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14:どう書くの?

 数日たったある日。


 岐阜県の空は、どんより曇っていた。


 多少寒さは感じるが、長袖を着ていれば寒さは防げる。


 知子は授業が終わったあと、美里と一緒に同じクラスの安田佳枝の家に上がりこんで遊んでいた。


 宿題はもう済ませてある。


 遊ぶといってもただの雑談で、話題は知子の隣に引っ越してきた相馬智についてだった。


 安田佳枝は、左右にある肩につくかつかないくらいのお下げを揺らしながら話す。


「目の青い人、学校の門の前も通って行くよ。あの人、カッコイイよね」


 佳枝の服装は花柄が多い。母親の勧めらしく佳枝も好んで着ている。下はスカートだったりズボンだったりと日によって違う。


 今日は裾が膝下(ひざした)まであるスカートをはいている。


 隣に座る美里はきょうもフリルのついた服を着ている。長い髪が顔の前にこないように、頭につけているピンがかわいい。


「20歳なんだって」


 美里の説明に佳枝はちょっと驚く。


「大きい人だから30かと思った」


「近くで見ると童顔だから10代に見えるって。会話も子供っぽかったよ」


 美里はそんなに智と話していないのだが、さも知っているように話す。


 佳枝は興味津々に聞く。


「え、話した事あるの?」


「うん、あるよ。だって、知子の隣に引っ越して来た人だから。知子、目の青い人と一緒に歩いて集合場所に来るもん。ね、知子?」


 王子智の話は美里のペースで進んでいる。


 美里と佳枝の二人から見られ、二人の目がいろいろ知りたがっているようで、知子は身構えながら(うなず)いた。


「うん。私が会ったのは2、3日前だけど、引っ越してきたのは1週間くらい前って、ママが言ってた」


 今日、佳枝の家に招かれたのは、智の情報を聞き出すのが目的だったのかと、知子は気づいた。


 その作戦を立てたのは美里だろうか。


 佳枝は、智に興味があるようで、早速知子に質問を始める。


「名前知ってるの?」


「うん、相馬さん」


「どう書くの?」


 佳枝に聞かれて、知子は自分のノートの端に漢字で書いて見せた。


 佳枝は静かに驚く。


「変わった名前だね。初めて見た」


 美里も「相馬」の文字をじっと見て言う。


「竜馬は知ってるけど、相馬は初めてだわ」


 竜馬と言われて、知子は気づく。


「あ、違う違う。相馬はね苗字。名前は……」


 知子は迷った。青い目の王子の個人情報を、目の前のライバル姫2人に教えるべきかどうか。


「まだ知らない」


 知子は教えなかった。


 佳枝は考える。


「じゃあ、名前はなんていうんだろう。リチャードかな。ウィリアムかな」


 佳枝は、知子の母と同じ事を考えるが、口から出てくるのはイギリス王子の名前だったりする。


 それを知らない知子は、リチャードとウィリアムの名前は智に似合っていて恰好いいと心の中で喜び、言った佳枝を博識だと思い尊敬した。


 イギリス王子の事はニュース番組でたまに放送されているので、佳枝が本当に博識なのかは分からないが、佳枝は学年で上位に入るほど成績がいい。


 佳枝の家で智中心の雑談を楽しんだ知子は、夕方になった事もあり、帰る事にした。


 帰り道にする美里との会話は、美里の姉からの情報ということもあり、聞いているだけでも楽しい。


「お姉ちゃんから聞いたんだけど、今の生徒会長、彼女がいるんだって」


「本当なの、それ?」


「うん、5年1組の女子だって」


「へえ」


 ただし、情報の信憑性は低い。


 もっぱら学校の事を話し、美里と別れたあとは、一人で自宅まで歩く。


 その距離、ご存知のとおり約100メートル。


 知子の家は、帰りながら眺めると右手側になり、智の家より手前にある。


 智が好きな事もあって、自分の家より奥にある智の家に視線がいってしまう。


 借家同士の境界線はコンクリートの塀でできている。塀は知子の背丈より低く、知子は相馬家の庭を覗き見る事ができる。


 相馬家の庭はその塀に沿ってツツジの木が植えられている。ツツジは以前住んでいた人の趣味によるものだ。


 約100メートル離れていても、知子の目には相馬家のツツジの木がちゃんと見える。


 知子が智の家を見ながら歩いていると、智の家の玄関前にある庭で、人影が動いている事に気づいた。


 ツツジの木の間で見え隠れしている茶髪の頭は、智のパパのようだ。


 知子は、もしかするとパパと一緒に智がいるかもしれないと思い、足を早めた。


 智のパパは軍手つけて、立ったり座ったりしながら何かをしている。


 何をしているのか気になるし、智にも会いたい。しかし、それだけの理由で相馬宅へ行き、いきなり敷地内に踏み入っては変に思われてしまう。


 知子はとりあえず自宅へ行く事にした。相馬家の家も庭も見ずに、全く何も気づかない振りをして、自宅の門を開けた。

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