第31話 楽しい辺境伯一家
前回、彼らがいらっしゃったときは騎馬で1日で来られたらしいが、こちらはお父さまやウィル兄さまはともかく、私もお母さまも乗れないことはないが長距離は自信がない。ということで馬車で2日かけて行くことになった。
いきなりのことで贈り物もろくに用意できず、領地のかろうじて特産と呼べる程度のチーズとベーコンを積んで赴いた。王都にも卸している辺境伯領のものよりも素朴でクセが強く、北方では重い赤ワインや蒸留酒に合うと意外と人気なのだ。
着いて客間に通され、身支度を整えると早速、応接室で顔合わせをすることとなり、辺境伯様と奥様、グレッグ様が笑顔で迎えてくださった。なんとなくグレッグ様と顔を合わせるのが照れくさいような感じだ。
型通りの挨拶を終えるとすぐ、奥様が興奮したように話し出した。
「本当に可愛らしいわね!それに成績も首位争いができるほどだと聞いたわ。こんなお嬢さんがグレッグのお嫁さんに来てくれるのね。グレッグとも気が合うようだし、なんて素晴らしいの!・・・ああ、綺麗な銀の髪に紫の瞳、憧れるわあ」
挨拶していた時は凛として辺境伯夫人、という感じだったのに、いきなり少女のようにはしゃいでしゃべり続ける様に驚くやらホッとするやら。
「母上!みなさま驚いていらっしゃいます。少し落ち着いてください・・・申し訳ありません、母にとって北方の色は妖精のようなものらしいのです」
「妖精だなんてそんな。王都の華奢なご令嬢に比べたら体格もしっかりしていますし、そんな神秘的なものではございません」
「あら、わたくしに比べれば背も低いし。わたくし南の隣国の血を引いていて、髪色も黒いし背も高いのよねえ。可愛らしいドレスも似合わなくて、お嫁に来たらリリアさんとお買い物に行ったりするのを楽しみにしているの」
「・・・母上。リリア嬢が来てくれる頃には母上の憧れのヒラヒラのフワフワよりも大人っぽいドレスが似合うようになっていますよ」
「あらそう?じゃあ、孫に期待ね!」
孫が着飾れるようになるのなんて20年くらい後だと思うのだけど。と思ってグレッグ様を見たら顔を真っ赤にしていた。キョトンとしていたら、夫人が「え?純粋無垢なの?尊い・・・」とつぶやいている。お母さまがハッとして慌てて取り繕った。
「アイーシャ様、申し訳ございません。そのあたりはまだ何も教えておらず・・・嫁ぐまでには必ず・・・」
「いいのよ、嫁ぐための勉強についてはゆっくりで構わないわ。今は学校の勉強も忙しいでしょうし、辺境伯家は何かと独特なの。グレッグは家を継ぐわけでは無いからそこまででもないけれども、内情は知っておいてもらうに越したことはないから、そうね、来年くらい・・・」
「おいおい、アイーシャ、まだ正式に婚約もしていない。婚姻の時期も決まっていないのに先走るんじゃない。まずはそちらの話が先だ」
「あらそうだったわね。失礼したわ。ではさっさと決めてしまいましょ!」
「・・・お前ちょっと、男爵夫人とお茶でもしてこい。話が進まなそうだ」
呆れたように言う辺境伯様に半ば追い出されるようにしてアイーシャ様はお母さまを連れて出て行った。
「家内がすまない。・・・それで婚約についてなのだが、まずは受け入れていただき感謝する・・・それに、一連のトラブルではどうも結果的にこちらの都合の良いようになったようで心苦しく・・・」
「いえ、大事になる前に動いていただきありがとうございます。あのままでは収拾がつかなかったでしょう。略奪令嬢に浮気令息、未練娘では目も当てられません」
お父さま・・・言い方・・・。
「ライズ子爵が、自分たちには何もできない、自分の息子は自業自得だがせめてリリア嬢がこれ以上傷つかないように仲裁してくれと私に泣きついてきたのだよ。彼も気の毒なことだ。優秀な嫡男が純朴に育ったが故に王都の女狐・・・おっと失礼、ご令嬢に誑かされて」
「まあ・・・ライズ子爵様がそのようなことを」
思わずつぶやいてしまう。おじ様とおば様はとにかく昔から可愛がってくれたのだ。暖かく、切ないものが胸に広がる。
「あの嫡男を褒めるとしたら、いち早く伯爵令嬢に迫られて身動きできなくなったことを父親に報告したことだな。そのおかげで伯爵家が正式に動く前にこちらが仲裁に入れたので公爵家との間も何とか取り持てた。早くて3か月というところだな、動くのは。
公爵令嬢と伯爵令息は特に何もなく令嬢が嫁ぐ形で婚姻するだけだ。どちらの家に属するかという点で揉めていただけだから婚礼の準備も整っているらしい。
婚礼の日取りが決まり次第、伯爵令嬢とライズ子爵家の息子の婚約を発表する。それに合わせてこちらも発表しようと思っているのだが如何かな」
「それで構いません。そのタイミングであれば、真相はともかく、体裁的には公爵家の決定を待ってこちらが整ったということになるでしょう」
「公爵様も消沈してらしたよ。近々、ご長男に爵位を譲ると仰っていた。
ご自分の娘が横槍を入れた時は、元婚約者の侯爵令嬢にかなり良い嫁ぎ先を紹介することで円満に解消してもらうという気遣いをしたのに今回はなんの気も回さなかった。まったく周りが見えていなかったのだよ」
「ご令嬢の嫁ぎ先の伯爵家ならともかく、子爵家、ましてや男爵家など取るに足らない立場ですから、お気付きにならなくても致し方ないかと」
「それではいけないのだよ、上に立つ者は。リリア嬢、グレッグは三男だが、辺境伯家に連なるということは領民だけでなく北方の下位貴族にも気を回さないといけない。色々面倒も多いだろうが、グレッグと力を合わせて協力してくれるか」
背筋が伸びる気分だった。通常の子爵夫人より多くの役割を担う覚悟はしていたが、子爵位という爵位以上の視点を持たないといけないということまでは想像していなかった。弱小男爵家の私には難しいように感じるが、それでも。
「もちろんです。グレッグ様に私ならできると認めていただいたのです。正直、今はまだ男爵家の娘としての矜持しか持っておりません。けれど、これからグレッグ様の婚約者としてその振舞いを学び、必ずやご期待に沿えるよう精進いたします」
「良い良い、そんなに固くなるな。まだ何年もあるのだ・・・それに、良くも悪くもおおらかなのが北方だ。固くなりすぎず、北方全体を辺境伯家が守る、という気概があれば良いのだよ」
辺境伯様は豪快に笑う。
そうだ。前回は私も婚約者であるという意識が弱かったのだ。だから、エリス嬢にも対抗しなかった。キース様が婚約者として遇してくれるのをただ待っていたのだ。年下だからと甘えて、婚約者としての意識が低かったのは私も同じ。キース様だけを責めていい話ではなかったのだ。
私が責められないのは、まだ子どもだと思われていたから。まだ子どもの私をそろそろ成人しようかというキース様が蔑ろにしているように見えたから私に同情する人が多かっただけで過ちは同じだ。
今度は同じことを繰り返さないよう、きちんと自覚して行動しなければならない。
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