26:予定
海面に機体の腹をつけて浮かんでいる飛行機。
知子は、海に浮かんだ飛行機を生まれて初めて見た。
普通なら子供心に「飛行機が海に浮いている」と感嘆するのだが、乗員に腕を掴まれている知子はそんな余裕を与えてもらえず、乗員は黙って知子を甲板の端へ連れて行く。
クルーザーはエンジンを低く轟かせて、ハッチを開けた海面上の飛行機に横付けした。
知子は乗員に抱きかかえられる。抱きかかえられたのは2回目だ。今度はトロッキオではない。知子は、この人は乱暴な事はしないだろうと思っていると、乗員は知子を投げた。
「わっ」
一瞬の浮遊感のあと、知子は飛行機の乗員に受け止められた。乗員は恐怖で体を小さくしている知子を機内へ連れて行き、知子を機内の後方に下ろした。
床に座り込んだ知子は歯をガチガチと鳴らしながら震えている。
次にトロッキオが機内に乗り込んで来る。
知子は震える口を止めるために奥歯を噛み締めた。トロッキオは絶対に子供に優しくしない。車内で金色の銃を向けられてからトロッキオには気をつけなければならないと記憶している。知子はトロッキオと目が合わないように体を横に向けた。
その知子の耳に飛行機のエンジン音がまた届く。飛行機はほかにもあるようだ。
外はどうなっているのだろうか。両親と圭介は元気なのか。智は無事なのか。知りたがる知子の目の前で、トロッキオはハッチを閉めた。
知子を乗せた飛行機は海面から飛び立つ。機体は大きく傾き、知子の体は滑って機体の壁にぶつかる。飛行機は大きく旋回しているようだ。
トロッキオは知子に背を向けてシートに座り葉巻を吹かしている。
ここで泣いたらまた銃を向けられる。知子はそう思って身を侵食する恐怖感に耐えた。
飛行機は東から赤い味を帯びて徐々に白んでくる空を移動する。空全体が白んだ頃、飛行機は空母の上空を飛行し、旋回したあとに空母に着陸した。
知子は乗員に連れられて飛行機から下ろされる。夜の時は見えなかったが飛行機には車輪がついている。どうやら水陸両用飛行機のようだ。
その水陸両用飛行機が移動したあと、また同じ飛行機が着陸する。その飛行機から知子の両親が降りてくる。両親は、トロッキオの子分から身振り手振りで知子の所へ行くように指示を受けて歩き出す。途中、両親は知子を見ながら小走りになる。
「知ちゃん!」
「ママ!」
母は知子を抱き締めた。父も知子を抱き締める。
「知子、無事だったか?」
「うん。パパ、怖いよ」
次に圭介が機体から降りる。疲れた表情の圭介は何も言わずに知子の近くに移動する。
また飛行機が着陸する。一体何機あるのだろうか。
その飛行機から黒い服の人々が降りる。
その何人目かに智が降りた。知子は智をじっと見る。智の左脇にあった金色の銃はベルトごとなくなっていて、智の左頬はアザになっている。アザは知子の目の前で殴られた時のものだ。それは間違いなく智だった。
智は移動して圭介の横に並んだ。
圭介は小声で言う。
「殺されたと思ってた」
「僕もね」
圭介と智の会話を聞いて、知子の父も話して大丈夫と思ったのか、父は小声で圭介に言う。
「ジョゼフさん。あなた方の黒い服といい、あの人たちの黒い服といい、これは一体どういう事ですか?」
父の声は小さいが目は噛みつかんばかりに怒っている。
圭介は溜息混じりに答えた。
「話せば長くなりますが、簡単に申し上げると、私と智は未来人で、この時間に生きる知子さんを助けに来たのです。酔い潰れて皆さんがぐっすり眠っているうちに速やかに事を終わらせる予定だった、と申し上げたほうが正確なのかもしれません」
「はあ!? 未来人??」
父は、そんな戯言には騙されないぞと、威嚇交じりの声を上げる。
今度は智が言う。
「あの、パパさん。僕はSPなんです。知子さんの身辺警護のために未来から来たのですが、未来で何かがあったようで、連絡しても増援部隊は来ないし、僕のほかにも未来の銃を持っている……」
智は両手をあげて口を閉じた。
トロッキオが会話に気づいて智に金色の銃を向けたからだ。
『こそこそと何を話している? 逃げる相談か?』
トロッキオの言葉は何回聞いても何を言っているのかさっぱり分からない。と知子は思う。