30:特殊合金
知子と両親は震え上がって身を寄せる。
智が顔色を変えて切羽詰った表情で説明を始める。
『タイムマシンで来た。でもタイムマシンは無い』
ガルネオは銃口を智に向けた。
『なんでだ?』
『悪用されたら困るからだ』
『嘘をつくな。どこかに隠してあるんだろ?』
圭介が言う。
『嘘じゃない。本当にタイムマシンはない』
ガルネオは知子に銃を向けた。
『言いたくなるようにしてやる』
智は血相を変えて言う。
『本当にタイムマシンはないんだ。未来の法律で、過去にタイムマシンを保管する事は禁じられているから』
ガルネオは智の必死の説明に納得した。
『そういう事か。未来の法律で決まっているなら仕方ないな』
ガルネオは知子に照準を合わせる。
知子は怖がって母にしがみついている。
圭介の声が急に大きくなる。
『待て、その子を撃つな』
『タイムマシンが無いなら、もうお前たちに用は無い。この娘も生かしておくと俺の島がなくなる』
『待て、撃つんじゃない』
圭介は叫び続ける。
『その子はタイムマシンの設計者だ!』
圭介が叫んだ直後、辺りはシーンと静まり返った。
圭介は肩で息をしながらガルネオを見ている。
知子は声を荒げたキング圭介を初めて見た。イタリア語が分からない知子は、圭介がなぜ必死になっているのか分からなかったが、圭介の叫び声を全身に受け、勇ましいキング圭介の姿が知子の脳裏に焼きついたのはいうまでもない。
ガルネオは手首を動かしてレーザー銃の銃口を天井に向けた。
『今、なんて言った?』
圭介は息を荒くしながら言う。
『その子は、タイムマシンの設計者だ。その子を殺せばタイムマシンは存在しなくなる。タイムマシンが存在しなければ、タイムマシンに乗って来た私たちも2008年のこの時間に存在しないし、そのレーザー銃もお前の手から消えてなくなる』
『なんだ? 話が見えん。この娘は将来、俺の島を乗っ取るんじゃないのか?』
『正確に言えば……』
圭介が言いかけた言葉を智が止める。
『言ったらダメだ。マフィアに言ったら未来が変わってしまう』
『うるさい、小僧!』
ガルネオは両手にある二つのレーザー銃を智と知子に向ける。
『撃つな! 言うから撃つな』
圭介はまた叫ぶ。息を整えガルネオが持っている大きさの違う両方のレーザー銃を見ながら言う。
『正確に言えば、この島に時間移動の研究施設が作られ、大人になったあの子がタイムマシンを設計し、その設計を元にタイムマシンが作られるんだ』
圭介の頬に汗が伝う。
『それに、そのレーザー銃の金属部はタイムマシンの内壁と同じ特殊合金が使われている。その特殊合金の開発を依頼したのも未来のその子だ』