第21話 辺境伯とグレッグ様の訪問
「おいリリア、お前マイニング辺境伯様のご子息と何かあるのか?」
「三男のグレッグ様なら同じクラスよ。どうしたの?」
「ああ、そうか、そういえばそうだった。マイニング辺境伯から、もしお前が婚約を見直すようなことがあったら是非に、という手紙だ」
「・・・は?グレッグ様?どうして?」
「わからん、仲いいのか?学校で何か言われたりは?」
「何も言われていないけど、仲は悪くないと思うわよ。秋祭りで一緒にタペストリーの説明したりしたし」
「とりあえず、明後日訪ねたいとのことだ。断るわけにもいかないから準備しておきなさい」
グレッグ様が?そんな素振りは全くなかった。確かに彼は辺境伯家が持っている子爵位を継ぐと聞いているから私が嫁いでも爵位の差は気にしなくてもいいが、それでも本家が辺境伯家なんだから、もう少し良い家からもらってもいいはずだ。それこそ伯爵家でも。
もやもやしながらも、格上の辺境伯様を迎えるための準備をする。こんな田舎男爵家に地位でいえば侯爵家レベルの辺境伯様がいらっしゃるなんて、どこをどれだけ掃除しても、花を変えたり一番いいタペストリーを飾ったりしても、どうにもお迎えするに相応しい応接室にはならない。最終的には使用人ともども、これ以上無理、という諦めモードで準備を終えた。
訪れた辺境伯様はとても立派な体躯をした美丈夫だった。グレッグ様も決して小柄ではないのに辺境伯様と並ぶと小さく見える。そして我が家の応接室がとても狭く見える。
「突然の訪問、申し訳ない。学校の休暇中に話をすべきだと思い、気が急いてしまった」
「いえ、とんでもない、むしろお呼び出し頂ければこちらから伺いましたものを態々ご足労頂きまして恐縮です」
「いや、こういうことはこちらから伺うべきものだ。
・・・早速なのだが・・・今の段階でこういう話は、リリア嬢にも大変失礼なことだとは分かっているのだが。ライズ子爵の長男との婚約について状況を伺いたい。
というのも、リリア嬢は非常に優秀だと聞く。それに北方の風習にも明るく、この土地に対する愛情も深い。ライズ家の長男の評判があまり良くない今、リリア嬢は北方の貴族の中では一番の注目株なのだ」
言いづらそうに言葉を選ぼうとしているのはわかるのだが、求婚するのに注目株とは。微妙に残念な言い回しである。脳筋、というやつなのだろうか。ちょっとウィル兄さまの大雑把なところと似ている気がする。お父さまも無骨なところがあるし、北方の男性はこういうものなのかもしれない。それを考えるとグレッグ様やキース様は洗練されている方なのかもしれない。
「父上、そのような言い方は・・・少し、リリア嬢と話をさせていただいてもいいでしょうか」
「娘はまだ婚約者がいる身ですので、二人きりにはできません。扉を開けた状態でバルコニーでお話されるのであれば」
バルコニーに移動して、お茶を用意してもらう。グレッグ様は普段と同じような雰囲気で話し出した。
「父が失礼なことを言ってごめん。ただ、ライズ殿の振舞いのせいで北方の貴族が虎視眈々と後釜を狙っているのは確かなんだ。
僕は学校での君とライズ殿を見ていて怒りを感じている。君は粗末に扱われるべき令嬢ではないし、僕は好ましいと思っている。
秋祭りでのタペストリーの販売や北方の風習の説明は郷土愛に溢れていて頼もしく、全力で動く姿がとても眩しいと思った。僕は子爵位をもらって継ぐが、特に領地を持つわけでもない。・・・多少の統治はまかされるかもしれないが、基本的には父や兄を内政で支えるつもりだ。その時に君にそばにいてもらえたら、と思う。
君がライズ殿を慕っているのはわかっているし、一緒に人生を歩む上で君の気持ちが大事だと思うから辺境伯家から強引に横やりを入れることはしないが、万が一のことがあったら、一番に僕を候補に入れてもらえないだろうか」
「ありがとうございます。そんな風に言っていただけるとは思いませんでした。・・・婚約は、あと数か月ほど様子を見ることになりました。キース様はまだ私と結婚するつもりでいるようなのです。キース様が振舞いを改められて婚約を継続できる状態になるか、周りの思惑がどう影響するかを見るつもりです。・・・同時に、私の気持ちも」
「そうか。では僕も、あと数か月、結論が出るまで見守ることにするよ」
「ただ、解消となったとしても、すぐに次、というのはあまり考えられないのです。
グレッグ様が信用できないわけではないのですが、まだ私たちは幼いのです。グレッグ様が今のキース様と同じくらいの年齢になった時、恋する人ができてしまったら、今度こそ私は立ち直れなくなります」
「その不安はわかるよ。君を取られたくなくて僕も気が急いていたようだ。では、万が一の場合は、その気になれるまで新たな婚約者を作らないでくれないか。その間に僕は君に信用してもらえるように努力するよ」
「それでしたら・・・。でも、本当にキース様との婚約がどうなるかはわかりませんよ?」
「それはわかっているよ。さっきも言ったように、君の気持が一番だ。婚約を継続できるようならきっぱり諦めるよ。将来はライズ領を盛り立てていくことで北方に貢献してもらえればいいし」
「わかりました。進展がありましたらお伝えさせていただきます」
「・・・僕はすでに、君に恋をしているような気がするよ」
最後の言葉は小さく独り言のようだったがしっかり聞こえた。じわじわと顔が熱を持ってくる。こんなに言葉を尽くしてくれる方と結婚する方が幸せになれるかもしれない。私たちは同級生で、一緒に成長していける。キース様を追いかけるよりいいのかもしれない。もっとも、振舞いや会話からして、グレッグ様の方がキース様より大人には感じるのだが。私はグレッグ様との会話と、先日のキース様との情けないやり取りを比べてため息をついた。
その後、親を交えた相談で、キース様との婚約がどうなるか決まるまでは辺境伯家は動かない、継続が決まったら速やかに申し入れを撤回する、解消した場合、2年を限度に私の気持ちが整うまで待つ、ということになった。ずいぶんと私に気を遣ってくれた内容で、本当にそれでいいのか聞いたところ、それだけ私に価値があるのだと辺境伯様は豪快に笑った。
その後、新学期までの間にキース様は数回、私に会いに来た。まだまだ外は寒い季節なのでピクニックや遠乗りに行くことはできず、部屋で話すだけだったが、すこしずつ気まずさも取れてスムーズに会話ができるようになってきた。お花や菓子、リボンなどの贈り物もいただいて、これならば・・・とも思ったが昔のように無邪気に慕う状態には私が戻れず、一抹の不安は残るのだった。
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