第26話 リリアを守るのは僕【キース】
週末は護衛を一人連れてリリアと街に出た。北方では見たことのないセンスの良い、でもそんなに高級ではない雑貨屋を回って色違いの万年筆を買い、目当てのレストランでランチを取る。
魚と言えば川魚くらいしかない北方と違って南方から入る魚介類は種類も多く旨味も強い。エビやイカ、タコがふんだんに入ったトマトソースパスタをリリアは初めて食べたと喜んでいた。
デザートに頼んだフルーツパフェにもマンゴーやパイナップルなど北方では見かけないフルーツが色とりどりに乗せてあって、キラキラと目を輝かせて甘いとか冷たいとかはしゃぎながら味わっている。リリアはやっぱり可愛いなあ、こうやって美味しいものや珍しいものを僕が教えてあげて、幸せそうにしているのを見るのは嬉しいなあ、と思いながら僕はフルーツタルトをつついていた。
食事のあとは噴水が美しい公園に行く。都会の中にぽっかりと木々の多い場所があるのは心が落ち着く。舗装された街中の道はリリアには歩きづらいようで、たまにヒールが引っかかるようだったのが、公園の土の上を歩きだしてからは軽やかに危なげなくなり、噴水を見て歓声を上げながら小走りで向かっていった。
「キース様、見て!虹が出ているわ!」
北方では、辺境伯領の領都ならともかく、自分たちの領には噴水などない。冬は凍ってしまうため管理が面倒なのだ。珍しいのか身を乗り出して水に触ろうとするリリアが落ちてしまわないかハラハラする。リリアの振る舞いは貴族令嬢としては少し優雅さに欠けるだろう。だけれども僕はそれがリリアらしいと思ったし、だから可愛いんだよなと思った。
リリアを守るのは僕だ、とずっと思っていた。今回こんなことになってしまったけれども、あの領地で、父さんたちのように両家仲良く過ごすんだと、そのうちウィルにも奥さんが来て、お互いの子どもたちをまた遊ばせて、あの陽だまりのような幸せな時間を今度は僕たちが作るんだと思っていた。その気持ちをいつしか忘れて、都会の洗練された世界に中途半端に片足を突っ込んでしまった。高位貴族もいる中で優秀だと褒められるたびにどんどん足元が浮いていった。
僕は自分の領と、家族、そしてこれから家族になるリリアを含めたメロー男爵家を幸せにしないといけない。何故それを忘れていたんだろう。僕の居場所はライズ子爵領にあって、王都でしばらく宮仕えをするとしても本格的に父さんの跡を継ぐための準備が始まるまでの数年間だ。
ちょっとばかり成績が良くて、高位貴族に気に入られて、王都の伯爵令嬢に憧れて、僕は浮かれていた。確かに王都の高位貴族の覚えが良いに越したことはない。北方だけですべてが完結する訳ではないのだから。でも僕には両立は無理だったのだろう。現に今、僕は自分の行いのせいで窮地に立っている。もう卒業したら宮仕えなんてしなくていいから領地に帰ろうかな、その方がいいだろうな、と自分に不甲斐なさを感じながらも決意を新たにしたのだった。
宮仕えをしないのであれば、領地でおとなしくしているのならば、これ以上クラス委員にこだわってエリィ・・・エリス嬢と交流を続ける必要もないし、今の状況では距離を取った方がよいだろう。
クラス委員を辞して、エリス嬢と離れて、噂の鎮静化を待ってリリアと結婚する。それが全員が幸せになる方法。自分の手を離れてしまったこの問題を正常に、元に戻すにはきっとそれが良い。そうすればまた楽しく穏やかな時間が戻ってくる。きっと元に戻れる。リリアとも、ウィルとも。今まで頑張ったけど、もうクラス委員は辞退しようと決めた。
しかし、それからたった数日で、僕の決意が遅かったことを思い知らされることになった。
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