介は知子の頭を撫ぜた。

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