第37話 社交デビュー
お義姉さまは夏前に可愛い男の子を出産した。跡取りの誕生である。跡取りを産んだことで次期辺境伯夫人の覚悟が決まったのか、母子ともに馬車に乗れるようになるとすぐ、夏の長期休暇が終わる直前に辺境に帰ってきた。今はお義父さまもお義母さまも、もちろん私も可愛い跡取りにメロメロで、早く卒業して私も辺境伯領で暮らしたいなあと日々考えている。
そういえば、グレッグ様と婚約を結んだ時に、孫が・・・という話でグレッグ様が赤面していた理由についてもお母さまに教えてもらった。牛の種付けやお産なんかはよく見ていたので何ということもないじゃない、と最初は思ったのだが手順を聞いてようやく自分事になって大いに動揺した。
その後グレッグ様と顔を合わせた時に思いっきり挙動不審になってしまったが、生来の気質が図太いのか、みんなそうやって命を繋いできたんだし、と腹をくくった。お母さまは、小さい頃は可愛らしかったのにいつのまにこんなに逞しくなったのかしら、と半ば呆れたように言っていた。北方の図太さは私の中にもちゃんとあるのだ。
学校を卒業する直前に、私たちの結婚は半年後にすると決まった。婚約発表の時はまだ私たちが幼かったため、特にお披露目の会はやらなかったが、すでに17歳になっているので社交デビューのついでに日取りの発表もする。さすがに三男とはいえ辺境伯家の子息のお披露目を北方でやるわけにいかず、辺境伯家のタウンハウスで開くことになり、そこでお兄さまに留守番を頼んで両親ともどもタウンハウスに滞在させていただくことになった。
「ようやく社交界デビューね。子爵位とはいえ辺境伯家に連なる家の当主夫妻になるからどうしても王都でやるしかなくって、ちょっと盛大になってしまったけど頑張ってね」
王都のしきたりに不安がある私を慮ってお義母さまが申し訳なさそうに言う。お義姉さまにみっちりしごかれたので、マナーやダンスは王都でも恥ずかしくないようにはなったのだが、色々と噂に翻弄されたときから、都会のコミュニケーションには苦手意識がある。
それは卒業間近になっても苦手なままだった。遠回しの嫌味、根も葉もないのに広まる噂、見え隠れする嫉妬・・・数えだしたらキリがない胃が痛くなるような会話にはどうしても忌避感があって特に高位貴族との会話は最小限にしていた。特に取り入る必要もないし、トラブルも回避できるし・・・というのは言い訳だ。単に苦手なのだ。
「大丈夫だよ、僕もついているから」
グレッグ様が力強く笑いかけてくれる。学校でもさりげなくフォローしてくれて本当に頼もしい。
デビュタント用の白がベースのドレスは、私の銀に近い薄い色の髪と合わせると全体的に白い印象になる。
お義母さまは「妖精みたい!」と目を輝かせていたけれど、あまりにも色が無さ過ぎるのでエンパイアドレスの切り替えに藤色のサッシュベルトを巻き、赤紫の目に合わせてスミレをあしらったヘッドドレスを合わせる。
それを見てさらにお義母さまが「花の精だわ!」と興奮していた。グレッグ様も目を細めて「とても綺麗だよ」とほめてくれた。
グレッグ様は黒いテールコートの胸元にやはりスミレをあしらった花飾りを刺していた。辺境の屈強なお義兄さま達よりは小柄とはいえ、子どもの頃から他の貴族の子たちよりは体格が良かったグレッグ様は、均整の取れた美丈夫となっている。
私はというと、特に顔立ちが悪い訳ではないがスタイルも平均的、まさに平凡そのものである。色味が薄いので儚げとか可憐とか言われたこともあったが、話をするとその評価はあっという間に引っ込むらしい。仕方がない。北方で生きていくのに儚さも可憐さも要らないのだ。むしろもっと逞しくならねば、と思う。
そんなわけで、私たちのデビューである今日の夜会では、豪華で妖艶な美人のお姉さま方が私を睨みつつグレッグ様に話しかけにきていた。
先ほど、私たち結婚しますと挨拶しましたよね?と思うが、きっと私が気弱そうに見えるのだろう。せっせとアピールしてくるお姉さま方の中には驚くことに既婚者もいた。こういう場での会話に自信がない田舎者としては頬を引きつらせながらも笑顔を貼り付けて黙っておくしかない。
グレッグ様も余所行きの顔で無難に、けれども完全に社交辞令です、とわかるような対応をしている。多くは脈がないと悟ってさっさと去っていったが、諦められなかったのか、一人のご令嬢の矛先が私に向いた。おそらく20過ぎのご令嬢、とみられる方だ。既婚者・・・ではないだろう、ドレスのデザインからして。
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