第2話 王都、婚約者との再会とそばにいた人
本日2話目です。よろしくお願いします。
3年後、12歳になった私は王都の学校に入ることになった。王都の学校は6年制で、同じ敷地ではあるが低学年12歳~14歳と高学年15歳~17歳では教室棟が分かれていた。両方の教室棟の間には講堂、図書室、食堂、特別授業の教室など共同で使用する施設があり、歩くと5分近くかかった。その建物の前には中庭と訓練場があった。
入学した日、入学式とオリエンテーションが終わった私をウィル兄さまが迎えに来た。寮生活に必要な物でまだ揃えていなかったものを買いに行くのだ。
「キース兄さまは?」
「キースはクラス委員で入学式の後片付けの手伝いがあるから来れないそうだよ」
「キース兄さまはクラス委員なのね!すごいわ」
「いやぁ、生徒会の手足ってやつだよ。それでもクラスの中で成績がいい奴が選ばれるからすごいと言えばすごいんだけど」
「生徒会って高位貴族の方たちで構成されているんでしょう?接点があるだけでもすごいわ。私なんてそんな上位の方たちの前に出たらカチコチに固まってしまいそう」
「まあ、キースは子爵家だから、伯爵家と縁をつなぐことだって可能だから、うちみたいな男爵家よりは慣れているんだろうな」
この国では基本的に爵位を飛ばして結婚することは推奨されていない。男爵家なら子爵家まで、子爵家なら伯爵家か男爵家だ。事情があれば特に文句は言われないけれども。
キース兄さまは子爵家を継ぐので、伯爵家の令嬢がお嫁に行ける対象ではあるが・・・田舎だしね。もう少し都会に近い領地ならまだしも、見渡す限り畑の領地に来たいお嬢様はあまりいないだろう。それこそ、事情が無い限り。
キース兄さまと会えたのはそれから2日後、少し仲良くなったクラスメイトたちとのランチの後、腹ごなしにと立ち寄った中庭で、やはり散歩中らしかった。
「キース兄さま!」
「リリア・・・入学式では一緒に買い物行けなくてごめんね。ちょっと忙しくてさ」
「いいのよ、クラス委員をしているのでしょう?ウィル兄さまから聞いたわ。すごいのね」
「雑用係みたいなものだけどね」
駆け寄った時にはキース兄さましか見えていなかったが、ふと気が付くとキース兄さまの陰になるような場所に一人の女子生徒が立っていた。艶やかな金髪をハーフアップにした、涼し気な目元の女性。たぶんキース兄さまと同じくらいの年。優しそうな微笑みが妙に大人っぽく見えた。少し距離はあるものの、通りすがりなどではなく、きっと今までキース兄さまといたのだなという立ち姿に気になってチラチラ見てしまう。
「あ、彼女はエリス・サウスフィールド伯爵令嬢。同じクラス委員なんだ。エリィ、彼女はリリア・メロー男爵令嬢・・・婚約者なんだ」
キース兄さまが、私が見たことのない貴公子然とした笑みを彼女に向けながら紹介してくれる。
「初めまして。エリス・サウスフィールドです。よろしくお願いしますわ。キースったらこんな可愛らしい婚約者を隠していただなんて知らなかったわ。今年の新年生かしら?」
「あ・・・リリア・メローと申します。今年入学いたしました。よろしくお願いします」
「初々しくて可愛い婚約者ね、キース」
エリス様は穏やかに微笑んだ。それがとても余裕を持った淑女に見えて思わずうつむいてしまう。なんだか自分が田舎の子猿のように思えてくる。まあお転婆な田舎のチンチクリン娘なのは確かなんだけれど、キース兄さまの前でそれを自覚するのは妙に悔しかった。
「・・・リリアはウィリアムの妹で僕も小さい頃から妹のように可愛がっていたんだ。家同士が仲良くてね、それで婚約することになったんだ」
いつも「俺」と言っていたキース兄さまが「僕」だなんて紳士のような言葉遣いをする。私よりも大人で綺麗な女性に、「婚約者」である私を「妹」と言った。本人の意思ではなく家の意思での婚約と言った。まるで取り繕うように。
その時私は悟ってしまったのだ。キース兄さまにとって私は恋の対象ではないということ。彼の興味がエリス様にあること。そして私はどうやらそのことにショックを受けているということ。
私だっていつまでもキース「兄さま」と呼んでいる。それなのにショックを受けるなんて。私はどれだけ自分勝手なんだろう。恋だとかなんだとかを真剣に考えたこともなかったのに。
私はただ大好きで、ずっと一緒にいたくて、だから婚約できて嬉しくて。これからもずっと一緒にいるんだと、それに疑問を持ったことがなかった。
だから、当たり前じゃないかもしれないことにビックリしているだけ。大好きな「兄さま」がいなくなっちゃうかもしれないことが寂しいだけ。ただそれだけ。
今、感じているこの惨めな気持ち、敗北感、こっちを向いてと縋りたくなる焦り、失うかもしれない絶望感。それは全部気のせい。今まで感じたことのない色んな感情がたとえたった今失った「初恋」かもしれなくても。
婚約は家同士の約束だからいくら弱小貴族でも簡単に解消できないし、できてもエリス様は伯爵令嬢だからキース兄さまの恋は実らないかもしれない。だから予定通り、このまま何事もなく結婚する可能性は高い。
でも、私はなんだか今までとは違う気持ちで、違う関係になるんだろうなと。いつまでもあの頃のままではいられないんだなと。そんなことを、二人を見ながら思っていた。
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