42:イタリアマフィアのドン
トロッキオは、カプリッオのされるがままになっていたが、やっと思考が追いついて、武装準備をしているカプリッオに聞いた。
「急にどうしたんだ? なんでレーザー銃がいくつも必要なんだ?」
「もうすぐここに警察が来る」
「何!」
「マジか!」
血相を変えているカプリッオの言葉に、ガルネオとトロッキオは同時に驚く。
カプリッオは木箱を引き摺ってリビングへ移動しながら言う。
「未来からFBIも、CIAも、インターポールも、軍も、みんなこの島に来る」
リビングに来たカプリッオは木箱をひっくり返して未来の武器を床にぶちまける。
量産された金色のレーザー銃ブローニング・ベビーは、床の上を滑り放射線状に広がる。
「全員できるだけ武装して、奴らに備えるんだ」
ガルネオの子分は次々にレーザー銃を拾って身につけていく。
ガルネオは棒立ちで叫んでいる。
「なんでこんなことになっちまったんだ? もうすぐタイムマシンが完成するって時によ」
武装準備をしていたカプリッオが急にガルネオに向き直る。
「あんたがいけないんじゃないか!」
「なんだと!」
目ん玉をひん剥いて怒るガルネオ。
トロッキオは喧嘩が始まりそうなガルネオとカプリッオの間に入って仲裁をする。
「カプリッオ。お前、ガルネオ様になって事を言うんだ。ガルネオ様、こいつをお許し下さい。あとできつく叱っておきやすんで」
ガルネオはトロッキオを突き飛ばす。
「うるせえ」
そしてカプリッオも突き飛ばす。
「貴様、どういうつもりだ? ああ? トロッキオの孫だと思って話を聞いてやりゃあ、いい気になりやがって。お前が生きているのも、俺が孤児だったトロッキオを拾ってやったからなんだぞ。その孫のお前は、この俺にたてつく気なのか?」
カプリッオは突き飛ばされても、すぐに戻ってガルネオの前に立つ。
「あんたがノーベルの娘をいつまでも生かしておくからこうなったんだ。博士がレーザー銃と手紙を送ったのに、台無しにしやがって。俺がタイムマシンで過去に移動して、開発されたばかりの10丁のレーザー銃を盗むのに、軍とドンパチやって何人の俺の子分が死んだと思う? てめえ、分かってるのか?」
「てめえだと! うるせえ、小僧。俺は世界五大魔王の一人だと呼ばれているんだ。このイタリアマフィアのドン・ガルネオを、てめえ呼ばわりするとは、生かしちゃおけねえ」
ガルネオは腹からレーザー銃を抜く。
カプリッオは持っていたレーザー銃でドン・ガルネオの胸を打ち抜いた。
「未来じゃあ、俺がドンなんだよ」
赤い光線はガルネオの胸を貫通し、その後ろの壁にも穴を開ける。
「お前が未来のドンだと……」
ガルネオはカプリッオを見据え銃を構えたまま後ろへ倒れた。
眼を見開いて仰向けに倒れたガルネオを見て、トロッキオが悲鳴混じりの声を上げて言う。
「カプリッオ、なんて事を!! ああ、ガルネオ様」
カプリッオは、トロッキオの前に手を伸ばして、今にもガルネオに覆いかぶさりそうなトロッキオの行動を止める。
「爺ちゃん。もうこいつに恩を感じる必要はねえ。このガルネオは、爺ちゃんの親父とお袋を殺して財産を奪った奴なんだ」
「なんだって!」
「俺はタイムマシンで過去を見てきた。爺ちゃんの親父はイタリアマフィアのドンだったよ。ガルネオはその子分さ。裏切ったガルネオから爺ちゃんの親父を助けたかったけどよ。時間警察の奴に邪魔されて、赤ん坊の爺ちゃんを助けて乳母に預けるのが精一杯だったよ」
トロッキオを育ててくれた女は貧乏だった。日々の重労働が祟って女はトロッキオが幼い時に死に、孤児になったトロッキオの前に突然ガルネオが現れた。不思議な縁だとトロッキオは思っていたが、まさが両親を殺していたとは。
トロッキオは、恨みとも悲しみといえない複雑な感情を抱く。
「なんて事だ……。俺は何も知らずに今までドン・ガルネオに尽くしてきたのか」
「そういうこった、爺ちゃん」
カプリッオは、ガルネオに散々利用されてきたトロッキオに同情しながら、トロッキオの背中を軽く叩いた。そして、周りにいる子分に叫ぶ。
「いいかお前ら。これからは、このドン・トロッキオ様がこの島を支配する。この未来のレーザー銃で」
カプリッオはレーザー銃を掲げる。
「お前らもレーザー銃を手に取れ。未来の武器があれば怖いもの無しだ。この銃で日本人のやつらを殺せ。今すぐにだ」
子分は床にあるレーザー銃を拾って次々に走り出す。
カプリッオはそれを見て安心した表情になる。
「爺ちゃん、これで未来が変わる。俺たちの歴史が始まるんだ。もうこんな小さな島に隠れて暮らす必要もねえ。ローマの真ん中に俺たちの豪邸をおっ建てようぜ」
「カプリッオ、よく来てくれた」
「爺ちゃん」
トロッキオとカプリッオは抱き合う。もうすぐ到来する前途明るい未来を喜び合った。