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滅びて下さい。

作者: 黒野 衣梨

冒頭部分が浮かんだので久しぶりに書いてみました。

不思議な女の子のお話です。

少し女の子の口が悪いですが、これを読んで皆様の気持ちが少しでも白くなりますように。

そこは何処までも白かった。白く綺麗で純粋だった。僕の目が白くなってしまったのではないかという錯覚を打ち砕いてくれたのは金色に輝く彼女の髪だった。

彼女は白いベットの上で静かにすやすやと寝息を立てていた。

僕はそっと入ってきた扉を閉めて彼女に向かって歩いて行く。

部屋はそれなりに広かった。

しかしそれは、部屋に置かれているものが少ないが故の錯覚なのかもしれない。

ここには部屋の中央に彼女が寝ているベッドが一つ置かれているだけだった。付けくわえて言うなら窓があるだけだった。

そこから差し込む光だけがこの部屋を輝かせていた。彼女が寝ているからだろうか、蛍光灯の光は灯っていなかった。

僕は明りを付けずに彼女の脇まで行き、側に置いてあった椅子に腰をかける。

微かに胸が上下しているだけの彼女のことを見つめたままどれだけ過ごせるかと思い、じっと見つめる。

しかし、このままいつまでも過ごせそうな自分に驚きじっとしているのをやめて彼女の髪にそっと触れる。

さらさらとしていて心地いい。僕の手のひらから零れ落ちる髪が輝いていて本当に綺麗だった。

髪を乗せた手をそっと顔に近づけて匂いを嗅いでみた。微かなシャンプーの香りを胸いっぱいに吸い込んでから、僕は一息つく。

腕時計に目を落とし、長針と短針がぴったり重なっているのを確認してから手を引く。

ゆっくりと椅子から立ち上がり、彼女に顔を近づけた。相変わらず彼女の寝息は規則正しい。

そしてそのまま、綺麗な形をした唇にそっとキスをする。と、彼女の目がパチリと開いた。

外国人特有の青い目がしっかりと俺を見据える。

「…滅びて下さい。」

開口一番にこのセリフだった。

「はいはい、おはよう。」

僕は適当に受け流した後、手に提げていた袋からタッパーのような容器を取り出す。

毎回、この部屋の前で渡されるもの。中身は一口サイズにきちんと切られたリンゴ。何故か皮が付いているので真っ白な部屋の中で真っ赤な皮がよく目立っている。

彼女が緩慢な動作でベットから起きあがったのを横目で見ながら僕は椅子に座りなおす。

容器の中に入っていたプラスティック製のフォークでしゃく…とリンゴを貫く。

そして、

「あーん…」

そのまま彼女の口元へフォークを運んで行く。

「滅びて下さい。」

彼女は真っ赤なリンゴを一瞥してから呟く。これは一種の挨拶の様なものだった。寝起きは機嫌が悪いのか、特に多い。

僕が気にせずに待っているとこれまた緩慢な動きで口を開き、ぱくりとリンゴを口に入れた。

そのまましゃくしゃくと彼女がリンゴをかみ砕く音だけが部屋に響く。僕は次のリンゴをフォークに刺していた。

手際良くやらないとこの2・3個分ある大量のリンゴを捌ききれないまま終わってしまう。

彼女はいわばお嬢様だった。もしかしたら姫かもしれない。そんな人。

勝手に僕の頭の中では白い部屋とりんごのイメージで白雪姫と呼んでいる。

そんな僕は白雪姫を起こしてご飯を与える人。それだけの存在。

それを5歳の時から10年間も続けているのだから、強いて言うなら彼女の幼なじみというところだろうか。

気が付いたら母が僕を連れてこの部屋に来ていて、キスをしてリンゴを食べさせるようにと言われた。そして、彼女は同い年だということも聞かされた気がする。

僕は思い出しながら、彼女が咀嚼し終わったのを見て次のリンゴを口元へ運ぶ。今度は何も言わずに口に含んでくれた。

昔も今も変わらない食べさせ方。

幼い頃は食べさせ終わった後にお小遣いを500円貰えた。小学校に入る前の子供からしてみればものすごい大金だった。

それが毎日なのだから驚きである。

…そう、毎日。

今となっては500円が1500円になってはいるが、僕は土日を抜いて毎日ここへきて彼女に会い、お小遣いをもらっていた。しかし、使わずほとんど貯金に回ってしまっている。ありすぎても困るというものだ。

