第39話 落ち着くところ
これまで読んでいただきありがとうございます。
本編はこちらで完結となります。
最後までお楽しみいただけると幸いです。
「リリア、背筋を伸ばしなさい。あなたの対応は間違っていないわ。あの場で彼女はリリアを攻撃したつもりだろうけど、彼女がやったことは辺境伯家を馬鹿にしたのと同じこと。次期辺境伯夫人である私が守るのは当然よ。
あなたが言い返すと個人対個人になってしまう。よく我慢したわね」
ああ、言い返そうかどうしようか迷ったところは引いていて正解だったのか。エリザベス義姉さまにそう言ってもらえて一気に肩の力が抜けた。エリザベス義姉さまは優しく微笑んでくれている。まるで本当に子どもを褒めているような表情だ。
「あの方ねぇ、そろそろ本当に行き遅れてしまう年齢だというのに婚約が調わなくて焦っているのよ。それで他人の結婚に色々ケチをつけてくるの。
わたくしが辺境伯家に嫁ぐ時も馬鹿にしたように色々囀ってくれて本当に不快だったわ。
・・・まあ、王都の貴族令嬢からしたら北方は辺鄙で田舎で野蛮で、なんなら同じ国とも思っていないというか・・・そういう認識だったもの」
そんなものである。勉強嫌いの男の子に「そんなに勉強が嫌いなら辺境に行くか?」と脅して勉強させると聞いたときは思わず笑ってしまった。
そんな理由で送られてきた貴族の令息は当然、殆どが1週間も持たずに辺境から送り返される。それで王都に帰ってどれくらい過酷な訓練を強いられたのか、酷い目にあわせやがって野蛮人め、と悪態をつくものだからさらに辺境伯領は野蛮だという評判が広がるのだ。
ちなみに辺境伯領で訓練している兵の半数近くは国軍の所属で、王宮騎士志望の王都出身者も多い。常識だと思っていたが、意外と知らないのか、大きな戦争もない平和な日々だから忘れてしまうのか。
「もちろん、しっかり世の中をわかっているご婦人たちはそんなことないわよ。側妃さまのことも、なぜわたくしが嫁いだのかも正確に理解されているもの。
・・・わたくしもね、最初はそんな世間知らずな娘だったわ。理由を説明されても、なぜ私がって。嫁いでからもしばらくそうだったわね。子を産んでからだったわ、覚悟というか自覚が出たのは。
この子を立派な次期辺境伯にするためには、私がちゃんと辺境伯家の人間にならなければとようやく気が付いたのよ。今では北方の厳しさも、人の温かさも心地よいと感じるわ。・・・リリアにもきつく当たってしまってごめんなさいね」
エリザベス義姉さまが少し申し訳なさそうに、でも胸を張って言う。
私が婚約する前にグレッグ様が持っていた「都会出身の貴族令嬢に次期辺境伯夫人が務まるか」という不安も今や杞憂であったと言わざるを得ない。
辺境伯家のみなさんの懐の広さもあるが、エリザベス義姉さまの気質もあるのだろう。彼女はさすが高位貴族の令嬢だけあり、貴族家の当主夫人になるべく教育を受けた立派な淑女である。嫁ぎ先が辺境なのは納得できなかったとしても腹をくくってしまえば完璧にこなすだろう。
私は北方で生まれて北方で育った。だから北方の当主夫人になることは自然な流れだと思っていた。キース様と婚約していた時もそういう予定だったのだし。
でも当主を支えるということ、北方を盛り上げていくこと、そういうことにちゃんと向き合ったのはグレッグ様と婚約した後のことで、まだまだ結婚もしていない未熟者だ。
これからもどんどんお義姉さまに鍛えてもらって、立派にお役目を果たせるようになりたい。そして、北方出身者としてお義姉さまをサポートできるところはしっかりサポートしていきたい。
私は北方に戻る。ちゃんと地に足を付けて自分のできることを増やし、グレッグ様の隣で北方を支え、自分の人生を精一杯生きていきたい。
お義姉さまの凛とした姿を見ながら、辺境伯家のみなさん、グレッグ様と肩を並べ、北方の貴族たちや領民たちを支えていく覚悟をもう一度胸に刻んだのだった。
それから半年、私たちは結婚した。
