五月二十一日
【五月二十一日 月曜日 ここがあの男のルームね! の巻】
どみにちは! 元ネタを分かりやすくタイトルに使うマチです。著作権法が許さなくても、パーフェクトガールは許します。
今日のマチはさほど行動的ではありませんでした。結局あれ以来安藤(っぽい人)さんにも神様兼先輩にも会えてませんし、私は私のことだけを頭に入れて一週間を過ごしていたようなものなのです。
ま、一瞬たりとも退屈しませんでしたけどね!
そもそも私が私に飽きるということが生物学的、医学的、文法的、形而上学的、あらゆる観点で成立しうるのでしょうか? 形而上学ってどんなものなのか分かりませんけど、多分成立しませんね。……いえ、多分じゃなく絶対。
そんな私のことについてお話してもよいのですけど、今日は私のパーフェクトノーズが最近妙な臭いを感じとっていることについて話しましょう。
それは臭いというよりか匂いと表記すべき、微量の甘さを感じさせるものです。しかし私にかかれば、その匂いの奥深くに……こう、嗅覚では判別できない類の臭気があることも分かるのです!
それはおそらく、名探偵が事件の気配を感じる感覚に似ているでしょう。
臭いの発生源はすでに検討がついてました。
お兄ちゃんです。
お兄ちゃんの体からプンプン漂っている臭いの正体を突き止めるため、私は今、現在、なう、お兄ちゃんの部屋のドアに耳を当てています。
夜九時十分。帰宅して、ご飯とお風呂を済ませ、部屋でリラックスする時間。
普段なら大抵、お兄ちゃんの部屋からはゲームの音か何かのページをむくる音かリズミカルな衣擦れの音しか聞こえてこないのですが、最近は違います。
ここ数日、お兄ちゃんは誰かと電話で喋っている様子なのです。
あのお兄ちゃんが。本と安藤さん以外に友達なんかいるはずのないお兄ちゃんが。
まあ普通に考えて電話の相手は安藤さんなのでしょうが、それも確かめてみなければ分かりません。
とりあえずこの電話がお兄ちゃんの臭いに深く関わっていると、パーフェクトシックスセンスは言っていました。私は私を何よりも信用します。
マジ有能この能力。
「――もしもし、僕だけど。――うん、今日もありがとうな」
お、始まりましたよ。
「うん。――――いや、なんでだよ! ――ったく。最近僕の扱い雑になりすぎだろ。いい加減に――あ、いやごめんなさい。そういう意味じゃないから。ホント。――――やめてやめて死ぬから! 冗談抜きで僕死んじゃうから!」
……えーっと。
会話が断片的でよく分からない、という印象ですが……お兄ちゃんは誰と話してるんでしょうか。安藤さん? いやでも、お兄ちゃんと安藤さんの関係ってこんな主従関係っぽかったっけ?
「はあ……じゃあ明日もいつもの場所で。――ああ――――は? え、なに、僕そんなピンチだったの? それってこの間のときよりヤバイんじゃ……。――そう……ってことはこれからずっと、週末はこうなるってわけ? ――――ええええええ!?」
ぜんっっぜん分かんねー!
とりあえず分かることといえば、週末家を空けてたことと電話の相手に関係があるってことでしょうか? あと、お兄ちゃんは何かピンチっぽい状況に陥ってた、と。まあ平凡なお兄ちゃんのピンチなんて知れてますけど。エロ本見つかったとか?
「いやいやいやいや! そんな運命イヤすぎるよ! というか仮にも女の子なんだから、そんな言葉使っちゃダメだって!」
ピクン。
私のパフェ(略)イヤーが反応しました。
――カリニモオンナノコナンダカラ
――仮にも女の子なんだから
…………。
え……マジですか? よりにもよってあのお兄ちゃんが、そんなエセ紳士ぶったクサい台詞を口にしたんですか?
衝撃。
ビッグバンです。
今私の中にある宇宙が粉々に破壊されました。
絶賛再構築中。
ゼロから生まれ変わる常識の中、私は今再び事実を反芻してみます。
えーっと……
「それじゃ、今度こそ切るぞ。また明日な日羽――」
「お、おおおおお兄ちゃんが夜に女の子とでででで電話ああああ!? いつものって何ですかあああああ!? ああああんびりぃばぼぉお!」
反芻、というか発狂に近かった。
思わず大声を出してしまいました。失敗です、これは感情に任せた結果の失敗です。
私は慌てて冷静になり、すぐさまその場から離れました。階段を転がり落ちるように下りて、サンダルも履かずに玄関を蹴飛ばします。
なんでしょう、今まで味わったことのない感覚が私の脳を支配していきます。このパフェガでさえ知らない、強いて言うならば激情とも言うべき感情。
と、とりあえず頭を整理しましょう。……いや、整理といってもお兄ちゃんが女の子と電話していたというシンプルな情報しかないんですけど……。
ええと、ええっと、確かに最近のお兄ちゃんの様子、どこか変だったし……やっぱり?
「うわあああ……」
夜の住宅街に私のうめき声が発せられます。
もうこれは日記どころではなさそうです。
しかし、家から誰も追いかけてこないところを見ると、お兄ちゃんは私が聞き耳を立てていたことには気づいていないたようです。いやあ良かった良かった。
これも私のパーフェクトな幸運が導いた結果ですね!
なので今日も私は絶好調! おわり。
次回更新は2014.6.19 22:00です