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第20話 こんなに頼りなかったのね

次の日、おじ様たちに引っ張られるようにして、すっかり萎んだキース様がやってきた。

おじ様は怒りを抑えきれないような顔でキース様の頭を乱暴に掴んで頭を下げさせている。おば様は泣き顔だ。お二人は私に謝ったり、気遣ったり、キース様を責めたりと大忙しで、なかなか話が始まらない。それだけ責任を感じてくれているのだろう。


「おじ様、おば様、色々とありがとうございます。ちょっとキース様と二人でお話させていただきたいのですがよろしいでしょうか」


「もちろん!・・・ほらキース、ちゃんと!誠意をもって!リリアの話を聞け!お前に何かを言う権利は無いからな!」


いやいやそれは話し合いとは言わないだろう・・・とは思いながら、バルコニーの椅子に座る。


「キース様、状況は色々聞いたと思うのだけど・・・私は入学してからのことで確かにとても傷ついたのだけど、とりあえず1年、キース様の卒業が近くなるまでは様子を見ようと思っていたの。その前にこんなことになっちゃったけど」


「・・・ごめん」


「それは、何に対しての”ごめん”なの?私を放置したこと?結婚相手として見れないこと?他の人に心を移したこと?婚約を継続できないこと?」


「婚約は!解消しようなんて思ったことは無い!」


「じゃあどうしたかったの?」


「僕は・・・エリィに憧れていたんだ。王都の洗練された、優秀な伯爵令嬢で、同じクラス委員で。でもエリィと結婚したいと思ったことは無いし、リリアと結婚するもんだとずっと思ってて」


「それならなぜ、噂を否定して私という婚約者がいると言わなかったの?ちゃんと私を婚約者として公表して、そう扱っていたらこんなことにはならなかったし、私も傷つくことはなかった」


「・・・ごめん」


「だから、その”ごめん”は何に対してなの?」


「・・・」


4つも年上なのに、なんだか情けない。こんな感じだったっけ、もっと大人だと思ってたのに、と思わずため息をつく。


「それで、これからどうするの?」


「これからは、エリィとは距離をとって、リリアと一緒に過ごすよ。リリアを大切にする」


「・・・まず、婚約者でもない女性の名前を愛称で呼ぶのを改めたら?」


「そうだね、ごめん」


「あのね、小さい頃からの約束だからって縛られなくてもいいのよ。どうしたいのかもう一度考えてほしいわ。私は入学してからずっと考えてる。このまま結婚するのがいいのかどうかを」


「それは・・・リリアはもう僕のことは好きじゃないということ?」


不安そうに私を見る。本当に、こんなに情けない人だったかしら。年上なのに!私を妹のように見てた人が!ため息のオンパレードだ。


「あのね、先に離れていったのはキース様よ。私だけが好きでも、それで私たち幸せになれるのかしら。心に別の人がいる相手とずっと一緒にいなければいけないの?その人と比べられながら?そんな惨めな結婚、いくら好きでも嫌だわ」


「別に、エリィ・・・エリス嬢のことが好きなわけじゃない!女性としての好意を持ったことはない」


「エリス様はキース様に嫁ぐ気あるみたいよ?この間タペストリーの作り方聞いてきたもの」


「それは・・・秋祭りで人気が出たから」


「北方では女の人は作れなきゃいけないのよね、とか言いながらピオニーと木のモチーフ選んでたわよ」


「ぐっ・・・でも、そんな話をしたことはないし、二人きりになったこともない。距離もちゃんと取っている」


「当り前よ。そんなことしたら本格的に不貞じゃない。とにかく、どうしたいのかちゃんと考えて頂戴」


「・・・僕は約束通り、リリアと結婚する。これからはリリアを一番にして、婚約者だと紹介して、エリス嬢とは距離を取る」


「そう。じゃあ、とりあえず新学期始まってから2ヵ月様子を見るわ。その間、キース様もちゃんと考えて、気が変わったらすぐ言ってね。ここまで噂が広がってしまったら全員が無傷ではいられないけれども、傷は浅い方がいいわ」


「わかった」


最初は次の長期休暇まで様子を見ようと思っていたけれど、あまりの頼りなさに様子見期間を短縮。それも含め、両家の皆に私たちの決断を伝える。

部屋の隅で漏れ聞こえる会話に耳をそばだてていた誰もが、納得いかないような、呆れたような、不安そうな顔をしていたが、入学してからはじめてまともにキース様と話したのだ。もう少しだけ様子を見たいと思った。


その日の夜、ウィル兄さまが部屋を訪ねて来た。


「あのさ、リリア。キースがエリス嬢に恋愛感情は無いと言っていただろう。あれは本当だと思う。だから良いってことではないんだけど、今後やり直すとして、それが気になるかもしれないと思って」


「そうね、キース様がそこで嘘つけるほど器用ではないのは今日ものすごくわかったわ・・・」


「あいつ、頭いいのになぁ・・・」


心底残念そうにウィル兄さまがぼやく。ウィル兄さまの方が大雑把で何も考えていないように見えるし、成績も中の中なのだけど。


「キース様、どうしちゃったのかしらね。昔はもっと普通に可愛がってくれたし、年上のお兄さんって感じだったんだけれど、なんか今回はちょっと情けないというか頼りないというか・・・」


「あれは無いよなあ・・・リリアの方がよっぽど大人に聞こえたよ。女の子の方が早く大人になると聞いたことはあるけど、4つも違うんだぜ?

・・・俺は、最近のキースはどうかと思うけど、基本的にはいい奴だと思うから、まともにお前を幸せにしてくれるのなら反対はしないが・・・リリアはまだキースがいいのか?」


「わからないわ。半年前はすべてが終わったような気がしてたのだけど。今は学校生活が楽しいし、別にキース様が会いに来なくても気にならないというか・・・。半年前は、これが恋なのかって思って、それで失恋したって思ったけど、本当に恋だったのかしら」


「俺もよくわかんないからなあ。恋とか」


「パン屋のアンナさんがウィル兄さまの初恋だって聞いたけど」


「何でそんなのリリアが知ってるんだよ・・・」


「おばさまが言ってたわ」


「キースの母さんか。そういうの好きそうだもんな。あれだって恋かどうかよくわかんないよ。好きは好きだったけど、結婚したからって絶望したりはしなかったもんなぁ」


「貴族の結婚に恋愛感情は要らないって言うじゃない?でも私たちの場合は家同士の関係をどうこうするという目的もないのだから、お互いに大事にできないなら解消して、せめて利のある結婚をすればいいんだと思うわ」


「お前・・・冷めてるな・・・半年でリリアが大人の女になってしまった・・・」


「変な言い方しないでよ。学校に行って色んな人と知り合って、キース様だけが私の世界じゃないってわかったのよ」


そんな話をウィル兄さまとした次の日、慌てたお父さまに呼ばれた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです^^

明日も20時に投稿予定です。

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