半年前にお披露目したのだからと、結婚式は辺境伯領で行うことになった。今度は近いのでウィル兄さまも参加してもらえる。夏だからクラスメイトたちも山を越えて来てくれた。式の後はせっかくだから旅行がてら少し涼んでいくつもりらしい。北方の最高峰、万年雪を冠した山を一望できる湖を薦めたらとても喜んでくれた。
ウェディングドレスは王都では白が人気だそうだが、北方では鮮やかな色が人気だ。白だと冬にやったら雪と同化してしまうから、というのは半ば冗談だろうが、領民は長いワンピースの全体に村の女性たちが総出で刺繍を施して色とりどりにする。貴族ではドレスを着るため全体とはいかないが、夏の緑に映える桃色の生地の胸元や裾に刺繍をしてもらった。頭には花をいっぱい飾ってもらう。
お義母さまとお義姉さまは「天使!妖精!」と大はしゃぎだった。
辺境伯家の正礼装である軍服の腰に剣を携えたグレッグ様はいつもより何倍も恰好が良い。正礼装とはいえ、軍に所属せず文官になるのに軍服を着るのは軍務の方たちに失礼なのでは、と少し悩んでいたグレッグ様も私が思わず「恰好いい・・・」とつぶやいたら即決してくれた。
軍人ではないため勲章などの飾りはないが、辺境伯家の徽章がキラキラと輝いていた。グレッグ様が辺境伯家の家人としてこの徽章を付けるのはこれが最後。グレッグ様は結婚式を終えると同時に子爵位を継ぎ、私も子爵夫人となる。
大好きな人たちに囲まれ、幸せな結婚式。その後の宴会も堅苦しいのは最初だけで、途中からは北方の民族音楽が流れ、どこから出てきたのかワインの樽や大口でかぶりつかなければいけないほどのベーコンの厚切り、上品とは言えないサイズのチーズなどが振舞われ、最終的にそれらは領主館の外にまで持ち出され領民も含めてのお祭りとなった。クラスメイトたちも最初はびっくりしていたが、私が先に会場を後にする頃にはマナーなんてどこに放り投げたのか、思い思いに踊り、ワインで赤くなった顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
こうして私は、みんなに祝ってもらって喜んでもらって、グレッグ様の妻に、子爵家の当主夫人となったのだった。
ちょっと意外だったのは、今までとても落ち着いた人だと感じていたのに、結婚した途端に溺愛に近い愛情を注がれていることだ。
恋をしているといわれたこともあったし、愛情も感じていたけれども、こんなに激しく愛されているとは思わなかった。新婚旅行と称して領内の観光地をゆっくり回っている間はずっと隣にいたし、お祝いの声をかけてくれる若い男性がいようものならガッチリ手を握ってくる。
「だってリリアは恋愛にちょっと及び腰だったじゃないか。だから遠慮していたんだ。逃げられたくなかったしね。それに、あまりベタベタすると色々と我慢できなくなりそうで・・・」
ちょっと決まり悪そうに言うグレッグ様が可愛らしく見える。
色々、の部分は聞かなかったことにして、私のペースに合わせてくれたことに感謝する。
「大丈夫よ、私もいつの間にかちゃんと貴方に恋をしていたわ。貴方に寄って来たご令嬢に取られたくなくて必死だったのよ」
ちょっと目を見開いたグレッグ様がふわっと嬉しそうに笑う。
「私、今とても幸せよ」
グレッグ様が私を抱きしめる。私も彼の体に腕を回し、安心して腕の中に納まった。
子爵家に新しい家族がどんどん増えて辺境が今まで以上に賑やかに豊かになるまで、もう少し。
FIN.
これにて本編は完結です。
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
来週くらいに、ウィル兄さまのお話を番外編として三話まとめて公開する予定です。
よろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです^^
そして現在、新作も執筆中です。
次は少しコメディ寄り……になる予定です。




