お茶の約束
「これをまとめるんですか…。」
真琴は膨大な書類の山を見て唖然となった。
今日の午後からは侯硫様の元で働くのだが部屋に入れば書類の山に遭遇。思わず溜め息がでるほどの量だった。
「右下に番号がふられてるからこの番号の若い順番でまとめてくれるかな?」
初音は真琴に仕事内容をわかりやすく説明した。
「助かるよ。ちょうど人が不足しててね。会社でやればいいんだけど侯硫はここで仕事をする人だから書類が毎日大量にくるんだ。」
「はぁ。大変ですね。」
書類のあまりの多さに呆然としてしまう真琴に初音は肩を軽く叩く。
「大丈夫?ゆっくりでいいからわからないことがあったら聞いてね。」
初音の笑顔に真琴は少々ためらいはあったが深呼吸すると
「よし!それではとりかかりますね!!」
真琴は黙々と作業に取り掛かるのだった。
「3時か…。」
部屋にいてもつまらない。
かといって今はだれかを呼ぶ気もないが呼びたくても携帯がない。
朔はぶらっと屋敷内を歩いていた。
なにかおもしろいものはないかと。心辺りはあった。最近ずっと屋敷で雇う人は高齢か男ばかりだった。それは多分自分がちょっかいをかけるから小崎の計らいか兄のはからいかよくはわからないがそんなのはどうでもよかった。珍しく若い女を雇ったことを知りいつものように遊ぶつもりなのだから。遊びあきたら捨てればいい。
「愛してるなんて言葉…口だけならなんとでもいえる。」
次はどう仕向けようか朔は考えた。どうやったらおもちゃを手なずけれるか。前は人のものだがちょっと甘い言葉をいうだけでなついてきた。人の思いははかない。少しきっかけを与えるだけでもろくもくずれる。
なにもしなくてもよってくる女も多かった。朔の容姿で近付く女はいつも耐えず遊んであきたら捨てられることをわかっても引くものはいなかった。
朔の口元が微笑む。
その目線の先にはお目当てのものがいたから。周りを見渡すが兄達がいないことを確認すると朔は女に近付くのだった。
「D41…42…43…4…4…あれ見当たらない。」
真琴は膨大な資料の中一人でぼやきながら探していた。
「44…44…おかしいな…どっか紛れてるのかな。」
真琴が唸りながら探していると。
「44ってこれ?。」
部屋の窓から紙を見せている朔の姿があった。真琴は窓に近付き紙を見るとD-44と目次には記載されていた。
「これです!どこにあったんですか??」
「窓の外の下に落ちていたよ。窓から落ちたんじゃない?」
「すいません。拾っていただいてありがとうございます!」
真琴は朔から書類を受け取ろうと手を伸ばした。
書類は真琴の手から遠ざけられる。
「ん?」
朔は書類をひらつかせ真琴が書類を取ろうともがいている姿を見ながら楽しんでいた。
「朔さん…取れないです。」
「頑張って。」
「ぅー。」
真琴は手を一生懸命伸ばし書類を取ろうとするがとれなかった。
窓から上半身を乗り出し手に書類があたった瞬間、真琴の髪がひっぱられた。
「いっ!!?ひゃっ」
真琴はその勢いで窓から落ちたのだった。
「いたたたた…」
「大丈夫?」
真琴を抱き寄せ朔が声をかけるが真琴は予想外の出来事に頭がまわらなかった。
「あまり意地悪しないで下さいよぉ。」
真琴は半泣きで朔に訴えた。
「あーはいはい。ごめんね。泣かないで。」
優しく頭をなでなでする朔の手が温かかった。
「神野さんが可愛いから意地悪したくなったんだ。」
「え?」
真琴は顔を赤らめ笑ってごまかした。
「あまりいわれないのでお世話でも恥ずかしいです。」
真琴は書類を手に取ると
「じゃぁ仕事なので失礼します。」
書斎にもどろうと朔から離れようとした。
ぐいっ
「う?朔さん?」
真琴の腕が朔の手によって捕まって離れることができなかった。
「どうかしました?」
真琴は朔の様子を伺う。
「お茶はいつもらえるんだろうと思って。」
朔の言葉に真琴はお茶の約束を思い出す。
「お仕事終わったらお持ちしますね。」
真琴は笑顔で返事をした。朔も笑顔で答え真琴に顔を近付ける。
「神野さんまつげにほこりついてる。」
「え?」
真琴は慌ててまつげにふれようとしたが朔がそれを遮る。
「僕がとるから目をつぶって。」
「え?」
真琴は返答する間もなく朔の指がまつげに触れようとしたので思わず目をつぶってしまった。
「何をしてる?」
突然の声に真琴は思わず目を開くと目の前に朔の顔が間近にあったので驚いてしまった。
声の主は侯硫だった。