五月十四日
【五月十四日 月曜日 やっぱり神様なんていなくなかったね、の巻】
どみにちは! マチです。
ど(うも)み(なさんこん)にちは。これを流行らせることが私の生涯をかけたプロジェクトとなるでしょう。
……あ、でも一番の目標は小説家になることですよ? そこんとこ誤解なきようお願いします。「お願いします」と言いつつも頭は下げません。それがパーフェクトガールクオリティですから!
さて今日はですね、なんとなんと、た~いへんな人に出会ったんですよ!
私のパーフェクトを揺るがすレベルの超戦略級ガールに……で、で、出会ってしまったんですよー!
な、なんだってー!
ご唱和ください!
な、なんだってー!
はいどうもお疲れ様です。
ついでに訊きますが、みなさんは神様というものを信じるでしょうか?
神様。ゴッド。全知全能だとか創造主だとか呼ばれたりする、メディアによってオッサンだったり巨乳美女だったりする、あれです。
ちなみに私は信じていません。今どきの若者らしい無宗教主義です。クリスマスやハロウィンは死ぬほど楽しみますけど。
しかしそれも昨日までの話。私が私よりパーフェクトな存在に会うまでの話。そう、本日遭遇した超戦略級ガールとは――神様だったのです。
この世界における神様はオッサンじゃなくて、巨乳美女寄りだったということですね。
さて、そんな彼女と私が対面したのは昼下がり、百八台高校の屋上でした。
どうして私がそんなところにいたかは忘れてしまいましたが、多分風になびく美少女という画を神様か誰かに提供してやろうとでも思っていたのでしょう。さらさらとした春風が私の髪を、頬を擦り、スカートをギリギリセーフのラインでなびかせていました。
「立ち入り禁止だぜ、ここは」
彼女の第一声はそれでした。私がスカートを押さえて振り返ると……神様がいたのです。
兄さんより少し年上といった若々しさ。腰まである髪は燃えるように赤――否、紅くギラギラと照り映えていました。目つきは鋭く、口角はニィッと不気味なくらい持ち上がっていて、私の知る神様のイメージとはかけ離れた外見です。
しかし、それでも私のパーフェクトシックスセンスは告げたのです。「この人が神様だ」と。
ですから私は立ち入り禁止がどうとかいうことを無視して訊きました。「神様?」と。
すると彼女は鼻で一笑しました。
「アタシは神様じゃあねえよ。ただ、この世界を所有しているだけさ」
「それを神様っていうんじゃないですか?」
「違う違う。アタシは世界を滅ぼすこたァできるが、生み出すことはできねえし、何でもできるわけでも全てを知ってるわけでもねえ。アタシは…………ん?」
彼女は台詞の途中で、何かに気付いたような表情を見せました。その視線が私の目にダイレクトで届きました。
「お前さん、名前は?」
「ふふん、よくぞ訊いてくれました! 私はマチです!」
いつだって、誰が相手だって、私は自分の名前を名乗るのが大好きなのです。快感といってもいいでしょう。
「そうか。覚えておこう」
「ありがとうございますっ! ……それで、ええと、神様?」
「だから違えって」
「じゃあ何て呼べばいいんでしょう」
「あー……そうだな、『先輩』とでも呼んでくれよ」
「『先輩』、ですか」
その呼称は存外しっくりきました。ここが学校だからということもあるかもしれません。
「先輩はどうして学校にいるんです?」
「どうしてってお前さん、生徒だからに決まってるだろう?」
確かに先輩は学校指定の制服を着ていました。だけどその赤髪のせいかコスプレにしか見えません。漫画の登場人物がそっくりそのままページから飛び出したみたいです。
「世界を所有してても学校には通うんですね」
「まあな。高校ぐらいは出とけって親がうるせえんだよ」
「高校ぐらいは出てた方がいいですよ」
「みんなそう言うのな。アタシの後輩ちゃんも口を開けば『卒業だけはしてくださいよ』ばっか。もう一人も『留年してもう一年一緒、なんて死んでもごめんです』とか言うんだぜ? ひどいと思わねえか?」
それはひどいです。こんな見目麗しい女の子に暴言を吐くなんて思春期男子に許された所業ではありません。私は千切れそうなくらい首を縦に振りました。
「その後輩ズがさあ、最近どうも問題児化してんだよ。一人は友達のモンを勝手に泥棒してるわ、もう一人は大事な妹に無視決め込むわで」
「なんと」
それはもう非道なんて生ぬるい言葉じゃ足りません。全人類の妹代表として私がその後輩とやらにパフェガの鉄槌をくらわしてやらなければ!
私は拳を握りしめ、屋上の柵のところまで行き敵のいるであろう教室を見下ろしました。当然どの教室かは分かりません。しかしこういう場面でこそ私のパーフェクトシックスセンスが活きるのです! きっとそいつがいるのは……むむむ……むむむむむむむむ……。
「ハッ!」
ピコーン!
出ました出ました! その無礼者はきっとこの校舎の二階端の教室にいるに違いありません! 何の根拠もありませんけど、ええ。
「先輩先輩、私のパーフェクト直感によるとですね――ってアレ?」
いつの間にやら屋上にいるのは私一人になっていました。私と風と黄緑色の落ち葉だけがその空間にいました。
この短時間で、私に気づかれることなく姿を消すなんて、やはり彼女は神様だったのでしょうか。
そのあと私は学校を後にして、帰り道の自販機でマッチを買って帰りました。
そして、今日も名前を訊き忘れたことに気付いたのです。
このままじゃマチは『パーフェクト・ただし名前を訊き忘れる・ガール』略してPTGになってしまいます。
それはいけません。ノーセンキューです。
そんなことを考えながら私はゴロリと寝転がり、目を閉じます。
思い浮かべるのは、屋上で風のドレスを身にまとった私の姿。うん、やっぱり素晴らしい画だ。
その事実だけで、今日も私は絶好調だったと言えます。おわり。
次回更新は2014.6.18 22:00です