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33:戸惑い

 知子は、父の表情を見て静かに笑いながら、大人たちの会話を聞くが、圭介は全く笑っていなかった。


「はい、そうです。そのタイムマシンを欲しがる者や団体が、未来には沢山おりまして、タイムマシンを売ってくれ、知子さんを研究所に招きたいと、交渉を持ちかけてくるのはいつもの事で、タイムマシンを盗もうとしたり、知子さんを拉致しようと強硬手段に出る不届きな者もおり、未来の知子さんは国際レベルで保護される立場となっています」


 知子の父はもう何も聞き返さなかった。顔は驚いたままなのだが、黙って頷いて無言で圭介の話を催促している。


 圭介は、知子の父の表情が幾分落ち着いてきたのを見ながら話を続ける。


「その後タイムマシンの量産が可能になると、タイムマシンの特許権やノーベル物理学賞を欲しがる者が現れ、今度は過去の知子さんの命を狙うようになったのです」


 そのあとは、智が説明をする。


「時空を移動するには特殊なエネルギーが必要になります。僕たちは時間エネルギーと呼んでいますが、その時間エネルギーが無許可で2008年に向けて使われたのです。その時のエネルギー数値は世界各地の時空移動を研究する施設で計測されました。計測の報告は国際科学アカデミー時空移動研究所に入り、研究所から連絡を受けた日本は、至急2008年の知子さんの身辺警護をするように、時間警察日本支部に要請をしたのです。その命令を受けたのがSPの僕でした」


「SPってなぁに?」


 知子の質問を聞き、智はまた笑顔になって答える。


「SPはね、セキュリティポリスといってね、人を危険から守る仕事なんだよ」


 知子は、だから智は毎朝一緒に登校してくれたんだと思った。


 今度は母が質問する。


「じゃあ、圭介さんもSPなの?」


「いいえ、私はタイムマシンのエンジニアです」


 圭介の答えを聞いて声を出した者はいなかったが、父親が一番驚いた表情をして固まっていた。


 母は少々戸惑いながら聞く。


「タイムマシンのエンジニアのあなたが、どうしてここに来たんですか?」


「未来では、タイムマシンの完成に伴って、新しい法律ができました。時間犯罪に関する法律です。その中に、タイムマシンを過去に保管してはならないという項目があります。それは過去の誰かがタイムマシンを発見して悪用するのを防ぐためです。私は2008年に飛んだタイムマシンを未来に戻すためにきました。もしそれができなければタイムマシンを破壊しなければなりません。それともう1つ」


 圭介は急ににっこりとして知子を見る。


「私も技術者として、ノーベル物理学賞を受賞した加藤知子さんの子供時代の生活を見てみたかった。まあ、これは任務以外の事なので、未来の人には秘密にしておいて欲しいのですが」


 圭介は苦笑する。


 父は、拉致された状況下で未来の人間に告げ口なんかできる訳がない、と思ったが、そのツッコミは知子を助けるため、未来からわざわざ来てくれた礼としてあえてしなかった。


 その後も、これからどうすればいいのか? 助けは来るのか? など、両親の圭介に対する質問は続き、圭介は「定期連絡がなくなったので、未来の時間警察も私たちを探していると思います。ガルネオがタイムマシンの技術を欲しがっている限り、知子さんとご両親は殺される事はありません」と説明をし、そのほかの質問には全て分からないと答えた。


 昨夜の知子は、難しい表情をしている大人たちの顔を見ながら、ずっと会話を聞いていた。


 タイムマシンは、アニメやマンガを見ているから知っている。でも自分が作るとは到底思えない。


 ノーベル物理学賞は、毛ガニを食べた日に圭介から説明を受け、昨夜の大人たちの会話も聞いていたが、一夜明けた今もよく分からない。


 今の知子が理解している事は、ここが日本ではなくイタリアだという事と、自分たちが拉致されてここに連れてこられた事だけ。


 今ベッドに座って足を動かして遊んでいる知子は、昨夜の大人たちがしていた話の意味がよく分からなくても、誰が何を言ったのかは一言一句思い出せる。昨夜の王子智の笑顔も思い出せる。キング圭介の笑顔も思い出せる。両親もいる。クルーザーに一人でいた時に比べたら、ずっとずっと安心でいられると思っていた。


 そういう訳で現在は5月4日の朝なのだが、大人たちはいろいろな事があったせいで疲れて眠っているのか、両親も誰も知子の部屋に来ない。自分から両親の部屋へ行ったほうがいいのかと考えていると、ドアからノックの音がした。


『失礼します』


 中年女性の召使いが部屋に入ってくる。化粧のない顔だが、ガルネオやトロッキオと比べると、とても優しい表情をしている。ただし、その召使いが何を言っているのか話す言葉は分からない。


 知子はベッドから降りた。


「待って。圭介さんだったら、言葉が分かるから。今連れてくるから」


 走り出した知子を召使いは引き止めた。知子の顔の前に指を一本立てて見せる。


「何?」


 知子が召使いの指を見ていると、召使いは知子の裸足を指さした。


「下がどうかしたの?」


 召使いは体の向きを変えて外からワゴンを引っ張ってくる。


 そのワゴンには衣類と靴が載っていた。


 召使いは絨毯の上に靴を置く。茶色の子供用の革靴だ。


「私がこれをはくの?」


 知子が足を出すと、召使いは何度も頷いた。


 知子は足を入れる。きつくて足が入らない。


 すると召使いは別の靴を絨毯に置いた。それも茶色の革靴。今度のは少し大きいがはけない事もない。知子は召使いの前で両方の足を革靴に入れてはいて見せた。


 召使いは知子が靴をはいたのを確認すると、今度は衣類を手渡した。


 パンツ・肌着・服・スカート・靴下・春用の上着・ハンカチ。必要なものは全て揃っている。


「着替えるの?」


 知子は聞くが、召使いは会釈をすると部屋を出て行ってしまった。

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