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拝啓、なんでも欲しがる妹へ。そんなに欲しいなら、全部あげましょう。~余命1年の私の身体も、浮気ばかりの婚約者も~  作者: 遠野九重


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エピローグ

登場人物


 少女:身体はリリアーヌ、中身は……

 騎士:3年前からトラマール子爵家に仕えていた騎士、ガルド。だが、彼の身体の中に入っていたのは……


 住む者のいなくなったトラマール子爵家の邸宅は、すでに門扉が封じられていた。


 だが裏手の庭は、封印の目が届いていない。


 月明かりの下。

 フードを目深に被った華奢な少女と、筋骨隆々の騎士が並んで立っていた。


「契約は果たしましたよ」


 少女が口を開いた。

 声は若い女のものだったが、口調にはどこか飄々とした色があった。


「『妹と家族に復讐してほしい』。

 それが五年前、身体を交換するときの条件でしたね」


「……ああ」


 騎士――「ガルド」と名乗ってトラマール子爵家に仕えていた男は腕を組み、静かに頷いた。


「五年前か。

 俺はあんたに自分(エルシア)の身体を渡して、代わりにこのデカい身体(ガルド)をもらった。

 あんたは俺——エルシアの身体であの家に戻って、『エルシア』として暮らした。

 俺はこの身体で剣を覚えて、三年前に騎士としてあの家に仕えた」


 月を仰ぐ。


「おかげで、特等席で眺められたよ。

 リリアーヌは壊れかけの身体を掴まされて絶望し、トラマール子爵家の取り潰しで父も母も路頭に迷う。

 最高のショーだった」


 にやり。

 騎士は獰猛な笑みを浮かべた。


 家族の悲劇を嘆くのではなく喜ぶ。 

 普通ならありえないことかもしれない。


 だが、彼女(エルシア)はそれだけの鬱屈を溜め込んでいた。


 (リリアーヌ)が生まれてから、ずっと。

 

「そこまで言ってもらえるなら、私としても満足です」


 少女はクスリと笑う。


「貴方にも見せてあげたかったですよ。

 リリアーヌに『身体を交換しましょう』と持ちかけたときの顔、傑作でしたから。

 疑いもせずに飛びついてくれて」


「あいつは甘やかされて育ったからな。

 自分は愛されて当然だと思ってるし、騙されるなんて想像もしてなかったんだろうさ」


「おかげで目論み通りになったから、私としては助かりましたけどね。

 ここまでスムーズに物事が運んだのは久しぶりですよ」


「俺としちゃ、そのあとがヒヤヒヤしたけどな。

 なにせ禁呪の捜査官が派遣されてきて、あっちこっち調べ始めたからな。

 こっちの正体がバレるんじゃないかと思ったが、気付かれなくてホッとしたぜ。

 まあ、さすがに全部の真相までたどり着けるわきゃねえか」


「彼、5年前に私と貴方のあいだで《身体交換》が行われたところまでは推測できたみたいですよ。

 優秀と言っていいでしょう。

 さすがに本来のエルシア――今の貴方が『ガルド』としてトラマール子爵家に戻り、騎士として仕えているところまでは辿り着けなかったようですが」


「まあ、分かるわきゃねえか。バレないように気を付けてたからな。

 口調も、振る舞いも」

 

「確かに、今の貴方はすっかり男性ですね。

《身体交換》をしたばかりのころは、大きい身体なのにナヨッとしていました。

 あれはあれで面白かったですけど」


「うるさい」


 騎士は顔をしかめた。


「あんたこそ、5年間もよく(エルシア)を演じきったな」


「今までにも色々な身体を渡り歩いてきましたし。演技なら慣れたものですよ」


 少女は肩を竦めた。


「ところでエルシアさん……いえ、外見に合わせてガルドさんとお呼びしましょうか。

 貴方の復讐は果たされたわけですけど、これからどうされるんですか?」


「気分もスッキリしたし、自由に生きるさ」


 騎士は大きく伸びをした。


「貴族家の長女として生きていたころじゃ行けなかった場所に行ってみたい。

 しばらくは放浪の旅でもするかな」


「でしたら、ご一緒させてもらっていいですか。

 指名手配されちゃってますし。一人だと不安で」


「断る」


 騎士は即答する。


「リリアーヌの顔をした女なんて連れ歩きたくもねえ」


「ひどい。中身は五年来の恩人ですよ?」


「顔が問題だと言ってる。どこかで適当に別のヤツと身体を交換してこい」


「禁呪を使えと? 犯罪幇助ですよ」


「いまさらだろ」


 騎士は肩をすくめた。


「まあ、中身がアンタだと思えば我慢もできるか。

 とりあえず髪型くらいは変えてくれ。

 そうすりゃちょっとはマシになるだろ」


「分かりました。

 ちなみに好みの髪型ってあります? 合わせますよ」


「……これのどこが『素敵な魔法使いさん』なんだか。

 5年前の俺はバカだったな」


「現実を理解できてよかったですね。

 禁呪の行使者なんて憧れるものじゃないですよ」


「自分で言うんじゃねえ。

 とりあえず、行くか」


「どこに?」


「北だな。暑いところより涼しいところがいい」


 騎士はそう言って、歩き出した。


 少女がその隣に並ぶ。


 二つの影が月明かりの庭を抜け、やがて夜の向こうに消えた。


 足跡は、残らなかった。


結末


 エルシア:5年前の時点で「ガルド」の身体に入っている。妹と父母の破滅を見届け、旅立つ。

 リリアーヌ:「姉よりもアレクシスに愛されている」ではなく「大勢の浮気相手のひとり」でしかなかったことを思い知らされる。エルシアの身体を押し付けられた。余命1年。

 ダン・イザベラ:トラマール子爵家取り潰しで路頭に迷う。

 アレクシス:社交界で二度と拭えない汚名を背負う。

 


 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「これから2人はどうなるの?」と気になったり、この物語を楽しんでいただけましたなら【☆☆☆☆☆】を押してもらうと励みになります。


 ブックマークやリアクションも大歓迎、よろしくお願いいたします~!



 短編投稿しました。記憶喪失のお姉さんと、振り回される少年くんの話です。ぜひお読みください~


 「名前、忘れてごめんね」「構いませんよ。何度でもお伝えします」――記憶をなくし続ける最強の魔女と、何度でも名乗る少年執事(僕)の旅

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― 新着の感想 ―
これは供述ミステリでしたわ…まさに信用できない語り手そのものでした。やられた〜! 5年で異性の身体に慣れるって凄いよ…相性良かったんだね、これからの人生楽しんでね〜!恋愛するの大変そうだけど頑張れ…
お見事でした。 これはもう、最上のミステリーですね。 良き物語を読ませていただいて有難うございました。
元エルシアも被害者で『禁呪の習得でボロボロの身体』を手に入れてもうこの世には…という予想したらアッサリ否定されてびっくり。 禁呪を使うような悪い魔法使いさんもエルシアさんにとっては「素敵な魔法使いさん…
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