零話
俺は今日、彼女の凛子とバスで東北へ向かっていた。
「一郎くん。寒くない?」
凛子が毛布をかけてくれる。
「ああ。ありがとう。」
凛子は優しい子である。
それに可愛い。
初めてあったのは電車だった。
痴漢にあっていた彼女を助けたのがきっかけで仲良くなり、交際することになった。
そして、先日ポロポーズしたのだ。
あの時の凛子の顔は生涯忘れないだろう。
そして、彼女の親に挨拶に行くために、この深夜バスに乗ったのだった。
「一郎くん。」
凛子が右の方に頭をかけてきた。
「っ。」
固まってしまう。
未だにこういうことの一つ一つに緊張し、ドキドキしてしまう。
「またすぐかな、まだだよね。
どれくらいきたのかな」
凛子がバスの運転席の窓を覗こうと通路側に顔を出す。
「い、一郎くん!」
尋常じゃない声色に車内の人たちが何事かという声がしたが、構わず、凛子の見ているものを見ようと通路側に顔を出す。
何が・・・・
あまりに驚いて叫んだ。
「運転手さん!前!トラック!」
眠ってしまっているようだった。
前のトラックがクラクションを鳴らす。
「うわっ。」
運転手が目を覚まし、ハンドルを回す。
ガタン
「え?」
ジェットコースターの下る時の感覚。
車内が垂直に傾き、前の席に頭をぶつける。
そして、内臓が飛び出るような浮遊感。
咄嗟に何が起きているか理解した。
恋人である凛子。
彼女の手を握った。
地面に叩きつけられる瞬間、
「一郎くん」
彼女の囁きが聞こえた。
「ぐはっ」
衝撃が走る。
魂が抜けていく感覚。
『こんな所で・・・・凛子』