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第27話 もう逃げられない【キース】

正式にクラス委員を辞退しようと生徒会室を訪れた時、新学期が始まって10日ばかり目も合わせなかったエリス嬢が生徒会長と書記と向かい合って何かを離している最中だった。ノックをして入室を許可されたのだから大した話をしていたわけではない、と思いたかったが、ふと見たエリス嬢の目が赤いことに気が付いて動揺した。


「いいところに来たね、キース。君たちのことなんだけどね・・・」


「会長!キースには・・・」


「エリス嬢、入学式も終わるしそろそろクラス委員について固めないと人手が足りないんだ」


「それ、それなら、わたくしが・・・」


「君は、まだ伯爵家を継ぐ可能性があるんだろう?それならクラス委員はやっておいたほうがいいんじゃないかな。君なら事情もあるし爵位的にも役員に任命できる」


「でも、キースだって子爵家を継ぐのだから・・・」


そうか、入学式は明日だった。クラス委員の仕事から外されていたからすっかり忘れていた。


「あの、そのことなんですが、僕が辞退します」


「そんな!」


エリス嬢が悲鳴のような声を上げる。こんなに感情を露わにした彼女を初めて見た。いつも凛として穏やかに微笑んでいたのに。


「・・・キース、それは君の意思かい?卒業してしばらくは王宮で働くと言っていたじゃないか。ご家族から何か言われたのなら、とりなすことはできるよ」


「いえ・・・こんなことになっているのは僕の責任ですから」


「それは、まあ、そうなんだけども、参ったなあ。最高学年だからね、君たちがいてくれた方がやりやすいんだけどな。・・・エリス嬢、公爵家と、君のお父上はどんな感じだい?」


「・・・公爵様にはご令嬢が毎日のように説得されているそうです。少しずつ柔らかくなっておられるとか。なので、私の縁談が持ち上がれば、それを理由に少し強く抗議できそうだとのことです」


父さんが言ったとおりの流れになりつつある。何でも押し通したり引っ込めたりするには大義名分が必要だということか。その大義名分に僕たちは巻き込まれている。


「何かいい縁談はありそうかい?エリス嬢の婚約が決まれば、噂は根も葉もないものだったとして君たち二人をクラス委員に任命できるのだが」


ああ、これは会長も僕たち二人を婚約させたいのだなと悟った。こんなに個人的なことに口を出してくるのは、生徒会やらクラス委員がどうのこうのというだけでは無いだろう。生徒会ならともかく、クラス委員はいくら慣れている方がやりやすいと言っても所詮はサポートに過ぎない。誰の思惑か、僕がリリアと別れてエリス嬢を娶って誰が得をするか。そんなことは、世間知らずな僕がいくら考えてもわかるわけがなかったが、自分の意思ではどうにもならない流れに乗って、ひたすらどこかに連れていかれているようなそんな気がした。


エリス嬢が僕をちらっと見ながら小さな声で答える。


「もうすぐ卒業という年になってしまいましたし、当家からでは上位の方々にはお願いできません。それにこのような噂が立ってしまって、いくらわたくしたちの間には何もないと訴えても誰も聞いてくれないのです」


「それはそうだろうね。二人とも否定しなかったのだから」


エリス嬢は下唇かんだ後、絞り出すように言った。


「わたくし・・・わたくしは、キースに婚約者がいるなんて、去年まで知らなかったわ」


「北方のことだし、その当時は婚約者の令嬢も入学前だしね、エリス嬢が知らなかったのは仕方ないが」


「彼女が入学してきてもキースは何も言わないのです。わたくし、ちゃんとしてって言ったわ」


エリス嬢の涙が溢れそうになっている。かろうじて流れるのを止めているような状態だ。それにしても、エリス嬢が僕と結婚したいというような素振りはあっただろうか。いくら考えても、そんな素振りはなかったとしか思えない。単に僕が鈍いだけかもしれないが。


「ちゃんとするといっても、やはりあのタイミングだと多少の無理は通さないと難しかったんじゃないかな」


「だからどうすれば良いかわからなくて・・・それでご相談を・・・」


絡めとられていく。エリス嬢の涙が本気なのか演技なのかわからないが茶番としか思えないのに、それにすらうまく対応できない。すでに場の流れは僕とエリス嬢が婚約することになっている。否定しなくてはいけない。僕は、リリアと結婚して、あの場所を守るんだ。それなのに、どうやってこの流れから抜け出せばいいのかわからなかった。頭の中で血が流れる音がする。いつの間にか手にはびっしょり汗をかいていた。


「僕・・・僕は・・・リリアと・・・」


「キース、君は一度、ご両親と話し合いたまえ。今は色々な事情を知って混乱しているだろうから。ご両親はこちらには来られないのかい?そうだ、せっかくだから我が家に招待しよう。ライズ領のチーズはコクがあってワインに合うと聞いた。うちはワインの流通に関わっていてね。いい話ができると思うよ」


ああ、リリア。僕はどこで間違えたんだろう。リリア、ごめん。ウィル、ごめん。僕は流されていくだけ。きっともう何もできない。


こうして、リリアとの婚約は見え透いた大義名分と共にあっさり解消されることになった。


エリス嬢と婚約を結びなおしたとき、僕が


「君はこうなることがわかっていたんだろう。何故こんなことを」


と、少し非難気味に問うと、いつも通りの穏やかな笑みで答えた。


「あら、気が付いていなかったの?誰でもなく、あなたが良かったからよ。それにわたくし、ちゃんと引き返すチャンスはあげていたわ」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです^^

明日も20時に投稿予定です。

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