第35話 立場とその振る舞い
次の日、侍女たちのレッスンを受けていると、そこにお義姉さまが通りかかった。
「・・・あなたたち、今までそのように指導していたの?」
いつもより低い声に、扇子を広げかけた手が止まる。侍女たちがすっと端に寄りお義姉さまに頭を下げる。
私も慌てて扇子を閉じ、両手でしっかり持って頭を下げた。
「マナーの指導をしてちょうだいとは言ったけれども、そんな不遜な物言いをしていいとは言ってなくてよ」
「ですが、若奥様、この子はまったく実践が足りず・・・」
「そうですよ、お茶の銘柄もわからなくて・・・」
「お黙りなさい!分家の奥様になる令嬢に対して“この子”などと・・・あなたはいつからそんなに偉くなったの?
あなたたちからしてみたら、下位の貴族の令嬢かもしれない。けれどね、辺境伯様が認めたグレッグ様の婚約者なのよ。蔑ろにしていい存在ではないのはわかるでしょう!
・・・いえ、私が目を離したのがいけなかったのね。ごめんなさいねリリア、この者たちにはきつく言い聞かせますから」
お義姉さまが申し訳なさそうな目をする。私は慌てて頭を上げた。
「いいえ、お義姉さま、私が至らなかったのです。彼女たちの指導は的確でしたわ」
侍女たちがぱっと顔を上げて、こちらを見る。お義姉さまに叱責されたのが不満なのか少し睨んでくる者、気まずそうにする者、私がお義姉さまを宥めてくれるかと期待する者と三者三様だが、お義姉さまは許さなかった。
「それとこれとは話が別です。リリアのためだけではありません。立場の違いを知ること、正しく線を引くことは、彼女たちの立場も守ります。リリアも彼女たちに敬語を使ったりしていないでしょうね?」
「あ・・・それは。教えてくださっているものだからつい・・・」
「だめよ。たとえ仕える相手が格下だろうと平民だろうと、仕える以上は使用人としての振る舞いがあります。それはリリアもよ。上の立場の者としてきちんと接しなさい。
それはそうと、お義母さまから、だいぶレッスンも進んだし新学期への準備もあるから、そろそろ一旦レッスンは終わらせるようにと指示がありました。お義母さまはきちんと見てくれていたようだわ。ごめんなさいね本当に。
さあ、あなたたち、ちょっといらっしゃい。お説教の時間よ!」
お義姉さまは侍女たちを引き連れて戻っていった。侍女たちはこちらを振り向いて、やはり三者三様の反応を見せた。私はレッスンのお礼を言おうと一瞬思ったが、お義姉さまの言葉を思い出して口をつぐむ。ここでも私の未熟さが顔を出してしまった。
確かに、まだ婚約者とはいえ主家の縁者に対しての態度を咎められたら彼女たちの評価が下がる。そのような振る舞いをさせないようにするのも大切なのだ。
実家の男爵家は使用人が少なくて家族のようだったし、私が産まれた頃からの使用人ばかりなので侮られたりするようなことなんてなく、可愛がってもらっていたのだ。こういうところにも、育ちの違いは表れるのだなと、またしても学ばなければならないことの多さに直面したのだった。
学校に戻る前の日の晩餐のときに、お義母さまとお義姉さまから、食事のマナーが洗練されたと褒められた。
「今までも食事の所作は完璧だったし何も間違ったことはしていなかったのだけれども、少し緊張感が取れたようね。安定してきたわ」
とお義母さまが言えば、
「侍女たちが申し訳ありませんでした。でも本当に、見違えるように滑らかになったわ。がんばったのね」
とお義姉さまが言う。
「いえ、色々学ばせていただきました。本当にありがとうございます。実践がこんなに大事だったなんて気が付きませんでしたわ。それに考え方なども教えていただいて。私、学校に戻ってもきちんと復習をして、次回までにはもっとちゃんとできるように精進しますわ」
「あらあら、学校では学業を優先にね。リリアは優秀だからあまり心配はしていないけれども。それに学生時代を楽しむことも大事よ」
グレッグ様が少し誇らしげに笑ってくれている。本当に優しい人たちだ。
そんな中、お義父さまとお義兄さまたちは何のことやらという顔をしていた。後で報告するにせよ、お忙しい方たちの手を煩わせることなく解決する手腕も家を守る女性陣には必要なのだろう。またひとつ学んだ。私はありがとうございます、とだけ言って微笑んだ。きっとお義母さまたちには通じたであろう、二人とも少しおかしそうに微笑み返してくれた。
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