毎日といっても来るのは丁度お昼休みの時間なので、学校に支障はない。

彼女は正午に起きて1時には眠る。1日に1時間しか起きている時間がないのである。逆に言えば、1日23時間寝てるということ。

彼女は、そういう人だった。僕と出会う前も出会ってからも彼女は日1時間しか起きていない。それでも、しっかりと成長している彼女に生命の神秘を感じる。

髪も爪も伸びる。背だって5歳のときより明らかに伸びているし、胸も人並みに成長している。ほとんど寝ている間に成長してると考えると不思議である。

気付けば容器の中のリンゴは半分くらいまで減っていた。僕も手際がよくなったものである。さっと時計を確認すると12時10分。順調だ。

彼女と僕は無言でリンゴを食べ、食べさせていた。

誰に躾けられたわけでもないのに食事中はお互い終始静かである。彼女に至っては親に躾けられる時間すらない。

彼女が青い目で僕を見る。食べてるときに目があう事は滅多にないのでドギマギしてしまった。

「…滅びて下さい」

食事中に喋ることはそうそうないはずなのに不思議だなぁなんて思ってたら、僕が次のリンゴを差し出し忘れていたのだった。

催促されていたのである。

僕はみずみずしく光るリンゴを差し出しながら見慣れた彼女の容姿に改めて目を向ける。

確認したことはないが、そこからどう見ても外国人であった。

金色の髪、青い目、白い肌、整った顔立ち。

しかし、人形の様な彼女から放たれる言葉は辛辣である。

昔からの口癖であり、僕と出会う前にこの体質のせいで色々な実験をされたらしく、その頃に身についたものだとか。

別にいいんだけどね。

リンゴを全て食べさせ終わってから、もう一度時計を確認すると残り30分といったところだった。いつも通りのお昼ご飯である。

そして、残りの30分をどう過ごすかというと「お喋り」である。彼女だってあの口癖以外にもちゃんと喋れる。

「今日は?」

彼女が最後のリンゴを飲みこんでから一言問う。

綺麗な瞳がまっすぐ僕を見つめていた。

「今日はトーストとツナサラダ。」

僕も短く答える。彼女が聞いてきたのは今日の朝食であった。毎日リンゴしか食べないので興味津々らしい。

その後、彼女は僕を少しずつ、短い言葉で質問攻めにする。学校の授業のこととか、テレビの話とか、部活の話とか。

それに答える僕の言葉もなるべく短くなるように努力する。そうしないと、彼女は分からないのである。

1日1時間しか起きていられない、そういうものである彼女は知識や学問などに対しての理解が浅い。

計算してみたことはないけれど多分、今まで起きていた時間を全て足しても小学生には到底なれない位だろう。

それでも、彼女がどうにか喋れるのは僕と出会うまでの5年間英才教育を受けていたからだとか。

1時間の中で何をしていたか知らないが、お昼ご飯も、実験も、勉強も、と考えるとすごいハードスケジュールである。

まぁ、実験は寝ている間にも出来るだろうし、少し怪しいけれど「睡眠学習」なんてものもある。因みに今のところは、僕が居る平日の昼間に何かされているところを見たことがない。たまに栄養を補うために点滴をされていたりはするけれど。

ん、睡眠学習してたら彼女はもっと天才になっているはずか。なんてったって彼女は1日23時間寝ているのだから。

「好きな、人は?」

…おや?と、僕は少し返答に困る。過去10年間彼女がこのような質問をしてくるようなことはなかったからだ。所謂「恋バナ」などとは一切縁がなかった。そこら辺はやはり幼稚園児辺りの精神年齢なのかな、と一人納得していたくらいである。

それがいきなり好きな人、とな。

ふむぅ…と少し悩む。なんと言ったものか。

「滅びて下さい。」

考えて込んでいたらお叱りを受けてしまった。居ないわけではないんだけどなぁ。

「内緒かな。」

曖昧な表現は彼女が理解できないといけないので普段あまりしないのだけど、今は仕方ない。

案の定彼女は視線を僕から離し、ふよふよと漂わせだした。瞼もゆっくりと閉じたり開いたりを繰り返している。

もう少しで寝る時間なのだけど、僕は付けくわえた。

「一応居るんだけどね。」

またもや少し難しい表現になってしまったかな、と反省しながら彼女の反応をうかがう。

気のせいか少し目を見開いてから僕の方へと向きなおす。

「誰…?」

そう言ったように聞こえた。声は聞こえず、口が微かに動いただけなので僕の思いこみかもしれない。

彼女はそのままぽふっとベッドに横になり、すやすやと寝息をたて始める。

その顔はやはり白雪姫の名に相応しい美しさだった。

僕は姫を起こさないように唇ではなく頬にそっとキスをしてから席を立つ。

ふと、初めて彼女に会った時に母がねむり姫と呼んでいたことを思い出した。

白雪姫だろうとねむり姫だろうと、僕はお姫様のためにお城へ向かう。

明日も、愛しくてたまらない姫のためにここへ来よう。









「滅びて下さい」がマイブームなのでそれを女の子の口癖にしてしまいました。

最近グロ系の小説を読んでいるせいか、最初の構想では女の子がどうしても死んでしまって大変でした←

完成系では読んでいただいた通り元気ですけれど。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの新作だー! しかし、色々と謎だ・・・
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