第9話 妹を守りたい【ウィル】
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「ウィル、ちょっといいかしら?」
もう寝ようかという時間に母さんが部屋にやってきた。こんな時間になんだと思ったら、キースとリリアのことだった。
「キース君と喧嘩したと聞いたんだけど、経緯を教えてくれる?」
「・・・俺が一方的に殴ったんだ。リリアがキースの噂を知っていて、それで辛そうで、キースは会いに行かないし、俺は全然気が付いていなかったし、それで」
自分でも整理できていないと思う。うまく説明できずにボソボソ話す俺を母さんは辛抱強く待ってくれた。キースがいつも同じ令嬢といたこと、友達から噂を聞いたこと、リリアにキースが会いに行かないこと、リリアが噂を知っていて辛そうな顔していて、それで殴りに行ったこと。
「それで、キース君はどうしたの?」
「どうもこうも、あいつ何も言わないんだ。俺に殴られても、何も言わない。反論もしないし殴り返してくることもない。あいつ、自分に後ろめたいことがあるんだ!だから何も言わないんだよ」
「・・・そうなのね。リリアから聞いたのだけど、キース君とその令嬢が一緒にいる時にリリアが話しかけたそうなの。そしたら、その令嬢に対してリリアのことを婚約者ではあるけれども、妹みたいに可愛がっていて家同士が仲良いから婚約した、という風に説明したらしいのよ。それでリリアが参っちゃってて」
あいつ、もう一度殴りに行こうか、と思ったが、「妹みたいに」と言われて、そうかもしれないと思ってしまった。リリアはまだ子どもだ。俺たちも成人していないけど、リリアはまだたったの12歳だ。12歳の子どもを、いくら婚約者だと言っても「そういう目」では見れないだろうな、と思う。でも「そういう目」で見れるかどうかということと、「婚約者を大事にする」かどうかというのは別の話だと、婚約者がいない俺にだってわかる。あいつだって男なんだから美人がいたら鼻の下伸ばしても・・・と思ったとき、テッドの話を思い出した。
「友達が言ってたんだけど、キースとその令嬢との間に、その、色気みたいなのは感じられないって。だから、リリアがまだ子どもだから妹みたいなものだから、同い年の令嬢に目移りしたとかいうのとは違う気がするんだ。うまく言えないんだけど」
俺は母親相手に何をしゃべっているんだろう。でも、一緒にいるのを何度か見たが、確かに熱に浮かされるとか欲に溺れるとか、そういう感じではなかった。
「恋人ではないと思う。ベタベタしてないというか。だから浮気とは言えない気がする。でも、リリアを悲しませてるのは確かなんだ」
「そうね。泣いていたわ、あの子。あの子なりに色々考えたみたいで、婚約がなくなるかもしれないって」
「婚約を?!あんなに喜んでたのに?!・・・俺は、リリアがキースと話したことも知らなかった。そんなに思いつめてるのも知らなかった。同じ学校にいて、しょっちゅう会いに行ってたのに」
やっぱもう一回殴っていいかな。いいよな。ついでに自分も殴りたい。
「仕方ないわよ、リリアが隠していたんだもの。それでね、一旦ちょっと距離を置いてみたらどうかってアドバイスしたの。リリアが生まれた時から一緒にいたんだから、ちょっとお互いに離れてみてゆっくり考える時間が必要かなって。それでやっぱり兄と妹から抜け出せないなら、それはもう仕方ないのよ」
「まあ、今だってキースはリリアに会いに来ないんだから放っといても距離は取れると思うけど」
「リリアが納得して自分からも距離を置くのが必要なのよ。猶予は1年。お父さまには言わないわ。だからウィル、あなたがちゃんとリリアを見ていてね。余計なことはしなくていいわよ。ただリリアがどうしようもなく傷つく前に気付いてちょうだい。考える時間は与えたいけど、必要以上に傷つく必要はないもの。その時は、お母さまたちが話し合って解消するなりなんなりするわ」
そう、確かに今のままじゃ、リリアは待っているのにキースが来ない、という図式では何も変わらない。リリアが納得しないとリリアは自分の気持ちを確かめられない。猶予1年というのは、俺たちの卒業半年前までということ。その後の進路を最終決定するような時期だからちょうどいいのかもしれない。例の伯爵令嬢だって卒業するまでには婚約者を決めたりするだろう。伯爵家からキースに話があるか、キースが伯爵令嬢を選ぶか、何も無いままかはわからないけれども、1年の間に色々と決着がつく。
「わかったよ母さん。リリアのことは任せてくれよ」
「お願いね、ウィル。ついでにあなたもいい加減、誰か見初めてらっしゃいな」
なんか余計な矛先が向いた。誰かって言われたってなぁ、とクラスメイトの令嬢たちの顔を思い浮かべようとするが、誰一人はっきり顔と名前を思い出せる子がおらず、我ながらどれだけ色恋に疎いんだろうと呆れた。
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