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涙爆弾  作者: 藤本乗降
第3章 はっきりしない自己相談
19/26

五月十三日

【五月十三日 日曜日 それはまぎれもなくGボーイズか? の巻】


 どうもみなさんこんにちは。マチです。

 タイトルはまあ、うん、分かる人は読んでるうちに分かるかなぁって。

 昨日はお兄ちゃんのことについて全然書かなかったので、お兄ちゃんについて書きます。

 私のお兄ちゃんはそこそこカッコイイです。見た目だけなら偏差値六十は余裕であるはずです。運動嫌いな癖にデブでもガリでもないですし。目はちょっと細目の一重ですけど、それがスッとした顔立ちと黒髪にうまくマッチしていると思います。マチだけに。

 見た目はそんな感じ。

 中身はって言うと――

 ……ええっと

 ……ううーんと

……えー

 どうなんでしょう?

 毎日のように観察しているのに、いざお兄ちゃんの性格を説明しろと言われたら言葉に詰まってしまいます。

 困りました。ピンチです。でも完璧ぺきぺきパーフェクトなマチちゃんはこういう格言を知っています。

 『その人を知りたくば、その人の友人を見よ』

 誰の言葉かは忘れました。忘れっぽくてもパーフェクトガール、マチです。

 とうっ!(おもむろにジャンプするパーフェクトガール)


 ――はっ!(SEとともに背景が変わり、着地するパーフェクトガール)

 というわけで今日はお兄ちゃんの通う高校までやってきました! いえーい!

 え? 本当に今高校に瞬間移動したのかって? やだなーオジサン、ふうですよ風。NHKの教育番組風マチ日記なんです。このノリについてこれなかったら先が思いやられますよ~。

 さてさて、私が慣れない学校で道に迷うくだりはカットして……ここ、文芸部の部室までやってきました! いえーい!

 ううう~ドキドキするなあ~。

 私は心臓をどっくんどっくん言わせながら、扉の隙間から中を覗きこみました。そうです、いくらパフェガ(※パーフェクトガールの略)とはいえ緊張はするのです。

 狭い隙間から一人の人影が見えました。お兄ちゃん……じゃありませんね。確かお兄ちゃんは今頃うちでお昼ご飯を食べていて、それからここに来るはずです。

 となると、あそこにいるのはお兄ちゃんの部活仲間。安藤弘貴先輩とお見受けしてよろしいのでしょうか。

 ええい、違ってたらその時はその時です! 迷ってないでとバーン扉を開けましょう!

 バーン!

 ものすごく予定調和な音を立てて部室に入ると、中にいた人がこちらを振り返りました。振り返らなかったら大した肝の据わりっぷりだったでしょうが、さすがに振り向きましたね。

 私のことを爪先から頭のてっぺんまでじっくり見てから、その人は言います。

「ええと、君は……」

「マチですっ!」

「……そうか。そういう名前なんだね」

 安藤先輩(多分)はアンニュイな表情を浮かべます。余談ですが、これこそが『アンニュイな表情』だと断言できたのはこの時が生まれて初めてです。

「マチ……ちゃんは武藤の知り合いか何かなのかな?」

 この人はいちいち台詞に三点リーダをつけないと気が済まないタイプなのでしょうか。

「もちろん私とお兄ちゃんは兄妹関係です! 私が世界で二番目に愛する存在がお兄ちゃんなんですよ!」

 一番は当然私ですけどねっ!(決めポーズ)

 ちなみに私の決めポーズはジョジョ立ちをアレンジした、ウインクを飛ばすポーズです。

「そうかい。じゃあ一番は君自身なのかな?」

 むむっ。会って間もないというのにこの洞察力。鋭い、安藤(仮)実に鋭い!

 しかしそこはパガ(※パフェガの略)。まったく動じずに受け答えをこなします。

「ふ……ふっふっふ、よ、よよよくぞ見破りましたね私の正体を!」

 ――動じません。流れ的にもおかしくないエキセントリックな回答です。

 それを聞いた安藤(?)さんも目を丸くしました。

「……ふむ。君の方も僕の考えをピシャリと当ててくるねえ」

 ほら見てください! 噛み合ってますよ会話が会話が噛み合ってます! 大事なことなので二回言おうとしました!

 でも安藤(便宜上)さんの脳内を覗き見たりなんて、私してないはずなんですけどねえ。

 安藤(未定)さんはちょっと勘違いしやすい人なのかもしれません。

「ところで、マチちゃんは何しにここへ来たんだい?」

 え、と私は動きを止めました。

 う~んと、なんででしたっけ?

 マチは忘れっぽいのです。でもでもそれでも私は完ぺk(以下略)。

「何もすることがないんなら、武藤が来るまでお喋りでもしないか? 日曜なんでちょうど退屈してたんだ」

「いいですよ。何について話します?」

「そうだな……マチちゃん、君は小説を書いたことはあるかい?」

「書いた記憶はありませんねー。……あ、でもでも私実は小説家になってみたいんです!」

「そうなんだ。どうして?」

 またしても言葉が詰まります。何度も繰り返すようですがマチは忘れっぽいのです。

「まあ理由がなんであれ、マチちゃんならきっとなれるよ」

 それは気休めでも冷やかしでもなくって、なんだか根拠を持っているように聞こえました。私のパーフェクトイヤーがそう聞いたんです、間違いありません。

 それから私と安藤(不定)さんはお喋りを続けました。

 でも私は、この現場がお兄ちゃんに見つかると変な小言を言われるんじゃないかと不安に思い、時計の針が一時をさす前に部室を後にしました。ほら、お兄ちゃんって授業参観とか恥ずかしがるタイプですから。

 そして家に帰ってようやく気付いたのです。結局お兄ちゃんの人柄については何も分からなかった、ついでにあの先輩の名前も訊いてなかったと。

 でもでも! そんなおっちょこちょいも魅力の一つに還元されるのです!

 というか、先の格言に従えば私はすでにお兄ちゃんの性格を隅から隅まで把握したことになるんじゃないでしょうか!? だって友人さんといっぱいお喋りしたし、訊き忘れたのも名前だけだし!

 つまりはミッションコンプリートです。結果主義。万事解決。終わり良ければ総て良し。そんな言葉を私は私に贈ります。

 というわけで今日も私は絶好調! おわり。



次回更新は2014.6.17 22:00です。

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