第4話 キース兄さまとの距離
あれから2週間、キース兄さまとは会っていない。ウィル兄さまはこまめに様子を見に来てくれた。キース兄さまは忙しくて、ということを毎回、気まずそうに伝えてくる。いいのよ、と毎回答える。一緒に会いに行こうか、などとはウィル兄さまは言わない。きっと知っているのだ。キース兄さまの心に誰がいるのかを。
そういえばずっと田舎にいたから気が付かなかったのだが、ウィル兄さまもキース兄さまも女生徒からそこそこ人気があるらしい。田舎の下位貴族とはいえ、二人とも跡取りだし、キース兄さまに至ってはクラス委員。見た目もウィル兄さまは私と同じ銀の髪を短く整え、少し目付きが悪いけど男らしいと評判だ。
キース兄さまは薄い金髪に優しそうな穏やかな笑顔。高位貴族の美しさには遠く及ばないが「頑張れば手が届きそう」なところがいいとのこと。なんとも現実的である。
高位貴族で構成されている生徒会役員と接点があるというのは下位貴族にとっては大きなアドバンテージだ。いずれ家を継ぐにしても親が元気なうちは王都で出仕する人は多い。
だからもし、キース兄さまと結婚したら、おじさまが元気ならば10年くらいは王都で生活するかもしれない。高位貴族の覚えがめでたいとなれば、その妻も社交界での存在感が増すらしいし、いずれ田舎に引っ込むにしても若い時は華やかにいたいのだろう。
田舎の子爵家だから伯爵家以上のお嬢様には魅力がないだろうと思っていたら大間違いだったわけだ。そしてエリス様は伯爵家のご令嬢だ。十分、キース兄さまの相手になりうる。むしろ親同士が仲が良いから、本人同士が幼馴染だからというだけで婚約した私よりも、よっぽどライズ子爵家にとっては良いご縁だろう。
「ねえ、リリア、あなたのお兄さまがよく仰っているキース様って、キース・ライズ子爵令息のこと?」
隣の席で仲良くなったクラスメイトのイザベラがこっそり聞いてくる。
「そうよ。・・・領地が近くて、昔から仲が良かったの」
「いいわねぇ、ライズ子爵令息ってとても優秀で人気があるのでしょう?そんな幼馴染がいてうらやましいわ。
私なんて近隣の領地の子達、10近く下の女の子達ばかりで、集まったって子守三昧だもの。嫌になっちゃう」
「だからイザベラは優しくて面倒見がいいのね。近隣の女の子たちがうらやましいわ」
「リリアったら!・・・それはそうと、ライズ子爵令息って同じクラス委員のご令嬢と恋人同士なんでしょう?仲睦まじいって評判よ。それとももう婚約されているのかしら」
「あ・・・えっと・・・あはは・・・」
自分が婚約者だなんて、言えなかった。誰も知らないだろうし。田舎の弱小貴族の婚約なんて誰も覚えていないだろう。一応婚約した時に新聞の片隅には載ったけど、ずいぶん昔で、お祝いを送ってきてくれた近隣の領地の方々はひょっとするとうっすら覚えているかもしれないが。
自分が婚約者だなんて広まってしまったら、私は惨めな思いをするに違いない。見向きもされない、堂々と恋人を作られてしまった惨めな婚約者として。
それに万が一、サウスフィールド伯爵家からライズ子爵家に打診があった場合、いくら親同士が仲が良いと言っても、こちらの婚約を解消する可能性が無い訳ではない。それなら知られない方がいい。
このまま婚約が続いて結婚するのであればいずれ皆が知ることになるが、それにしたってエリス様と比べられながらの生活は辛いだろうと思うので、なるべく知られたくないと思う。
ウィル兄さまに、私のところに来た時にキース兄さまのこと言わないよう、お願いしたほうがいいかもしれない。
「あのね、ウィル兄さま、キース兄さまがお忙しいのはわかっているから大丈夫よ。それにとても人気があるみたいで色々聞かれてちょっと困っているの。下手に騒がれたくないから、あまり教室でキース兄さまのお話出さないでほしいわ」
言い方が良くなかったのか、ウィル兄さまが想像以上の猪突猛進タイプだったのか。
ウィル兄さまは教室を出たその足でキース兄さまのところに行き、一発お見舞いしたらしい。それも「キース兄さまのお話は出さないでほしい」の部分だけシッカリ守ったのか無言で殴った。
それでもキース兄さまは何も言わずにいたという。ウィル兄さまが睨みつける中、じっと床を見つめているものだから、慌てて仲裁に入った人も、何か事情があることを察してその場で事をおさめたらしい。
クラスメイト達は私に事の顛末を聞きたがったが知らぬ存ぜぬを通した。直接見たわけでもないし、兄さまたちの気持ちを聞いたわけでもないんだから間違っていない。ただ、なんとなく想像できるだけで。
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