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41:子供の日

 次の日。


 5月5日の朝。日本では子供の日。


 ガルネオ島は今日も晴れていた。


 カモメが水平飛行で白い翼を優美に動かして飛んでいる。


 ガルネオは庭が見えるいつものリビングで朝食を摂っていた。


 本日はトロッキオも同席していて機嫌よく会話をしている。


 ガルネオは目の前のコンフレークを景気よく口に放り込んだ。


「タイムマシンの完成が待ち遠しいな」


 トロッキオはハムと野菜のサンドイッチを食べている。


「完成が早くなった切っ掛けが、父親の裏切りとは、腹が(ねじ)れるほど笑いましたよ」


「全くだ。よそのファミリーのトラブルほど面白いものはない」


「地下室放り込んだ時の娘の顔を、ガルネオ様に見せてやりたかった。(うら)みがこもった娘の黒い眼。あの娘、きっと親殺しの大物になりやすぜ」


「そいつは楽しみだ」


 ガルネオは声をあげて笑ってから、グラスに入った赤ワインを飲み干した。


 ガルネオとトロッキオは、今後の話をしながら朝食を続けている。


 その最中に、庭に突風が吹いた。突風は椰子(やし)の葉を運び、葉はガルネオ自慢の青い芝生に降りる。


 会話をしていたガルネオは、落ちてまた浮上した椰子の葉の動きを見て、食事の手を止めた。


「なんだ? あれは?」


 トロッキオも庭を見る。


「椰子の葉が庭まで飛んでくるなんて珍しいですね」


 ガルネオは気づく。また庭で何かが起こる事を。ガルネオは席を立った。


「また来るぞ」


 トロッキオはガルネオに釣られて立ち上がる。


「何がですか?」


 ガルネオは神の御前に来た信者のように、絶対的な存在を求め、それを得るために静かな表情で庭を見ている。


 トロッキオが何が来るのかと思い庭の隅々を見渡して探していると、芝生の上に青く光る竜巻が現れた。


 現れたばかりの竜巻はとても小さく、宙に浮かんでいて腰を振って回転運動をしていたが、次第に太く大きくなり、芝生にくっついて更に伸び上がり、天にも届く勢いで一気に成長を遂げた瞬間、竜巻はあっという間に消え去った。


 まるで夢を見ていたかのような超常現象。その竜巻はガルネオ自慢の青い芝生の上にあの箱を残す。日本の茶室のような大きな箱のタイムマシンを。


 ガルネオは走って庭に飛び降りる。トロッキオも走る。ガルネオは一番にタイムマシンにたどり着いてドアを開けた。もうトロッキオは危険だからと言ってガルネオの行動を止めたりはしない。


 だが、ガルネオはドアを開けてすぐに後退りをする。ガルネオの顔は驚きで眼と口が開いている。


 不審に思ったトロッキオはガルネオの横に並んだ。


「ガルネオ様、どうしたんですか?」


 そのトロッキオも驚いて後退りをする。


 タイムマシンの中には人がいた。トロッキオと同じくらいの30前後の男が。顔の作りもなんだかトロッキオに似ている。


 男はタイムマシンから出るとトロッキオに抱きついた。


「トロッキオ(じい)ちゃん!」


 トロッキオは万歳をしたまま硬直する。抱きついてくる男の顔は確かに覚えがある。だが誰なのかが分からない。


「トロッキオ爺ちゃんだと!?」


 驚いて男の言葉を繰り返したガルネオは頭を回転させてトロッキオより早く答えを出す。


「もしかしてお前、未来から来たトロッキオの孫か?」


 男は喜びながらガルネオの手を取って握手をする。


「さすがドン・ガルネオ。そうだよ。俺はトロッキオの6番目の娘の腹から生まれたトロッキオの孫。カプリッオさ」


 カプリッオは腕を広げて成長した自分自身をガルネオとトロッキオに見せた。


 普段のガルネオなら、呼び捨てにされた時点で怒り狂(いかりくる)い、場合によっては呼び捨てた相手を撃ち殺している。だが、驚きの連続とタイムマシンの再来で、(おこ)るのを忘れてしまっている。


 トロッキオはその隣で頭を抱えてよろめく。


「6番目の娘は、去年生まれたばかりで、まだ言葉もしゃべれないのに、俺の孫を生んで、その孫は成長して俺の目の前にいて……。俺の娘に手を出した奴は誰なんだ?」


 トロッキオの脳は突然の事態を把握(はあく)するのに時間がかかっていた。


 ガルネオはカプリッオの手を握りながら言う。


「で、カプリッオ。未来はどうなっているんだ? 俺の島はまだ無事か?」


 カプリッオは思い出したぞとばかりに話し始める。


「そうだよ、それ。俺は、それを教えるために来たんだ。未来は大変な事になっているんだ。ガルネオファミリーはとっくの昔になくなっちまった。ガルネオの島もねえ。代わりにでかい建物がおっ建ってしまってよ。警備が厳重で入れやしねえ。ガルネオは獄死。未来のトロッキオ爺ちゃんは刑務所の中で死にかけだ」


 ガルネオは声を張り上げて怒りを(あら)わにする。


「未来は全然変わってねえじゃねえか」


「そうなんだよ」


 カプリッオはタイムマシンの中から木箱を引き()って出す。木箱は持ち上げれないくらい重いようだ。


「未来から武器を持ってきた。これで国際指名手配されても安心だ」


 カプリッオが木箱を開ける。中にはレーザー銃がいくつも入っている。


「トロッキオ爺ちゃん。これを持って」


 カプリッオは、トロッキオにレーザー銃を渡す。


「これも。これも」


 カプリッオは、トロッキオのズボンのベルトの前や後ろにレーザー銃を差し込んでいく。

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