31:安全
『ほう』
ガルネオはレーザー銃を下ろした。嬉しそうにトロッキオを見る。
『今のを聞いたか、トロッキオ? あの娘がタイムマシンの設計者だと』
『はい、聞きました』
ガルネオはとり憑かれたように笑い出す。天井を見て笑うガルネオの声が部屋中に響き渡る。
『がははは。こんなに笑ったのは久し振りだ』
ガルネオはまだ笑っている。笑いながらトロッキオにレーザー銃を見せる。
『お宝は、こいつじゃねえ』
トロッキオは信じられないといった素振りをして言う。
『なんでですか? その未来の銃を武器商人に売れば巨額の資金が懐に転がり込みますぜ』
『だがレーザー銃は新しく手に入ったこの銃を合わせて全部で11丁。売っぱらうにしても数に限りがある。俺たちもこの銃は使いてえ。だがよ、あの娘をうまく育てれば、俺たちの言うがままにタイムマシンの設計をして、あわよくばレーザー銃の設計もする。あの娘は生きている限り金蔓を生み続けるんだ』
トロッキオはガルネオの意見に反して首を横に振る。
『ガルネオ様。俺たちは、あの娘が大人になるまで待たなければならないんですか? イヤですぜ。その銃を売って金をファミリーで山分けにしましょう。そうすれば俺たちは全員遊んで暮らせますぜ』
ガルネオの表情が急に険しくなり、トロッキオに怒鳴った。
『うるせえ。俺が決めた事に口答えをするな。孤児だったお前を育てたのは誰だ? 俺だろ、トロッキオ。お前はその恩を仇で返すっていうのか? ああ?』
『いえ、そんなつもりは……』
『だったら、黙って俺の言う事を聞け。いいな!』
『……はい、分かりました』
トロッキオの返事を聞いたガルネオは召使いに叫んだ。
『おい、こいつらを部屋へ連れて行け。地下室じゃねえぞ。分かるな?』
トロッキオが言う。
『ガルネオ様、そんな事をしたらこいつら逃げますぜ』
『心配ない。ここは離島。そう簡単に逃げられやしねえ。それにこいつらを逃がすほどドン・ガルネオの子分はバカじゃないだろ?』
『そうですが……』
ガルネオは引き続き召使いに言う。
『とりあえずだ、こいつらのパジャマ姿をなんとかしろ。あと、娘の裸足もな。飯も食わせろ。栄養不足で頭が悪くなったら金が入らなくなるからな。がはははは』
ガルネオはまた笑い出す。
『未来は俺が変えてやる。研究施設も建ててやるさ。このドン・ガルネオが』
ガルネオは太った体を揺らしてパジャマ姿で踊りだす。
『世界征服も夢じゃねえ。タイムマシンも、レーザー銃も、全部俺のものだ』
知子の目に悪魔の姿をしたスーパーマリオ、ガルネオが映り、そして思う。この人はワリオだ、と。
ガルネオの笑い声は気味悪く、しゃべるたびに口から飛び散る唾が汚らしい。
両親も、気違いのように騒ぎ出したガルネオを怯えた目で見ている。言葉が分からないから尚さら怖いのだ。
召使いが知子たちを囲む。
圭介は知子たちに声を掛ける。まだ圭介の額の汗は乾いていない。
「パパさん、ママさん、知子さん。もう大丈夫です。身の安全は保障されました」
安全と聞いて父が真っ先に言う。
「ジョゼフさん、これはどういう事ですか?」
圭介は、ガルネオがそばにいるのであとで、という意味を含めて視線をガルネオに向ける。
ガルネオは、近くにいた女の召使いの手を取って一緒に踊っている。
「パパさん、とりあえず彼らに従って移動しましょう」
「分かった」
知子たちは召使いに連れられてリビングを出て行く。
最後に、知子の耳に嬉々として踊っているガルネオの奇声が届いたところでリビングの扉は閉められた。