第28話 キース様との決別
学校が始まってすぐにサウスフィールド伯爵家から打診があったということで、2ヵ月待つことも無く、両親とライズ家の皆さんが王都に来て解消の手続きを行うことになった。私たちが休みではないので実家に帰るわけにもいかず、だからといって長期休みまで延ばすこともできず、というところだ。
話を聞いて、何もかもが遅かったんだなとしか思わなかった。高位貴族が複数出てきてしまった時点で、素朴で実直なだけが取り柄の北方の下位貴族にはどうにもできない。
エリス様は今回のことで評判を多少下げたといっても、もともと人気のあるご令嬢だ。私たちが太刀打ちできないような家格の方々が寄ってたかって彼女をキース様に嫁がせるメリットがどこにあるのかはわからない。彼女なら、国内に良い相手がいなくても、外国に嫁ぐこともできる。北方の下位貴族にすぎないキース様に拘る必要はなかった。どれだけ大義名分を振りかざしても、彼女が婚約者のいる男性を奪ったという事実は消えない。事情が事情だから誰も口に出さないだけで、そういう目で見られることに変わりはない。それでもキース様を選んだのは余程お好きだったんだろう。あの刺繍を刺していた時、もうあの時点でこの結末は決まっていたのだとわかった。
おじさまは平身低頭、謝ってくださった。自分たちの力不足だと。いくら仲が良いとは言っても爵位はあちらの方が高い。その当主に頭を下げられては文句の一つも言えなかった。
おばさまは終始、涙を拭いていた。娘のように可愛がってくださっていたから寂しいのだろう。エリス様はとても綺麗で皆の憧れのご令嬢ですよ、と言ったら、いくら美人でもあんな策を弄するような嫁は嫌よ!とますます泣かれてしまった。
まだ7歳のルイも泣きそうな顔をしている。リリアお姉ちゃん、と無邪気に抱っこをせがんできて一緒に遊んだ、みんなの弟。兄さまたちに可愛がられていた私はルイが産まれて、自分がお姉さんになった気分で色々連れまわしたのだ。これからはそういうことも控えなければいけないだろう。
そして、キース様。憔悴した顔を俯かせていたが、おじ様に、お前も何か言いなさい、謝りなさいと言われ、しっかり顔を上げた。
「僕は、リリアを本当に可愛いと思っていたんだ。ここで、この土地で皆で過ごして、この土地でリリアを守っていこうと思っていた。それなのに・・・本当にごめん」
「いいのよ、キース兄さま。私たち、狭い世界で過ごしすぎたんだわ。世の中はもっと広くて、もっと厳しかった。そういうことよ」
「また兄さまと呼んでくれるんだね・・・リリアにはそう呼ばれる方がしっくりくる」
「・・・知っていたわ。私がキース様と呼ぶたびに少し変な顔してたもの・・・だからね、わかっていたのよ。私はキース兄さまにとってずっと妹だってこと。兄離れ、妹離れする時が来たのよ」
「・・・リリアは大人だな。4つも下なのに」
「ふふ、こういうことは女の子の方がませているものなのよ」
「ありがとう、リリア。・・・また前のように仲良く・・・」
「駄目よ、同じことを繰り返すつもり?エリス様を不安にさせるようなこと絶対しちゃ駄目よ。二人で過ごすのも駄目。私のことをリリアと呼んでも駄目。キース兄さまと呼ぶのもこれで最後よ」
そう言うと、肩を落とした後、ちらっとウィル兄さまを見た。
「・・・俺は、リリアを傷つけたことについて思うところはあるが、まあ一発殴らせてもらったし、この間も話したからな。友達で居続けるのはいいんだが・・・それこそ伯爵令嬢が”元婚約者の兄”と交流していることをどう思うか。ちょっとそこは様子見ながらじゃないと、下手に揉めるのはお前にとっても良くないだろ」
周りが首を縦に振っているのを見てキース様はさらにがっくりと肩を落とした。
結局、完全に元通りには戻らない。こうなった以上、それは仕方がないのだ。
政略的な事情も無いのに、結婚や恋愛について何も知らない子どもたちを親の感覚だけで婚約させてしまったのが間違いだったと両家の母親がしみじみと言っていた。
当事者のキース様はともかく、親同士の交流は今のところ特に問題なさそうなので、改めてこれからもよろしくね、ということで散会となった。
最後までおば様は「いやだわ~計算高い伯爵令嬢が嫁に来るなんて・・・」とつぶやいていたが、キース様が間に入って何とかしてもらうしかない。なんだかあまり期待できないけれども。
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