13:おばちゃんたちの日常会話
美里が知子のところに走ってくる。
「知ちゃん、おはよう」
美里は今日もかわいいフリルがついた服を着ている。そのかわいい姿で智にお辞儀をする。
「おはようございます」
「おはよ」
当然、智は美里にも、王子の笑顔で挨拶をする。
例え相手が恋のライバルだとしても、出会ったら必ずしなければならない事がある。
「美里ちゃん、おはよう」
知子は、笑顔で智を見上げている美里に挨拶をした。
智は体の向きを変えて言う。
「じゃあ、僕はこれで。知子さん、またね」
「うん、またね」
智は知子に手を振り、知子も手を振って智が歩いて行くのを見送った。
智の後ろ姿が遠くなってから、美里が瞳をキラキラとさせて知子に詰め寄る。
「あの人、誰?」
知子は、やっぱり美里は恋のライバルだと思いながら答える。
「隣に引っ越してきたお兄さん」
知子は、恋のライバルに青年の名前は教えない。
それでも美里は興奮する。
「あの人、カッコイイ。彼女いるの?」
知子はそれも教えたくないと思いながら答える。
「付き合っていた人はいるらしいけど、詳しくは知らない」
「やっぱり元カノがいるよね。あんなにカッコイイんだもん」
美里はため息混じりで、離れて小さくなっていく智の背中を見つめながら言った。
「どこの国の人?」
知子は、やっぱり青い目に気づくよね、と思いながら答える。
「日本人。あの人のパパがハーフなんだって」
「じゃあ、あの人クォーターね」
姉がいる美里は、その姉の影響もあり、知子よりませている。
「どこに勤めてる人?」
「知らない」
従って男を見る目も知子とは違う。
「年は?」
「20って言ってた」
「思ったより年上なんだ」
これで美里の興奮はなくなり、美里は静かになった。
「出発するぞぉー」
6年生のまとめ役の男子が、登校するために周りで遊んでいるみんなを呼び集める。
知子は美里と歩きながら、なぜ美里が静かになったのか、さり気なく聞いてみた。
「なんで年上だとダメなの?」
「だって、私が20になったら、あの人は30で。私が30になったら、あの人40だよ。今はカッコイイかもしれないけど、年を取ったら10歳離れたオヤジになるんだよ。ダメに決まってるじゃない」
ませている美里の考えは現実的だ。
それでも知子は、智が40になった姿を想像する。智が40になった姿は容易に想像できる。玄関で会った智のパパを思い浮かべればいい。智が40になったら極上の紳士になる可能性が高い。
知子はメンデルの法則を用いて、智の姿が将来極上の紳士になるという結論に至る。なのだが、10歳の知子はメンデルの法則を知らない。
なぜ知子はメンデルの法則を用いたのか? それは「○子さんはお母さん似、○夫さんはお父さん似」といった、おばちゃんたちの日常会話のお陰だったりする。
無意識に学者の法則を用いる知子。姉の影響でませた考えを持つ美里。
考え方の違う二人が、ずっと先の未来まで親友としてこの三次元世界で一緒に存在できるのも、相対性理論の1つなのかもしれない。