23:ドアップ
集団は知子を囲み、一人がしゃがんで布団を捲る。
知子はぐっすりと眠っていて起きない。
『この子がノーベル物理学者の加藤知子なのか』
聞き慣れない言葉。
『こんな幼い子を殺したくないな』
それはイタリア語。
『殺さなければ俺たちは務所暮らしだ』
声は全員男。
『仕方ないだろ。運命とはこういうものだ』
黒い服の間から金色の銃が出てくる。
金色の銃口が知子に向けられた。
その瞬間、ちゃぶ台で音がして、眩いばかりの閃光が走った。
『なんだ、この光は!?』
部屋にいた男たちは全員目が眩んで周りがよく見えないようだ。
知子の部屋に、新たな黒い服装の男が現れて、部屋にいた男たちを殴り倒していく。
『誰だ?』
『何が起こっているんだ?』
『よく見えん』
慌てふためく男たちは次々と倒されていき、黒い服装の男は最後の一人を倒すと知子を見下ろした。
全く息が乱れていない。覆面もしていない。それは智だった。
智は腰を下げて畳に片膝をつける。
「知子さん、起きて下さい」
向こうの部屋では、黒い服を着た圭介が両親を起こしている。
知子は体を揺すられて目を開けた。
ドアップの智の顔が見え、青い瞳が知子を見ている。
「智さん? え? 何? どうしたの?」
知子は、夢を見ているのか現実なのか、判断ができていない。
「知子さん、起きて着替えて下さい」
「え、着替える?」
10歳の知子にも恥じらいはある。智さんが見ている前で着替えるの? パジャマの下、下着だよ。見たいの? 今の知子はそれが一番聞きたい。
「早く逃げないと。急いで着替えて」
智は、知子を抱きかかえて布団に座らせた。
智に体を起こされて、ようやく知子は畳に倒れている黒服の男たちを目にする。畳には金色の銃が落ちている。
知子はビックリして智にしがみついた。その智の左脇にも、革袋に入った金色の銃がある。知子は怖くなって智から離れた。
倒れている男たちは覆面をしているので表情が分からないが、目が日本人の色をしていない。中には智の瞳と同じ色の男もいる。
「知子さんの服はどこ?」
智は近くのタンスから引き出しを開けていく。
ちゃぶ台がある部屋を挟んで向こうにある部屋では、圭介に起こされた両親が怯えて畳に座り込んでいる。
知子は、勝手に人のタンスを開けて衣類を探している智の姿に怯える。王子智が泥棒に見えるからだ。
じゃあ、畳に倒れているその他大勢は、仲間割れで喧嘩をして負けた人たちなのか。うちはそんなにお金持ちだったのか。
知子の頭の中に浮上した大きな?マークは、いろいろな疑問を従えて、知子の頭の中を通り過ぎていく。