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第5話 俺の妹と親友と【ウィル】

少し前からキースが何かおかしいなとは思っていた。俺はどうも色々と大雑把で、繊細な観察力だとかっていうのは苦手なんだが、それにしてもおかしいなと思った。

キースは俺と違って頭が良くてクラス委員なんてものになった。高位貴族とも平然としゃべっているのを見て、同じ田舎の下位貴族でも子爵家と男爵家ではやっぱり違うんだなあ、とのんびり思っていた。


今まで男だけでワイワイやってて礼儀だの作法だのなんて授業でやらされるだけだったのが、普段から意識しているような気取った動きをするようになって、高位貴族と行動を共にするっていうのは粗相しちゃいけないとか色々あって窮屈そうだなぁと羨望半分、同情半分の反応をしたもんだ。


なんとなく一緒に過ごす日が少なくなってきて、まあクラス委員の仕事は見てるだけでも雑用だらけで、いつも授業が終わるとすぐに生徒会室に向かっていたから大変そうだなとは思っていた。


リリアの入学が間近になってきたから入学式の後に迎えに行って町に出ようと誘うためにキースを探していたら、いつも隣に同じクラス委員の伯爵令嬢がいることに気が付いてしまった。

俺は本当にそういうことには鈍くて、いつもの仲間にちょっと聞いてみたら、お前知らなかったの、という反応が返ってきた。


「なあ、キースっていつもあの伯爵令嬢と一緒にいるよな」


「え、なんだよウィルいまさらかよ。あの二人、できてるって噂だぜ?」


「は?できてる?あいつ俺の妹と婚約してるんだけど」


「えっまじ?」


「言ってなかったっけ?入学してすぐぐらいに婚約したんだけど」


「知らなかったよ!知ってれば、そんな噂聞いたら真っ先にお前に報告してたよ!

・・・えええええ、キースやばいだろ。何考えてるんだあいつ」


男爵家の三男でお調子者のロンが頭をかかえると、王都の大店の長男のテッドがフォローを入れる。


「いや、ちょっと待て。その噂は俺も知ってたけど、でもキースって婚約者の兄が近くにいるのに堂々とそんなことするやつとは思えないよ」


「テッドは甘いなあ。恋ってのは落ちたら見境いなく、駄目だと思えば思うほど燃え上がるらしいぞ?去年、嫁いだ姉ちゃんの受け売りだけどな。

キースも、『ああ、俺には婚約者がいるのに許されない恋に落ちてしまったんだ、愚かな俺を許してくれウィル・・・』とかなんだとか盛り上がってるかもしれないじゃねーか」


ロンがクネクネと身を捩らせながら物まねをしている。キースのまねか?それ。


「ロン、お前、なんか変な影響うけてるな・・・でもなあ、なんか恋人同士っていうような雰囲気はないんだよなぁ。うちの店にもお忍びカップルとか来るけどさ、なんかもっとねっとりした感じというか・・・。

そこまでじゃなくても、俺たちの周りの恋人同士だって多少あるじゃんか、そういうの。それがないんだよなあ」


確かにあいつは大っぴらに浮気をするような男じゃない。リリアをあんなに可愛がっていたんだから、泣かせるようなことはしないだろう。

そしてギラギラとした欲望のようなものも見えない。あいつも男なんだからそういう相手だったら何かしら欲が見えると思うんだ。それがないなら、男女の関係じゃないだろう。


だから、リリアを裏切るようなことはしていない、ただクラス委員同士で仕事上いっしょにいるだけだと、そう思ったんだ。信じたかった、ともいう。


結局、学校ではなかなか話せなかったし、入学式の準備に追われて夜まで仕事しているらしいキースとは寮でもなかなか時間が合わなくて、最終的に部屋の前で待ち伏せして買い物の話をすれば、当日は後片付けがあるからと言われた。

それは確かにそうだ。準備でこれだけ忙しいなら後片付けもあるよなと、そこに考えが至らなかった間抜けさに呆れた。落ち着いたらリリアに会いに行ってやってくれ、と声をかけたら、ふんわりと笑ってそうだね、と言った。それを見てホッとしたんだ。リリアを可愛がってくれていた時と変わっていない。だから大丈夫だと思った。


それでも気になって、妹の顔なんて毎日見に行かなくたっていいのに、こまめにリリアに会いに行ってキースとは会っているか、会いに来るかと聞いた。

リリアに来ていないと言われるたびに、あいつ忙しいから、と俺が言い訳をした。

とうとう、リリアからキースのことは大丈夫だと。騒がれたくないから話に出してくれるなと言われた。その困ったような顔に、俺は悟った。リリアはキースとあの伯爵令嬢のことを知っている。知っていてこんな顔をしている。そして俺はキレた。


キースを殴った時、周りに誰がいたのか覚えていない。

殴られてもじっと床を見ているキースに、俺はもう何を言っていいかわからず、ずっと睨みつけていた。リリアのことを口に出すのも嫌だった。リリアを蔑ろにされていることを認めるようで。


生徒会の、確か書記だった、侯爵家の令息に事情を聞かれたが、それも何を言っていいかわからず、キースも何も言わないものだから、令息はため息をついて聞き出すのを諦めた。


「何か事情がありそうだからね、特に今回は大事にはしないけど・・・校内での暴力は禁止だ。

・・・特にキース、君はクラス委員で皆の模範になるべき立場だ。自分の正当性をきちんと反論できないのであれば、殴られた被害者であっても処罰の対象だ。次は無いからね」


結局その口頭注意だけで開放されたが、キースはうつむいたまま「申し訳ありません」と小さな声で言ったきりだった。


俺の初恋は7歳上のパン屋の娘だったと思う。ボンキュッボンなお姉さんでいい匂いがした。パンの匂いかもしれないけど。俺が学校に入る頃には結婚して、去年だか一昨年だかに子供を抱いているのを見かけた。

それは単純バカな俺に似つかわしい、本当に単純な異性に対する興味だけだったんだと思う。なんせ散々甘える振りして抱き着いてみたりしてドキドキそわそわしたのに、結婚したと聞いたときは少し残念に思っただけだったのだから恋だったのかどうかすら怪しい。


だから、なぜ俺がキースを殴ったと思ったのか。殴られてなぜキースは何も言わないのか。否定するでも反論するでも、反撃するでもなく、ただ黙って殴られていたのはなぜなのか。

俺よりもずっと賢くて繊細なキースが何をどう考えているのか、俺にはさっぱりわからなかったし、わかるのが怖いと思った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです^^

今日はもう一話、20時に投稿予定です。

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