第22話 リリアを大切に【キース】
思ったより大事になってしまったが、とりあえず2ヵ月の猶予を貰え、今後はリリアを大事にすると胸に誓いながら帰宅した。その数日後、父さんに呼ばれ、マイニング辺境伯様がご子息を連れメロー男爵家を訪ねたらしいことを聞かされた。もし辺境伯様が強くリリアを望んだ場合は、メロー男爵家は断れないだろう、と言われた。
「そんな、まだ僕という婚約者がいるというのに」
「だからそういう隙を見せたんだ、お前は。閣下はそういう無理を通す方ではないが、それだけに正攻法で来られたら誰も文句が言えなくなる」
「正攻法って・・・」
「公爵家に話を付けて令嬢を伯爵家に嫁に出し、縛られている伯爵令嬢を開放してお前に嫁がせ、リリアを自分の息子と娶せようとすることなど、彼にとっては造作もないことだろうよ。さらに表向きは誰にも非が無いという形に収めることもできる。まあ、真相は誰もが知るところではあるだろうがな」
「そんな・・・」
父さんは心底呆れたようにため息を付き、続けた。
「結局、お前はどうしたいんだ?
リリアは良い子だし、父さんも母さんも気に入っているが、もし解消したとしても、辺境伯様の介入の結果ということであればメロー男爵家とは良い関係をこれからも続けていけるだろうし、伯爵家に多少の恩を売れる形で令嬢に嫁いできてもらうのも家としては悪く無い。本人は優秀だし、実家も公爵家の我儘に振り回されているだけで特に問題は無い。・・・母さんは気に入らないようだがな。
閣下におまかせして、リリアと円満に婚約を解消して、崇拝するエリス嬢を迎えたっていいんだぞ。そうすればお前はリリアを幼馴染の妹として扱える。
まあ、猶予は2ヵ月だ。その間に考えるんだな」
話は終わりだと言わんばかりに腰を上げたのでそれ以上は聞けなかった。その日から僕はリリアを何度か訪れ、ささやかながらプレゼントも用意した。リリアは大振りで華やかな花よりも小さな花が集まったようなものが好きだ。春らしくミモザなどをあしらったブーケを渡せば、顔を綻ばせて「綺麗ね」という。菓子もリリアの好きなパティスリーのフィナンシェを持って行けば、それに合う紅茶を用意して味わっている。リボンだってリリアの銀に近い薄い色の髪と赤みがかった紫の眼に合わせて藤色を選んだ。さっそく髪に当ててみたリリアはとても可愛かった。会話も前のようにスムーズにできるようになった。昔と違い、勉強の話などもできるようになり、ずいぶんリリアも大人びたなと感じる。
ほら、僕はリリアのことをこんなによくわかっている。可愛いと思うし、今更ながら大切にしたいと思う。リリアとこんな風にずっと生きていける。休暇が終わったら学校でもちゃんとリリアを婚約者として大切にすると、このとき心に誓った。
休暇が終わる数日前に学校に着けるよう移動する。今回はリリアとウィルと3人だ。ウィルはまだ僕を信用していないというか、許していないようで時々鋭い視線をよこしてきていたが、リリアが穏やかに話をしているので微妙な顔をしつつも会話に加わっていた。
途中、宿に3泊する。当然部屋はウィルと僕、リリアは一人だ。部屋に二人になり、もう寝ようかという時になって、急にベッドに座りなおしたウィルが改まったように口を開いた。
「前は殴ってごめん。でもリリアのことを考えると我慢できなくて」
「いや、殴られて当然だ。僕が悪かった」
「それで、お前さ、本当にリリアでいいの?いや、エリス嬢とそういう関係じゃないというのは、お前の様子を見ていればわかるんだけど。
でもさ、リリアは幼馴染だからとか、約束したからとか、結婚の話が出た時リリアが嬉しそうだったからとか、そういうことに縛られているならやめた方がいいんじゃないかと思うんだよ」
「いや・・・僕はリリアが可愛いし、ずっと一緒にいるものだと思っていたし」
「その可愛いって、俺が妹を可愛いって思うのとどれだけ違う?お前はリリアを妹のように可愛がっていたと言ったらしいけど、妹って夫婦になれるのか?リリアと抱き合ってキースして子ども作るって想像できる?」
「・・・」
「貴族だから恋愛どうこうで結婚が決まるわけじゃないし、別にそれはリリアとの結婚だって同じなんだけど、今回のことって結局、リリアを妻になる女として見れないっていうところから始まっているんじゃないか?だから婚約者として扱えなかったんじゃないか?」
「恋愛・・・いや、でもリリアはまだ子どもだし・・・」
「あのさ、うちで話し合いしたとき遠くから聞いてて思ったけど、そういうことについてはきっと俺たちよりリリアの方が聡いぞ。俺はともかく、お前は頭いいのにそういうところは残念な奴だなあ。まあ、俺はリリアのことちゃんとしてくれるのならそれでいいから」
良く考えろよ、と言ってウィルはベッドにもぐりこんだ。
また「ちゃんと」だ。「ちゃんと」って何だろう。僕のやっていたこと、それが「ちゃんと」してなかったのはわかったけれども、じゃあ「ちゃんと」してるってどういう状態なんだろう。
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