2:女神の婿養子になりたいっす
夜空は今日も晴れていた。
3人の男は今日のような月夜の晩がとても嫌いだった。
服装は3人とも上も下も黒。白い所が見当たらない真っ黒な姿は夜の背景にピッタリとはまり、何もまとっていない顔が宙に浮かんでいるように見える。
ズボンの左右のポケットに両手を入れた男が空を見上げる。
「雲1つ無い満月を喜ぶのは、狼と天文学者くらいのもんだ。やっぱり神様は、俺たちの味方になっちゃあくれない」
「淋しい事を言うなよ。ベン」
呟くように言った男はポケットからタバコを取り出して口にくわえる。ライターで火をつけようとするが、ライターはカチカチと音を立てるだけで火がつかない。
「チッ。火の神様が意地悪をしやがる」
アタッシュケースを持っている三人目の男が、自分のライターに火をつけてタバコの前に出した。
「兄貴、俺のを使って下さい」
「有難うよ、アル」
男はタバコに火をつけると胸いっぱいに煙を吸い込んで、口と鼻穴からゆっくりと煙を出した。
三人の男の前には太いビルがそびえ建っている。ビルは塀に囲まれ、その頑丈そうな塀が、中にあるビルを守りながら、ビルを見上げている三人の男を威嚇し、男たちの行く手を阻んでいる。
塀の外は何も無いだだっ広い草原。所々にある監視塔がビルの周りを明るく照らして監視をしている。
ビルの玄関前には太い道が門まで伸びていて、門には太い鉄格子でできた扉があり、そこから道は外へと伸びていた。
三人の男は門の外の道の上に並んで立ち、月の光に照らし出された鉄格子の扉を見ていた。
真ん中にいる男がタバコを吸っている。
右端の男はポケットに手を入れたベン。
アタッシュケースを持ったアルは左端に立っている。
タバコを持っている男が言う。
「ハードボイルドな俺にとって、夜空にいる月の女神の微笑みは眩しすぎるぜ」
ポケットに両手を入れたベンが言う。
「ロイ。俺なら、月の女神を誘惑するね」
アルが冗談混じりに言う。
「兄貴。俺は、逆玉の輿で月の女神の婿養子になりたいっす」
「その顔で婿養子だと。バカじゃないのか、お前は?」
ロイは口から煙を出しながら言うと、短くなったタバコを高く上げて、振り向くことなく後ろへ投げ捨てた。
ベンはポケットから手を出して振り返る。
「ロイ。タバコを捨てちゃあダメだぜ。罰金もんだ」
アルも言う。
「そうっすよ。センサーに引っかかったら、オレたち捕まってしまいますぜ」
ロイはポケットから目出し帽を取り出して被る。
「なあに、見つかったら逃げればいいんだ」
ベンも目出し帽を被る。
「奴ら、逃げてもしつこく追いかけてくるぜ」
アルも目出し帽を被った。
「まっ、捕まっても、オレはニコチン検査に引っかからないからいいけどよ」
アルのニコチン話を聞いて、真ん中で喫煙をしていたロイは気を悪くしたのか、少し乱暴な口調で言う。
「つべこべ言ってないで、早く門を壊せ」
なぜか右にいるベンも口調が荒い。
「そうだ、早くしろ。お前が門を壊すのをオレたちは待っているんだぞ」
アルは渋々歩き出した。
「本当に兄貴たちは、勝手な事ばかり言うんだから」
アルは、アタッシュケースを地面に置いて、ポケットから手の平サイズのカプセルを取り出す。カプセルをひねりカプセルについているメモリを合わせると門に向って投げた。カプセルは地面に落ちたあと門へと転がって行く。
三人は同時にゴーグルをつける。まるで訓練された者のように。
ベンが聞く。
「時間は?」
アルが答える。
「30秒後」
ロイが言った。
「30秒は、遅いんじゃないのか?」
「兄貴、この前の時、20秒じゃ早いって言ったじゃないですか」
ロイとアルが向き合うと、ベンが二人の間に入った。
「言い合いをしていても始まらんだろ」
言い切った時、門は大爆発に見舞われた。
道路にいた三人は吹っ飛んで地面に転がる。
ベンが叫びながら立ち上がる。
「バカヤロー、火薬多すぎだ」
ロイも叫びながら立ち上がる。
「ニコチンをとやかく言う前に、お前の火薬をどうにかしろ。早死にさせる気か」
アルも立ち上がった。
「頑丈な門だから火薬を多めにしろ、と言ったのは兄貴たちじゃないですか」
ロイとベンは言い返した。
「俺たちが怪我をするほど火薬を多くしろとは言っとらん」
「そうだボケ」
二人の兄貴はアルを残して壊れた門へ走り出す。
「兄貴、あんまりだ。3日もかけて作った手榴弾なのに」
残されたアルも二人を追いかけて走り出した。