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きりがよかったので短め





 話し合いを終えた俺はベルに連れられ酒場の更に奥へ進んでいた。

 どこへ向かうのかと辺りを観察しながら着いて行くと、特に何も無い通路の中ほどで突然ベルが足を止める。



「ここから先は他言無用よ。話したら命の保障は無いわ」



 ベルが通路の壁に手をかざすと、突然壁に紋様が浮かび上がる。その紋様が徐々に輝きを増し、突然崩れるように消えるとそこには先ほどまで無かったはずの扉が現れていた。



「隠蔽の魔法陣よ。魔力を登録してないと解除できないから変なことは考えないようにね」

「はぁ…」



 特に何をするつもりも無かったので曖昧な返事になってしまったが、気にしていないのかベルは扉を開けて先に進もうとして…できなかった。どうやらベルには4メートルはあるだろう巨大な扉は重かったようだ。

 魔族としての知識で疑問に感じなかったが、この魔国にある建物は基本的にかなりでかい。魔族には大きな者もいるため仕方ないのだが、今いる酒場も天井までは5メートル程あるし、扉も軒並み4メートル程だ。普通の魔族は外見はどうあれ人間の男よりも力が強いものばかりなので特に苦労はないが、ベルは外見どおりの力しかないのかもしれない。

 とりあえず、「うー!」とか「ぬー!」とか唸りながら扉を押しているベルが可哀想なので後ろから扉を押してやる。声も掛けずに手伝ったせいか少しつんのめったベルが恨めしそうな視線を向けてくるので謝罪の意味を込めて頭を下げる。



「ありがと…。にしてもここまでか…」



 小さく呟くように礼を言われるが、後半の言葉が聞こえず聞き返す前にベルは奥へと進む。礼に対する返答も後半の言葉に対する質問もタイミングを逸してしまった俺は再びベルの後を追った。

 扉の中にあったのは地下へと続く螺旋階段。等間隔に照明があるおかげで足元の心配は無いが全体的に薄暗く不気味な印象を抱かせる。そんな階段を迷い無く下りていくベルに続く。5分くらい下っただろうか、長々と続いていた階段が終わり再び目の前に扉が現れる。だが今度の扉は最初から魔法陣が浮かび上がっており、その魔法陣はまるで心臓が脈打つかの用に赤く発光を繰り返している。



「これは撃退用、さっきのと同じで魔力を登録してないと開かない。登録してない奴が開けようとしたらどうなるかは想像に任せるわ」



 余りに禍々しい外見の魔法陣に、実はただのこけおどしではないか?なんて捻くれた考えが頭に浮かんだ。基本的にあまり軽口など言う方ではないが、もしもの為にもう少し親しくなっておきたい俺は丁度いいとばかりに口を開く。



「ただのこけおどしでしょう?」



 その瞬間扉の魔法陣を消したベルが驚愕の表情を浮かべながら振り向いた。予想外の反応に驚き、正面から彼女を見つめていると「へぇ」と一言呟き彼女は扉の脇に動いた。



「あの…なにか…?」

「あぁ、気にしないで。でも流石ね、あれに一目で気づいたの、貴方が初めてよ」



 扉を開けている俺をちらりとも見ずに答えられた一言に今度はこちらが驚愕の表情を浮かべることになった。もしベルにこちらの表情が見えていれば相当な間抜け面を晒すことになったに違いない。軽い冗談のはずだったのだが…。

 そんな俺の様子に気づかないベルは驚きのあまり動きの止まった俺に怪訝な視線を向けてくる。



「何してるのよ?早く避けて」



 その言葉で我に返った俺が扉を固定したまま脇へ避ければ、彼女はスタスタと部屋の真ん中に鎮座する巨大な姿見の前へ歩いていく。俺もその後ろ続き、視線を巨大な姿見へ移す。部屋の中央に鎮座するそれは部屋の天井に届きそうな大きさを誇り、細かな意匠を施されたその姿はインテリアとしても十分なセンスの良さを感じさせる。だが俺はそんな姿見から原因の分からない違和感を感じていた。呪いなんかをイメージさせる不気味さを伴う違和感ではなく単純に何かがおかしいという違和感。その正体が掴めず上から下へと動かしていた視線が俺の腰辺りまで降りたところで気づく。この巨大な姿見は鏡の正面に立つベルを映していない(・・・・・・)のだ。よく見れば映っている部屋もこの部屋ではない。



「こ、これは…?」

「転移鏡。2つの鏡が対になって、お互いが映してる場所へ一瞬でいける道具よ。ここに映ってるのはこれの転移先」



 そういう事かと、姿見に映るここでは無い部屋を見る俺をよそに、ベルは姿見に取り付けられている宝石に手を翳す。すると硬いはずの鏡面が波打つように揺れ、発光を始めた。



「貴方が先」

「どうすれば?」

「鏡の中に入るだけよ、ほら、眩しいから早く」



 恐る恐る姿見に向かって足を入れるとまるで向こう側から誰かに引っ張られているかのように吸い込まれる。全身が姿見に吸い込まれた瞬間視界が暗転し、一瞬の浮遊感のあと目を開ければそこは先ほどまで姿見に映っていた部屋だった。「おお…」なんて呟きながら呆然としていると背中を押される。



「邪魔!」



 俺を押しのけたベルは「行くわよ」と一声だけ掛けてスタスタと扉へ向かう。小走りでベルに追いつき軽く謝罪した後、ベルの向かう先にある扉を開ける。今の俺の姿はどう見てもベルの従者だが、よく考えればこの依頼の間は部下なのであながち間違ってもいない。そんな考えに苦笑していればすれ違いざまにベルから視線が飛んでくる。



「何で笑ってるのよ?」

「いえ、これでは部下というより従者だなと」

「…従者なんて1人いれば十分よ」



 ほんの少し垣間見えたベルの苦々しそうな表情とその声音にどうやら話題の選択を誤ったことを知るが後の祭りだ。少し気まずい空気のまま酒場よりもかなり豪華な廊下を進み、着いたのは先ほどまでの扉とは一線を画す扉。まるで前に立つ者を威圧するかの様な扉は、ベルが前に立つと自ら頭を垂れるように内側へと開かれた。

 そこにいたのはかなりの存在感を放つ5人の魔族。その魔族達が部屋の中央に鎮座する巨大なテーブルの周囲を囲むように席についている。



「集まっているようね」



 そう言いながら最も奥にある席に向かって歩き出すベルの後ろをついていく。当然集中する5人からの視線を無視しながら、チラリと視線を向けると見覚えのある姿が目に映る。5人の中でも一際存在感を放つその魔族は、この王都へ入る際に見かけた歴戦の風格を持つ四腕の魔族だった。あの魔族が部下という事実に今まであまり深く考えていなかったベルの正体になんとなく嫌な予感がし、冷や汗が浮かぶ。そんな俺の心情など気づくよしも無いベルは高らかにこう告げた。



「七将会議を始めるわ!」



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