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第6話 帰省、温かい家族

ウィル兄さまがキース兄さまを殴った一件から3ヵ月がたった。相変わらずキース兄さまは会いに来ない。私も会いに行かない。中庭でたまに見かけるが、だいたいエリス様か、他の生徒会の方々と一緒なので声はかけなかった。


もうあと2ヵ月ほどで長期休暇だ。こんな状態で3人で領地に帰るんだろうか。その時に婚約の解消とかそういう話になるのだろうか。

学校に入学した時は領地が恋しくて早く長期休みが来ればいいのにと思っていたが、今はまったく楽しみではない。むしろ切実に来ないでほしいと思ってしまう。


こんな状態なのに、私はまだキース兄さまが好きみたいだ。婚約を解消されるかもしれないと思うと胸がズンと重くなる。だけども、このまま結婚していいんだろうかという気もする。だってキース兄さまは私を見ていない。私は「妹」で「恋人」や「妻」にはなれないのだ。


そんな気持ちを振り切るように、私はがむしゃらに勉強した。別に勉強が大好きというわけでもない。それ以外のことを考えるのがしんどかったから、目の前にある前期試験に集中することにしたのだ。結果、想像以上に良い出来だったみたいで、並み居る高位貴族を超えて3位という快挙となった。

仲のいい子たちがはしゃいでしきりに褒めてくれる。高位貴族の方々が遠巻きに嫉妬だか称賛だかの視線を送ってくる。そんな中、怪我の功名ってこういうのを言うのかなと冷めたことを思いながら貼り出された成績を眺めていた。


一緒に領地に帰るなんて、と緊張していたが、キース兄さまは後期の始めにある秋祭りの準備があるからと言って後から帰ってくることになった。馬車の中で3人なんていうのは胃が持たなかっただろうから、正直助かったと思った。その準備の間、エリス様と一緒にいるのはわかっていたけれども。


領地へは馬車で4日。私一人だったら家から誰か迎えに来たんだろうけど、ウィル兄さまがいるから馬車と御者、護衛を頼んで途中の町の宿に泊まりながら二人で帰る。

ウィル兄さまは私の成績が良かったことをとても喜んでくれて、自慢の妹だと言ってくれた。普段あまり聞くことのないお友達の話も面白おかしくしてくれて、私も仲のいいお友達とのこと、休みの日に行ったカフェの話などをした。キース兄さまの話は一切しなかった。


話題も体力も尽きてきたころ、ようやく領地に到着した。聞くところによると兄さまたちが二人で帰ってきていたころは王都から3日で帰ってきていたらしい。私がいるからある程度治安のいい町の宿に泊まろうとペースを落としてくれていた。

意外と気遣いができるウィル兄さまに感謝だ。あれ以上のペースだと疲れ果てていただろうと思う。王都の辺りはまだいいのだが、田舎になるにつれて道がガタガタになり、乗っているだけでも疲れるのだ。


キース兄さまが帰ってきていないせいか、まだご両親も来ていない。毎年、兄さまたちの帰省に合わせて私たちの領に遊びに来る。

小さい領なのでお互いの行き来には半日もかからないため、キース兄さまもうちと実家を行ったり来たりしていた。キース兄さまはずっとうちにいられたらいいのにと言っていたが、跡取りなのでそういうわけにもいかない。ブツブツ言いながら行ったり来たりしていた。今年はどうするのだろうか。


家につくと両親はいつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。


「まあまあ、おかえりなさい。元気そうで安心したわ。キース君は少し遅れるんですってね。

ちゃんとしたお食事会はみんな揃ってからにするけれども、今日もご馳走を用意しているのよ。まずは旅のほこりを落としてさっぱりしていらっしゃい」


まだキース兄さまから婚約についての話は出ていないのかと少しホッとする。どうするのかさっさと決めたい気持ちと、数日でもいいからその日を遅らせたい気持ちとがないまぜになる。ウィル兄さまも私も、ぎこちなく笑ってそれぞれ自室に戻った。


その日の夜は、地物の肉と野菜たっぷりのご馳走だった。両親はしきりに私の学校生活を聞きたがる。私はクラスで仲良くなった友達のことを話したり、町にでかけたことを話したり、そこで買ったお土産を渡したりした。私が楽しく過ごしていると思って両親、とくにお母さまが嬉しそうに目を細めている。

ウィル兄さまが私の成績のことを報告すると、今度はお父さまが目を丸くして大げさなくらいに褒めてくれた。


「いやー、こんな田舎の出だから王都で家庭教師についてみっちり教育を受けている高位貴族に適わないのは当たり前だと思っていたが、頑張ればやれるもんなんだなあ。なあ、ウィル?」


「父さん・・・俺に成績を期待しないでくれ・・・リリアはすごく頑張ったんだよ」


「あら、でもキース君も成績が良くてクラス委員になったって聞いたわよ。ウィルだけじゃない、良くも悪くもないのは。ちゃんと勉強しているのかしら、本当にもう。キース君に教えてもら・・・」


「悪くないだけ頑張ってるんだよ!キースのことは今はいいだろう!」


成績のことで小言を言われた上にキース兄さまの話題を出されてイライラが募ったのか、ウィル兄さまが急に怒鳴るように遮った。

ガサツではあるものの、ウィル兄さまが両親に対して声を荒げることは滅多にない。いつもは小言を言われてもどこ吹く風で聞き流してあっという間に逃げるのが常套手段だ。なのにいきなり怒鳴ったので二人ともびっくりした顔をしていた。


「ウィル、何をそんなに怒っているんだ。落ち着きなさい。・・・私が先に言い出したことだが、せっかく帰ってきたんだから、母さんも小言はまた後にして、食事を楽しもう。だいたい、この領を継ぐのに成績はそんなに必要ないさ」


「・・・そうね、ごめんなさいね、ウィル。さあ、デザートもあるわよ。いただきましょう」


「・・・怒鳴って悪かった」


ウィル兄さまはまだムスッとしているが、食事が再開され、今度はお母さまが領地の話を面白おかしく話してくれる。

川向こうのおじいさんの家の牛が出産したと聞いて駆けつけてみたら生まれたばかりの子牛と疲れ果てたおじいさんの孫が仲良く寝てたとか、羊を追ってた犬が間違えて隣のヤギ舎に誘導しちゃったとか、まあたまにある笑い話だ。

特にうちの領の牧羊犬たちはどうものんびりしているのか方向音痴なのか、私が小さい時からたまに誘導場所を間違える。それでも脱走するわけでもなく自由にするわけでもなく、牛やらヤギやら、どこかしらに入っていくのだから不思議だ。

一応、牧場のおじさんが犬たちに指示を与えているんだけれど、一度流れが変わるとどうにも修正ができないらしく、あとは諦めて見ているしかないらしい。


「結局どこかに収まるんだからいいんだよ、どうしてもコントロールできないことだってあるさ、人生と同じだよ」とおじさんは遠い目をして言っていた。

ギュウギュウのヤギ舎と空っぽの羊舎。ちゃんと決められた組み合わせがあったはずなのにね、と少し感傷的になってしまった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです^^

明日は10時と20時に投稿予定です。

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