第38話 社交場の戦い
「メロー男爵令嬢、でしたかしら。ずいぶん儚げですけど、北方の気候は厳しいと聞きますわ。大丈夫なのかしら」
「・・・当家も北方に位置しておりますので慣れておりますわ」
「あら、それは失礼いたしました。存じ上げなくて・・・王都であまりお見かけしないなとは思っておりましたが」
「そうですね、社交シーズンはどうしても雪が深くてこちらに参るのが危険ですから」
「まあ・・・子爵とはいえ辺境伯家に連なる立派なお家柄に嫁がれるのに社交はなさらなくってよろしいの?
あらごめんなさいね、男爵家のご出身なら、華やかな場所にはご縁がないでしょうし、社交がお得意じゃなくても仕方ないわね。
・・・あら、そういえばご令嬢は前にもご婚約されていた方いらっしゃらなかったかしら。それなのにねえ・・・」
他の夜会ならともかく、ここは辺境伯家のタウンハウスである。つい先ほど当主自ら紹介した三男の婚約者に、よくもこんなに馬鹿にした言い方ができるものである。言い返そうかどうしようか考えていたところでグレッグ様がスッと前に出た。
「ご令嬢、私は結婚後は王都の社交シーズンは王都に滞在する当主の代わりに領地を守らねばならない身ですから、王都の社交場にはあまり顔を出しません。リリアも同じです。
リリアにはここ数年、当家で厳しい教育を受けてもらって十分優秀だと母からもお墨付きです。リリアを妻にできることは辺境にとっても私にとっても僥倖で、本当に感謝しているのです」
今までニコニコと当たり障りのない答えしか言わなかったグレッグ様がいきなり話を遮りしゃべりだしたことでご令嬢はぽかんとしているし、周りも一瞬静まり返った。
彼女のエスコート役と思われる男性が慌ててこちらに向かってくる中、横にスッとエリザベス義姉さまが立った。
「ごきげんよう、ナタリー伯爵令嬢。
お久しぶりですわね。冬の山越えは厳しいですし、子もいますからなかなかご挨拶できず申し訳ございません。そのせいで色々ご心配いただいているのでしょう?至らず申し訳ありませんわ」
「エ、エリザベス様・・・ご無沙汰しております・・・いえ、私は別にちょっと雑談をと・・・」
「あら、そうでしたの。リリアのメロー男爵家は北方でも古い家柄で、とても良い所ですのよ。ご存じなかったかしら。
わたくし最近、メロー家のチーズに当家のワインを合わせるのがお気に入りですの。王都の味に慣れているナタリー嬢には少し重厚すぎるかもしれませんが」
「そ、そうでしたの、わたくし存じ上げなくて・・・」
「それに学校でも成績は上位だし、わたくしが教えたこともどんどん吸収してくれてとても優秀ですのよ。
あら嫌だわ、可愛い義妹ができると思ってわたくしったら浮かれて自慢してしまって・・・お恥ずかしいですわ」
まるで本当に楽しい話をしているように、にこやかに微笑みながらエリザベス義姉さまが畳みかける。そこに慌てたエスコート役の男性がやっと到着した。
「ナタリー!お前はなんと無礼なことを・・・マイニング辺境伯令息、妹の無礼、大変申し訳ございません」
冷汗をかきながら謝るエスコート役・・・彼女のお兄さまにグレッグ様もにこやかに答える。
「いえ、リリアは辺境伯家が望んだ私の妻になる令嬢ですから、ご理解いただけたようで安心しました。私もリリアについてのお話だったのでついムキになってしまいました」
「いえ、本当に至らない妹で申し訳ありません。次期夫人にもご不快な思いをさせてしまい・・・妹に関してはみっちり再教育させていただきますので何卒ご容赦を・・・」
エリザベス義姉さまも相変わらずニコニコしながら追撃する。
「あらいいんですのよ。ナタリー嬢はまだお相手を吟味中かしら。北方にご興味があるのでしたらぜひ・・・」
「い、いえ!あの、他にもご挨拶しなければならないので私たちはこれで!」
それこそ無礼ともとれるようなスピードで二人は逃げていった。それを見てエリザベス義姉さまがホッと息を吐く。
遠巻きに見ていた方たちが、
「あの方、迂闊な方なのね」
「だから嫁ぎ先が決まらないのよ。この前もうまくいかなかったらしいわ」
「前にご子息に付きまとったどこかのご令嬢が辺境伯様に叱責されたのをご存じないのかしら」
「そもそも今日は式の日取りが決まったご報告でしたのに無謀なことを」
などとコソコソと話している。
「だいたい、このご結婚は辺境伯様の肝煎りじゃない。ほら、伯爵家の令嬢が・・・」
「ああ、公爵家のお姫様とのあれね」
「辺境伯様が、彼女がフリーになるなら是非ご令息の妻に欲しいって、進んで話を進めたってもっぱらの噂よ」
「それをあんな馬鹿にしたような物言い・・・本当に命知らずね」
「あのエリザベス様があんなにお褒めになって守るのだもの、本当に優秀なご令嬢なのよ」
噂とは本当に恐ろしい。社交界、恐ろしい。エリザベス義姉さまの偉大さもすごい。
エリザベス義姉さまが去っていくご令嬢の後ろ姿を眺めながらため息を付く。私の受け答えが不十分だったかなと、エリザベス義姉さまをちらっと見ると、また大きくため息をつかれてしまった。
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